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クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン
第一章 クールな後輩との出会い

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第45話 相性

「さてっ、二人三脚の練習しよっか!」


 俺と悠の前に立つ柚希が、黒いバンドを手にニッコリとほほ笑んだ。二人三脚というのは、二人が隣り合う脚を結んで一緒に走る競技なわけで。当然ながら、きちんと息を合わせなければまともに前に進むことも出来ない。


「はいっ、悠! 左脚!」

「ん……」

「おにいっ! 右脚!」

「はいよ」


 柚希はしゃがみ込んで、俺たちの足にバンドをぐるぐると巻いた。悠の身体がぴったりと触れ合い、体温が伝わってくる。


「悠、肩組むよ」

「二人三脚なんだから当たり前じゃないですか。いちいち許可なんてとらないでください」

「じゃあ悠から組んでよ」

「……それは話が別じゃないですか」

「えー? そうかな――」

「こらーっ! イチャイチャしないで肩組むっ!!」

「うおっ!?」


 毒にも薬にもならないやり取りをしていたら、柚希が無理やり俺の腕を掴んできて、悠の肩に乗せた。今度は反対に悠の腕を掴み、俺の肩に乗せる。


「もーっ! 真面目に練習する気あるのっ!?」

「ご、ごめん」

「悠も! いちいちツンデレぶって面倒なこと言わない!」

「ツンデレぶってなんかない」

「じゃあ単に面倒くさいだけじゃん!」

「お前は何を言ってるんだよ!?」

「おにいと悠が面倒くさいって話!!」

「俺もなのかよ!?」


 しばらくの間、やいのやいのと言い合ったのであった……。


***


 なんやかんやあってから、俺たちは練習を始めた。まずはゆっくり歩くところから始めて、少しずつスピードを速めていく。走っては止まり、走っては止まった。


「はいっ、もっかいここまで走ってきてっ!」


 数十メートル先で、柚希がパンと手を叩く。それを見てから、俺と悠はバンドで結ばれた足を一歩前に踏み出した。


「いっちに、いっちに……」


 いつもは寡黙な悠が、小さいながらもしっかり掛け声を出していた。相対的に身体の大きい俺のリズムで走ると、悠がついてこれない。それもあり、俺ではなく悠の合図で足を動かすことにしたのだ。だが――


「ひゃっ!?」

「おっと!?」


 悠がバランスを崩し、それに引っ張られて俺まで転びそうになる。俺はなんとか堪えたけれど、悠は地面に手をつきそうになっていた。


「大丈夫か!?」


 反射的に、俺は悠の身体を抱きかかえた。必死に踏みとどまって、両足の力で悠のことを支える。


「だ……大丈夫です。すいません、またご迷惑を」


 悠は姿勢を整えながら、申し訳なさそうな声を出した。最初はうまく走れるのだけれど、どうしても途中で止まってしまうのだ。さっきからこれの繰り返しで、なかなか最後まで走り切れない。


「ちょっとー、大丈夫ー?」


 ずっと向こうにいた柚希も心配そうに駆け寄ってきた。これじゃあ、せっかく練習に付き合ってもらっている柚希にも申し訳ないな。


「ごめん、途中まではうまくいくんだけど」

「う~ん、なんでだろうね。ちゃんと二人でリズム合わせてる?」

「合ってるとは思うんだけど。私が詩音先輩に合わないのかな……」

「悠、珍しく弱気じゃん」

「だって、せっかく先輩が私に合わせて走ってくれてるのに……」


 柚希の言う通り、悠にしては自信なさげだった。やっぱり運動は不得手なんだろうな。俺と悠じゃ体格も違うし、一日練習するだけでは難しいのか――


「うん、分かった! いいこと思いついた!」

「えっ?」

「どうした、柚希?」


 目を見開き、スッとしゃがみこむ柚希。何をするのかと思えば、俺と悠の足からバンドを外していく。


「あれ、外しちゃうのか?」

()()が思い付いたの!」

「へえ……?」


 名案、ねえ。まさかバンドを外したままバレないように走れとでも言うんじゃないだろうな。それだったら転びはしないだろうけど、不正行為としてしょっぴかれておしまいだし。


「悠、ちょっとどいて!」

「えっ? あっ、うん」


 柚希は悠に手招きして、俺の隣から離れさせた。あれ、これじゃ二人三脚にならないじゃないか。


「おいおい、これじゃ意味ないだろ」

「違うってば! いいから右脚出してっ!」


 俺は首をかしげつつ、言われるままに右脚を出す。柚希はぴょんっと跳ねたかと思えば、俺の隣にやってきて、再びしゃがみ込んだ。さっき外したバンドを取り出し、俺の足と自分の足を結び付けている。


「ゆ、柚希?」

「おにいと私で走るのっ!」

「えっ!?」

「悠、見ててっ! 本当の二人三脚ってのはこういうのなんだからっ!」


 柚希は顔を上げ、ニヤッと笑った。それに対して、悠はなんだか表情を暗くしている。……なんだ?


「さっ、走るよ! おにいっ、肩組んでっ!」

「い、いいけどさ。走るって言ったって、一回も――」

「はいっ! いっちに、いっちに!!」

「話聞けよ!?」


 止める間もなく柚希が足を動かしたので、俺も慌てて右足を動かした。最初は柚希のペースに引っ張られ、転びそうだったけど……次第に呼吸が合ってくる。


「「いっちに、いっちに……」」


 どちらが決めたわけでもないけど、自然に掛け声が出てきた。右足を出し、左足を出し、また右足を出す。単純な繰り返しだけど、相手の協力なしではうまくいかない。


「やるじゃんっ、おにい!」

「いや、勝手に合うだけだって」


 柚希とはまだ一度も二人三脚をしたことがなかったのに、自然と歩調が合う。やっぱり兄妹だからかな? どちらにせよ、悠と組んだ時よりは遥かにスムーズだ。


 俺たちはあっという間に公園の端に到達し、そこで足を止めた。スタート地点に立っていた悠は、じっとこちらを見つめていたが……やがて小走りで近づいてきた。


「悠、ちゃんと見てた?」

「……うん。私が走るより、ずっと息ぴったりだった」

「でしょー! やっぱりおにいと相性がいいのは私なのかなー?」

「……」


 柚希が煽るように声を出しても、悠は黙っているばかりだった。柚希の言っていた「名案」って、もしかしてこれのことだったのか?


 俺と柚希の相性をアピールして、悠の嫉妬心を……なんて計画だったんだろうが、流石にうまくいくとは思えん。別に悠はそんなことでヤキモチを焼かないだろうし、簡単に挑発に乗るとは――


「柚希、早くバンド外して」

「ふぇっ?」

「先輩から離れて。私が練習するから」

「ゆ、悠!?」


 いつになくマジな悠の声に、柚希がたじろいでいた。……もしかして、本当に煽られたの? いやいや、そんな馬鹿な――


「詩音先輩」

「な、なに?」

「一緒にお風呂に入るくらいなんですから、柚希と息が合うのは当たり前じゃないですか。偉そうな顔をしないでください」

「入ってないけど!?」

「お姉ちゃんから聞きましたけど。先輩は生徒会長に嘘をついたんですか?」

「こんな時だけ姉の権威を使うの!?」

「さ、早く練習しましょう。柚希より速く走れるようになるまで帰りませんから」

「無茶言うなって!!」


 抵抗する間もなく、悠は自分の足と俺の足を結び付けてしまった。結局この後、俺は夜まで二人三脚を練習することとなり、体力を使い果たしてしまったのだった……。

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