第二十四章:逃走と遭遇
――ごめんなさい、カイル、レリア……
胸の中で何度も、何度も繰り返しながら、ファナは森の中を駆けていた。
風を切る音。木々の枝が頬をかすめ、足元の草がちぎれる。
(これ以上、あの二人を巻き込んじゃダメ……)
ラゼンの森を失ったあの日、すべてを守れなかったことを悔いた。
けれど、今度こそ――何かを守りたいと思った。
だから、逃げる。たった一人で。
それが正しいかどうかも分からないまま、ただ必死に走る。
「……っは、っ、はあ……っ!」
息が切れ、視界がにじむ。それでも足を止めることはできなかった。
(こんな場所で止まったら、絶対に後悔する……)
けれど――
気づいた時には、もう遅かった。
木々の間から、気配が滲み出していた。風とは違う、何かの“動き”が周囲を取り巻いている。
(……なに?)
ファナは息を止め、耳をそばだてた。
枯れ枝を踏みしめるような足音。くすくすと笑うような、けれどどこか低く濁った声。
「……囲まれてる……?」
木々の影から、ゆっくりと姿を現したのは――
小さく、歪んだ緑色の体。
頭身は低く、鋭い牙と短い爪を持ち、粗末な布切れをまとっている。
目はぎらぎらと光り、涎を垂らしながら、じわじわと距離を詰めてきた。
「えっ……これ……絵本でしか……見たことない……」
喉が凍るような恐怖に包まれる。
(ゴブリン……!?)
幼いころ、リッカと一緒に読んだ絵本の中に出てきた――人間や獣人を襲う、山の妖魔。
だが、その姿は絵の中よりもずっと、生々しく、凶暴だった。
「っ……来ないでっ!」
ファナは腰の短剣を抜いた。けれど、手が震えてうまく構えられない。
ゴブリンたちは笑っていた。その笑みは言葉を持たずとも、獲物に出会ったときの本能のそれだった。
(こんなとこで……終わるの?)
彼女の頭に浮かんだのは、カイルとレリアの顔。
自分の名前を呼んでくれた声。
焚き火の光、焼き果実の香り。
(……戻りたい。あの場所に……でも、もう……)
「……っ!」
その瞬間、背後からさらに一体、ファナの後ろに跳びかかろうとする気配――




