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クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン
第一章 クールな後輩との出会い

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第49話 好きと憧れ

 体育祭はつつがなく進んでいき、残るプログラムも僅かとなった。各クラスが出場する競技はほとんど終了し、あとは「お楽しみ」が催されるのみ。


『運動部対抗リレー、文化部対抗二人三脚に出場される選手は速やかに……』


 グラウンドに集合を知らせるアナウンスが響き渡った。ブルーシートから立ち上がり、スタート位置に向かおうとすると、クラスメイトの男子生徒から話しかけられる。


「詩音、どこ行くんだー?」

「二人三脚、出るからさ。行かないと」

「えっ、文芸部員ってお前だけじゃなかったっけ? 一人で出るの?」

「いや、後輩の子と」

「ふーん……」


 男子は何かを怪しむような眼でじっとこちらを見ている。


「……何?」

「たしか男女一人ずつだよな? 後輩って女子でしょ?」

「まあ、そうだけど」

「羨ましい奴だなあ! お前、春先輩はどうしたんだよ~?」


 またその話か。何度聞いたら気が済むんだ、これ。せめてクラスメイトくらいは理解してくれていると思っていたけどな。


「春先輩とはなんでもないって。何度も言ってるだろ」

「なんだよ~。じゃあさっ、後輩の子とはどうなんだよっ?」

「えっ?」

「今日一緒に走るんだろ!? お前なあ、それで何もないってのはねえだろ~?」


 聞きにくいことを堂々と聞いてくる奴だな! ……とは言っても、「何もない」なんて答えるのも嘘になるか。


 ここ最近、春先輩が明らかに距離を詰めてきていた。しかし、()()()()仲良くする分にはいいのだけど――()()()()()()()心を動かされることはなかった。


「後輩の子は……」


 俺は静かに口を開く。悠は俺にとって何だ? ただの後輩? 妹の親友? クール気取りの食いしん坊? ……違う。ただの後輩とキスをしようとは思わないし、相合傘をして照れることもない。


 今までずっと、悠に対して自分がどう思っているのか分からなかった。だけど最近、春先輩が近づいてきたことで……むしろ、自分の思いがはっきりとした気がする。俺にとって、悠は――


「俺の好きな子だよ。じゃあなっ」

「しっ、詩音!?」


 飛び出すようにして、集合場所に向かって駆けたのだった。


***


「遅いですよ。何してたんですか」

「悪い悪い、お待たせ」


 集合場所に着くと、そこには不機嫌そうな悠が待ち受けていた。相変わらずだけど、こんなところも含めて悠だからなあ。


「……なにニヤついてるんですか」

「別に。バンドつけよっか」

「はい。早くしてください」


 すでに悠は自らの左脚にバンドを巻き付けていた。俺は悠の隣でしゃがみ込み、自分の右脚とバンドを結び始める。この間と違って悠も半ズボンだから、脚を触っていいものか戸惑ってしまうな――


「詩音先輩、触り方が何だかいやらしいんですけど」

「なっ、何もしてないけど!?」

「中学生じゃないんだから、さっさと巻いてください」

「はいはい……」


 相合傘を躊躇していた悠だって中学生並みのマインドじゃないか、という言葉を飲み込み、改めてバンドを巻き始める。じっと黙って作業していると、頭上の方から話しかけられた。


「さっき、お姉ちゃんと何を話していたんですか」

「えっ?」

「三年生のところで話してましたよね。何を言われたんですか」


 待たせただけにしてはやけに不機嫌だとは思ったけど、まさか見られていたとは思わなかった。でも、別に変なことは話していないしな。ここは正直に。


「『二人三脚頑張ってね』って言われただけだよ」

「それだけ、ですか?」

「うん。あとは『二人が走れば、私と詩音くんの噂も消えるから』とも言ってたかな」

「……そうですか」

「よし、オッケー」


 バンドを結び終え、ゆっくりと立ち上がる。周囲を見回すと、ちょうど前のプログラムである部活対抗リレーが始まったところだった。グラウンド中から歓声が巻き起こり、盛り上がっている。


「悠、肩組むよ」

「だから、いちいち許可は」

「いらないんなら、勝手に組む」

「……はい」


 また怒られる前に、悠の肩に右手を乗せた。悠も同様に肩を組み、二人三脚の姿勢が整う。さて、いよいよ始まってしまうのか。


「そろそろ移動しようか」

「……あの」

「ん?」


 足を動かそうとしたところ、悠が口を開いた。表情は暗く、俯いている。


「どうしたの? 怪我でもした?」

「違います。……詩音先輩に、聞いてほしいことがあるんです」

「えっ?」


 聞いてほしいこと? 二人三脚が始まろうとしているこのタイミングで? ……よっぽどのことだろうし、きちんと聞いてあげないとな。


「……分かった。話して」

「はい」


 顔が下を向いていても、声は凛々しい。悠はひと呼吸置いてから――静かに話し始める。


「私には――憧れの人がいます」


 二人三脚の出走まで、あと数分も残されていなかった。

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