第48話 噂の真相
「あれー、詩音くん?」
横に立っていたのは、体操着姿の春先輩。不思議そうに首をかしげて、俺たちのことをじっと見ている。
「春ちゃんじゃーん! ねえねえっ、その子って彼氏?」
「えっ?」
ギャルが俺の方を指さすと、春先輩は困惑したような声を漏らした。……かと思えばニコッと笑って、いつものように快活に話しだす。
「ううん、違うよーっ!」
「えーっ、マジ?」
「うん! この間、ちょっとカラオケで一緒になったってだけ!」
「なーんだ、つまんないのー。行こっ」
春先輩にそう言われた途端、ギャルはあっさり引き下がった。他の三年生を引き連れ、自分のクラスへと戻っていく。……先輩がこんな簡単に噂を否定してくれるなんて、ちょっと拍子抜けだな。
「ごめんねー、詩音くん?」
「ああ、いえ……」
片手を前に掲げ、申し訳なさそうな表情を見せる春先輩。カラオケで二人きりになったり、「私のところに来てくれない」なんて言ったり、思わせぶりな態度をとってきたのにな。
「ん、なんかびっくりしてない?」
「あっさり否定していたので。ちょっと意外というか……」
「えー、だって申し訳ないもん。詩音くんと仲良くなりたいのは本当だけど、変な噂になるのは違うかなって!」
「は、はあ……」
噂に対して「違う」と言ってくれたのはありがたいけど、「詩音くんと仲良くなりたい」とはっきり言ったのもたしかだ。何が目的かは分からないけど、やっぱりこの人には気をつけた方がいいだろうな。
「じゃあ、自分はこれで」
「えー、もっとお話したかったのにい」
「すいません」
立ち去ろうとすると、春先輩がむーっと頬を膨らませて不満そうにしていた。やっぱり愛嬌はあるし、皆を惹きつけるのも分かる。だけど、本心で何を考えているのかまではうかがい知れない。
「そうだっ、二人三脚頑張ってね!」
「あっ、ありがとうございます」
「悠と練習してたんでしょ?」
「本人から聞いたんですか?」
「いや、なんとなく分かったの。ジャージ着て嬉しそうに帰ってきた日があったから」
「へえ……」
「とにかく頑張って! 二人が走ってるのを見れば、みんな私と詩音くんのことなんて噂しなくなると思うからさっ!」
「はっ、はい」
「じゃあね~!」
春先輩は笑顔でこちらに手を振って、去って行った。この人もこの人で、二人三脚で噂をかき消せると思っていたのか。俺たち、まんまと乗せられてる? ……いや、考えても仕方ない。ここは悠と一緒に頑張るだけか。
「そうだっ、リレー!」
こうしちゃいられない、柚希のクラス対抗リレーが始まるんだった。この日のために家からビデオカメラを持ってきたんだし、ちゃんと撮らないとなっ。
急ぎ足で、自分のクラスのブルーシートへと戻っていった俺であった……。




