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クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン
第一章 クールな後輩との出会い

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第7話 暇つぶし

 重力に従って、手の中からさいころが落ちていく。最上はじっとその様子を見守っていて、クールな表情は崩していない。ただ、いくらか……額に汗が滲んだようにも見えた。


「「……」」


 二人して無言になってしまう。さいころは反発係数の通りに跳ね、転がる。手から離れた後はその行方を操ることは出来ない。ただの遊びだったはずなのに、まるで賭場にいるような気分だった。


 徐々にさいころの動きが緩くなっていく。俺がクリスマスに一緒に出かけた人とどうなったのか、なんてことを最上が気にする理由は分からない。だけど、この場で本当に六の目を出せるくらいの巡り合わせなら……答えてあげてもいいかな、なんて思った。


「……あっ」

「おっ」


 ピタリと止まったさいころの目は――六だった。最上は一瞬だけハッと目を見開いて、すぐに元の表情に戻る。


「あがりです。私の勝ちですね」

「いやあ、お見事! 俺の負けだよ」


 最上の手によってオレンジのおはじきが一気に進んでいき、ゴールにたどり着いた。最後のマスには「卒業おめでとう!」とだけ書かれている。なかなか面白いすごろくだった。


「それで、先輩」

「なに?」

「クリスマスのこと、教えてください」

「ああ……」


 じっと目を見られる。別に大した答えじゃない。そもそも彼女なんていないし、クリスマスに一緒に出掛けてくれるような女の子なんて一人しかいないもんね。


「その子と今どうなってるか、だっけ?」

「はい」

「一緒に住んでるよ。毎日俺のご飯を『美味しい美味しい』って食べてる」

「……同棲してるんですか? 高校生なのに、随分とふしだらな生活ですね」


 少しだけ、最上の額に皺が寄った気がした。おっ、やっと反応してくれたな。そろそろネタばらしといくか。ここまで気づかれなかったのは意外だったけど――


()なんだから、一緒に住んで当たり前でしょ?」

「……へっ?」


 素の声を初めて聞いた気がする。額に寄っていた皺が消え、最上はきょとんとした表情でこちらを見ていた。


「去年のクリスマスはさ、柚希が塾で冬期講習だったんだよ。夜遅かったから迎えに行って、ついでに街中でイルミネーションとか見物したってわけ」

「……からかったんですか」

「だって嘘は言ってないもん。ケーキも焼いてあげたらさ、すげえ幸せそうに食ってたよ」

「カップルなんですか?」

「えー、向こうはどう思ってるかな……」

「きも」

「冗談だからっ! 怖いから真顔で言わないで!」


 俺と距離を離すように、最上がドン引きしていた。こんな凛々しい子に「きも」とか言われたら泣いちゃうよ。兄妹でクリスマスケーキ囲んだり、ほっぺたについたクリームを取ってあげて舐めたりしているだけなのに。どこがきもいんだろう。


「私、そろそろ帰ります。今日はありがとうございました」

「ああ、もうこんな時間か」


 すごろくに熱中していたから気づかなかったけど、既に窓の外は暗くなっていた。最上は机の横に掛けてあった鞄を取り、口を開けていた。読んでた文庫本をしまうみたいだな――


「ん?」


 文庫本の中盤あたりに、しおりが挟まっていることに気がついた。途中で本を読むのをやめてまで、俺と遊びたかったのか? ……なんて、そんなわけないか。俺はおはじきやらさいころやらを集めて、盤面を畳む。


「このすごろく、どうだった?」

「暇つぶしにはなりました。中身はくだらないですが」

「あはは、高校生の考えることなんてこんなもんだよ」


 最上は鞄を持って、すたすたと扉の方へと歩き出した。ソシャゲやら配信やらでいくらでも時間を消費出来る時代だし、たしかに暇つぶし程度にしかならないかもしれない。俺はそこそこ楽しかったけど。


「では、失礼します」

「うん、お疲れ様ー」


 廊下に出た最上はペコリと頭を下げて、取っ手に手をかけた。扉が閉まる間際、俺はまたいたずらしたくなって……一言。


「……おにい」

「ぷっ」


 扉の向こうから、吹き出し笑いが聞こえたような気がした。


***


「おにいっ、たっだいまー!」

「おう、おかえりー」


 家に帰って夕食の支度をしていると、ジャージ姿の柚希が現れた。かなり遅くまで部活に励んでいたみたいだな。入学したばかりなのに、よく頑張るなあ。


「ごはん食べるでしょ? もうちょっとで出来るから、待ってて」

「うんっ、ありがとーっ!」


 台所のカウンター越しに声を掛けると、柚希が洗面所の方に消えていった。ちゃんと手洗いとうがいをしに行ったのだろう。妹の成長に感心しながら、小皿にすくった味噌汁を味見する。……うん、ちょうどいいな。


「おにいーっ、なんか手伝いあるっ?」

「箸とか持って行って」

「はーい!」


 洗面所から戻ってきた柚希が、食器棚から箸と茶碗を取り出していた。皿に生姜焼きを盛ったり、お椀に味噌汁をよそったりしている間に、柚希も白飯を用意してくれている。すっかり頼れるようになったな。


 食卓に置かれたテーブルに、今日の夕飯が並ぶ。急いで作った割には上出来かな。椅子に腰かけ、食べようとすると……向かい側に座った柚希が何やらテーブルに置いたスマホを操作している。


「飯食ってる時にスマホ触んないの、ばっちいから」

「えーっ、悠と話してるのに」

「最上と?」

「うん。『今日は先輩と遊んだよ。すごく楽しかった』だって」

「……へえ」

「おにいっ、悠と何して遊んだの?」

「すごろく」

「すごろく!?」


 柚希が目を丸くして驚いていた。最上の奴、「暇つぶし」とか言ってたくせに楽しんでいたんじゃないか。俺にもそう言ってくれればいいのに。……ってあれ、柚希がなんだか俺に疑いの目を受けている。


「な、なに?」

「なーんか、悠が『でも、ちょっと先輩に遊ばれすぎちゃった』って言ってるんだけど。おにい……変なことしてないよね?」

「しっ、してないけど!? ちょっとからかっただけだし……」

「ふーん。まったく、私の友達に何を――」


 なんて言いかけたところで、柚希がスマホを見たまま固まった。声にならない声を漏らしていて、顔がみるみる赤くなっていく。


「柚希、どうした?」

「……おおおおおおっ、おにいっ!? 悠に何言ったの!?」

「何って、何も――」


 言ってないよ、と言おうとした瞬間、柚希が画面をこちらに向けてきた。なになに、えーっと……


「『先輩って、柚希と付き合ってるの……?』って……ええええええっ!!!?」

「おっ、おにいってそうだったの!?」

「違う違う違う! お前と付き合いたいとか思ってないから! マジで!」

「えっ、そうなの!? 私は付き合いたいけど!?」

「嘘だろ!?」

「嘘だよ!?」

「嘘なのかよ!?」

「本気だと思ったの!?」


 慌てふためいて訳の分からない問答を繰り返す俺たち。ヤバいヤバい、このままじゃ変な誤解されるって!


「っていうか最上に早く返事しろよ!」

「ちょっ、急かすから間違って『うん』って送っちゃった!」

「なんで!?」

「あっ」

「えっ?」


 柚希がピタっと動きを止めた。そして、再び俺にスマホの画面を見せてきて……一言。


「……ブロックされちゃった」

「あ~~~あ」


 この後、柚希はなんとか最上と電話を繋いで……必死に弁明し、なんとかブロックを解除してもらったのだった。

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