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クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン
第一章 クールな後輩との出会い

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第39話 奪還

「南中生徒会長の座を私から奪った人間、でしょ?」


 その言葉を聞いて、俺は完全に固まってしまう。俺が春先輩から生徒会長の座を奪った……なんていうのは、半分嘘で半分本当のことだ。


「ひ、人聞きが悪いですよ。春先輩が後継に推していた候補に僕が選挙で勝ったってだけじゃないですか」

「あれー? 私のことっ、意外と覚えててくれたんだねっ!」

「引継ぎで何度かお会いしたのは覚えてますけど。それ以上のことはありません」

「ふうん……」


 春先輩がニヤッとほほ笑んだ。その裏には何か考えがありそうにも見える。別に、この人がわざと「奪った」なんて言っただけで、俺が直接的に春先輩を蹴落としたわけじゃない。


 中二の秋から一年に渡って生徒会長を務めた春先輩は、選挙の直前でとある生徒を後継として推薦した。しかし、柚希のおかげで俺の知名度もいくらか上がっていたことと、一応学業成績が良かったこともあって……俺が僅差で当選したのだ。


「あの時はびーっくりしたんだから! 私の後輩が当選するだろうなーって、結構自信あったんだよ?」

「たまたまですって。柚希のおかげですよ」

「相変わらず兄妹仲がいいんだね~、すごいなあ」


 春先輩は再びコップを手に取り、お茶を飲んでいた。俺たちの兄妹仲を「すごい」と思うってことは、やっぱり最上姉妹はあまり仲が良くないのかもしれないな。


「ひとつ聞いていいっ?」

「はい?」

「そもそもー、なんで生徒会長に立候補したの?」

「ああ……」


 なぜ、と聞かれれば答えは一つ。別に生徒会に興味があったわけでもないし、先生に媚を売りたかったわけでもない。もっと単純な理由だ。


「中学の頃、柚希が先輩に嫌がらせされていたんです。一年生なのにあんなに強かったら、そりゃあ嫉妬されますよね」

「それ、詩音くんと関係あるの?」

「だから、アイツを守ろうと思ったんです。僕が目立つ存在になれば、うちの妹にちょっかいをかける輩も減るかと思って」

「へえー、そうなんだ」

「結局、柚希のおかげで当選したようなものなんですけどね。でも実際、僕が会長になってから嫌がらせはだいぶ減ったそうです」

「ふーん……」


 いつもニコニコしている春先輩にしては珍しく、退屈そうに足をぷらぷらと揺らしていた。自分の予想していた回答が得られなかったのだろうか。俺だって別に嘘をついたわけじゃないしなあ。


「私、分かんないなあ」

「えっ?」

「詩音くんはどうして柚希ちゃんにそこまで入れ込むの?」

「逆に聞きますけど、悠にはあまり関わっていないんですか?」

「悠? うーん……心配はしてるけどね。あんまり干渉してないんだー、あの子も嫌だろうし」


 基本的には朗らかなのに、悠のことを話す春先輩は妙にドライだ。なんだか、最上姉妹の関係を探るのはやめた方がよさそうだな。藪をつついて蛇を出しかねない。


「で、詩音くんはどうして柚希ちゃんに構っているの?」

「……理由なんてないです。柚希は――世界で一番可愛い僕の妹ですから」

「あははっ、やっぱり詩音くんはすごいねっ! 私が見込んだだけはあるな~!」


 春先輩がけらけらと笑った。なんて快活な笑い声なんだろう。周りの人間を次々に巻き込み、自分のペースに同調させてしまう能力。……姉妹なのに、これだけ悠と性格が違うのか。


「でもねっ、詩音くん?」

「はいっ!?」


 その瞬間、春先輩がこちらに手を伸ばしてきた。顎をそっと掴まれて、俺は春先輩の方に顔を向けさせられてしまう。……距離が近い。


「柚希ちゃんももう高校生でしょ? 詩音くんはさ、もうちょっと違うことにチャレンジしてみてもいいんじゃないかなーって!」

「それって……」


 春先輩はあざとく目を細めて、じっと俺の方を見た。いつもみんなの前で見せるものとは明らかに異なる表情。思わずたじろいでいると、春先輩がゆっくりと口を開いた。


「詩音くん、私のところに来てくれないっ?」

「……へっ?」


 わずかに俯いて、上目遣いで俺の顔を見る春先輩。……私のところに来てくれない、ってどういう意味だ? 生徒会に来いってことか? それとも、もしくは――


「見つけたっ、おにいーっ!!!!」

「ゆっ、柚希ぃぃぃぃ!!!?」


 バーンと大きな音を立てて扉が開き、ジャージ姿で息を切らした柚希が部屋に入ってきた。俺は驚いて声をあげてしまったが、春先輩は全く動じることなく……柚希に声を掛ける。


「あーっ、柚希ちゃん! こんばんは!」

「こんばんはっ!! お久しぶりですっ!!」

「あれ、知り合いなんですか?」

「うんっ、悠と一緒に歩いてるところによく会うんだっ!」


 なるほど、たしかにそれなら不思議じゃないな。……って、そうじゃなくて! なんで柚希がここにいるんだ!?


「柚希、なんでこんなとこいるんだ!?」

「それはこっちの台詞っ! なんで私の晩御飯ほっぽりだしてカラオケなんかしてるの!!」

「ああ、ごめんね柚希ちゃん。私が無理に誘っちゃったんだ!」

「むー……」


 なんだか不機嫌そうに俺たちのことを見ている柚希。どうするのかと思いきや――次の瞬間、目にも止まらぬ速さで俺の首根っこを掴んできた。


「ぐえええっ!?」

「じゃあっ、私おにいと帰りますからっ! 失礼しますっ!」

「えー、それはないんじゃないかなっ。まだまだ詩音くんとお話したいんだけどな~?」


 春先輩は指を口元に当てて、とぼけたように首をかしげる。たいていの人間ならほだされてしまいそうな雰囲気。しかし、柚希は全く乗せられることなく(俺の首根っこを掴んだまま)先輩に近づいていき、一言。


「私っ! おにいと一緒じゃないとお風呂入れないんでっ!!」

「えーっ!?」


 えーっ!? ……と俺も言いたかったけど、首を絞められてそれどころではなかった。


「じゃあっ、さようなら! 失礼しましたっ!!」

「柚希ぃ、苦しいってばあ……」


 柚希に引きずられるまま、部屋を後にしたのだった……。

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