第二十二章:新たな道
次の日の朝もまた穏やかに明けた。
三人は焚き火の周りで朝食を囲んでいた。
レリアが薬草入りのスープを温め、カイルは保存食を切り分けていた。
ファナはそれを静かに受け取り、小さく口をつけながら温もりを感じていた。
「さて、次はどこに向かうべきか……」
カイルがふと呟いた。その言葉にレリアも視線を上げ、ファナもまた彼を見つめる。
「帝国から完全に離れるなら、西のセリスタ王国か南方のリオノス連邦だろうな。どちらも帝国の影響は少ない」
レリアが慎重に口を開いた。
「セリスタは確かに安全かもしれないけれど、リオノスは獣人に対しても比較的理解が深いと聞いている
わ。ファナには、その方が居心地が良いかもしれない」
ファナは少し迷うように二人を見比べた。
「……私は、二人がいるならどこでもいい。ただ、安全なら……」
ファナの声は控えめだったが、はっきりとした意志が感じられた。
カイルは小さく頷き、目を細めて地図を広げた。
「安全を考えるならリオノスだな。そこまでの道程は長いが、道中の村で物資を補給しながら行けば問題ないだろう」
レリアがファナを見つめて微笑んだ。
「ファナ、あなたはどう思う?」
ファナは少しだけ微笑みを浮かべて頷いた。
「リオノスに行きたい……そこで、新しい暮らしができるかもしれない……」
「決まりだな」
カイルは軽く肩をすくめた。
「リオノスへ向かおう」
三人は穏やかな朝食を終え、新しい旅への準備を始めた。
再び前を向いて歩き始める、その道の先にある希望を心に抱きながら。
歩きながら、ファナはふと足を止め、小さな声で問いかけた。
「カイル、レリア……どうして私に優しくしてくれるの? 帝国と敵対してまで……私を助けてくれるのは、どうして?」
二人は足を止め、互いに視線を交わした。
カイルが静かな瞳でファナを見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「俺は、昔帝国に奪われたものがある。だから、帝国に屈することは絶対にない。それに……君を放っておけない。それだけだ」
レリアも優しく微笑みながら言った。
「私は医師だから……命を救うことに理由はいらないのよ。あなたが苦しんでいるなら、助けるのが当然だから」
ファナは二人の言葉を静かに受け止め、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
再び歩き出した足取りは、ほんの少しだけ軽くなっていた。
「……ありがとう」
ファナはぽそりと呟いた。
その瞬間、ふっと微笑みを浮かべようとした。
けれど、視界の奥に浮かんだのは──燃えるラゼンの森。
赤い炎。絶叫。黒煙に包まれた家々。焼け落ちる木々。
(……やっぱり……)
その微笑みは、かき消された。
(この二人を、私の巻き添えにしてはいけない……)
ファナはそっと立ち止まり、視線を下げた。
「……ちょっと、お花摘みに……」
唐突にそう言って、焚き火から少し離れた方へ歩き出した。
「どこへ行くんだ?」
カイルが不審そうに問いかけた。
「え……?」
ファナは一瞬、振り返りかけたが、すぐに小さな笑みを作って返した。
「……お花摘みに、行ってくるだけ……」
カイルは眉をひそめ、理解できずに頭に「?」を浮かべていた。
それを見たレリアが、ふっと苦笑しながらフォローを入れる。
「大丈夫よ、カイル。女の子にはそういう時間が必要なの」
「……ふうん」
そうして、ファナは森の奥へと歩き出した。
それが、彼女の姿を見た最後だった。




