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銀髪の猫はなにを願う  作者: 熊猫
第一部

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第十三章:逃げ場と、生きる術

挿絵(By みてみん)

森の木々が夕陽に赤く染まり、かすかな風が血と汗の匂いを運んでいった。

追手を退けたばかりの三人は、しばしの静寂に包まれていた。

ファナは肩で息をし、手にしたままの剣を見つめる。

刃は震え、力のないその手から今にも落ちそうだった。

「……手が、震えてる……」

掠れた声で、ファナは自分の手にそう告げた。

体中に残る帝国兵の攻撃の余韻が、鼓動のように疼く。

「それが“初めて”ってやつだ」

と、カイルが低く言った。

彼は血のついた布を剣の刃からぬぐいながら、ファナに視線を向ける。

「戦い慣れてる奴なんざ、最初からいねぇ。けど――命を守るためには、刃を握る覚悟がいる」

ファナはぎゅっと口を結んだ。息を整えるのに時間がかかる。

レリアはそんな彼女の背をそっと撫でる。

「今日は、あなたが無事でよかった……それだけで十分よ」

「……あたしは……」

ファナは言いかけて、視線を落とした。

「あたしは、足手まといだった」

「違う」

と、カイルの声が少しだけ強くなった。

「お前は逃げきった。戦った。次はもう少し、うまくやればいい」

ファナがゆっくり顔を上げた。

「落ち着ける場所を見つけたら、稽古をつけてやる」

と、カイルは静かに告げた。

「斬る練習じゃねぇ。生きる練習だ」

ファナの喉が鳴った。

泣きたいのをこらえるように、ぎゅっと剣の柄を握りしめたまま頷いた。

カイルは一息つき、焚き火の炎に目を落とした。

「それにしても……このまま逃げてるだけじゃ、いずれまた追いつかれる」

と、彼は言葉を続ける。

「森を抜け、村を越えた今……次に向かうのは、“帝国の手が及ばない大国”だ」

「大国……?」

レリアが眉をひそめた。

「ああ。西にある『セリスタ王国』、あるいは南方の『リオノス連邦』だ。小国じゃ、いざとなった時に帝国に屈する。ファナが見つかれば……間違いなく差し出される」

ファナの瞳が揺れた。

「そんな……」

「世界ってのは残酷だ。綺麗ごとじゃ救えねぇこともある」

「……でも、大国なら助けてくれるの?」

「“助けてくれる可能性がある”ってだけだ。そこから先は、お前自身がどう生きるか次第だ」

焚き火の火がパチ、と弾けた。風が少し強くなり、森の木々がざわめく。

「じゃあ……わたし、そこを目指して……生き延びなきゃいけないんだね」

「そのとおりだ」

「……うん」

ファナは静かに頷いた。

戦うこと、生きること、そして信じること。

まだ遠い道のりだが、今、背中を押してくれる人たちがいる。

そのぬくもりだけを頼りに、また歩き出すしかなかった。

カイルは立ち上がると、地図を広げた。

「夜が明けたら、峠を越える。次の村は補給地点だ。そこから、国境までは……少し長旅になる」

「きっと大丈夫だよ、ファナ」

と、レリアが微笑んだ。

ファナはゆっくりと頷いた。

「うん……大丈夫、きっと」

それは、小さな希望の芽だった。

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