第十八章:目覚めの兆し、忍び寄る影
焚き火の灯は、そろそろ熾火となり、深い夜の帳が三人を包んでいた。
温もりに満たされた眠りの空気の中、ファナは毛布に包まれて横たわっていた。
銀灰の髪が頬にかかり、ゆるやかな寝息が小さく聞こえる。
レリアはそっとその顔を見下ろし、ふと微笑んだ。
「……少しだけど、微笑んでるように……見える」
隣でカイルが薪を足しながら眉を上げる。
「あいつが? まさか」
「ほんとよ。ほら、口元……わずかに、ふわって」
「ふわって……便利な言葉だな」
レリアはクスッと笑った。
「でも、たぶん初めて見た……あんな表情」
カイルは焚き火の奥で目を細めた。
「……眠ってる時くらい、悪夢から離れられるといいがな」
その時だった。
ファナの耳がぴくりと動いた。
猫のように、音に反応する本能が目を覚ます。
「……っ」
突然、彼女の身体が軽く跳ね、目を見開いた。
レリアが驚いて覗き込む。
「ファナ……? どうしたの?」
ファナはすぐに上体を起こし、周囲を見回した。
焚き火の温もりなど一瞬で吹き飛ぶほど、全身に戦慄が走っていた。
「……なにか、来る……」
その声はかすれていたが、はっきりと恐怖を帯びていた。
カイルが即座に立ち上がり、剣を引き抜く。
音もなく、鋼の光が闇に映える。
「帝国か?」
だが、ファナは小さく首を横に振った。
「……人じゃない……“何か”……異様な……気配……」
焚き火の影が、揺れた。
風の音。草のさざめき。
だが、その背後に、確かに紛れ込んだ「音」があった。
生き物のものとは違う、不自然な足音。
軽く、だが規則的ではなく、掠れるような踏み音が地を這っていた。
「……気配の形が……掴めない……!」
ファナは耳をふるわせながら、手探りで短剣を探る。
カイルが低く指示を出した。
「レリア、背を庇え。ファナは動くな。……この気配、ただの獣じゃない」
焚き火を囲む空気が、張り詰めていく。
まるで夜そのものが、牙を剥こうとしているような静寂。
ファナは息を殺しながら、微かに呟いた。
「……あれは、あれは……森で見た……“影”と似てる……」
何かが来る。
人ではない何かが、暗闇の奥から彼らを見つめていた。




