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クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン
第一章 クールな後輩との出会い

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第37話 誘い

 最上先輩が音頭を取るようになってから、会議は驚くほどスムーズに進んでいった。建設的な意見が次々に飛び交い、あっという間に議題が消化されていく。


「じゃあっ、これで決まりでいいかなっ?」

「異議なし!」

「大丈夫ー!」


 会議室の前方に立つ最上先輩が、笑顔でホワイトボードにペンを走らせていた。この人の凄いところは、話し合いの中に必要以上の対立を生み出さないことだ。みんな先輩の言うことには大人しく従ってしまう。これはもう、天性の才能なんだろうな。


「よしっ、今日の議題は全部終わりだねっ! みんな、長いことお疲れ様っ!」


 最上先輩がペンを置くと、どこからともなく拍手が巻き起こる。俺もついついつられて手を叩いていた。ただの会議でこんなことが起こるなんて、この人じゃなければあり得ないだろうな……。


「さて」


 場が落ち着いたところで、俺は席を立った。他の部長たちは最上先輩のもとに集っていて、がやがやと騒がしい。やっぱり人気者なんだなあ。


 柚希に夕飯を作らないといけないし、さっさと帰ることにするかな。そう思った俺は、出口に向かって歩きだす。しかし、会議室から出ようとすると――後ろから、声を掛けられた。


「待って、詩音くん(・・・・)っ!」

「へっ?」


 快活な声色に戸惑いつつ、後ろを振り向く。そこにいたのは、ニコニコとほほ笑む最上先輩だった。……どうして俺の名を知っているんだろう?


「あのねっ、これから部長のみんなでカラオケに行くんだって。詩音くんもどうかなっ?」

「えっ、会議のとき滅茶苦茶言い争ってませんでした?」

「んー、雨降って地固まるってやつだね! どう? 来ない?」

「えっと……」


 正直、あまり行きたくはない。柚希の夕飯のこともあるし、それに……悠とカラオケに行ったばかりだから、このまま他人の誘いに乗るのは後ろめたい気がした。だいいち他の部長はみんな三年生だから、行ったところで一人ぼっちになる予感しかない。


「お誘いはありがたいんですけど、今日は遠慮しておきます。また機会があったら」

「えー、だめかな? 他の部長と仲良くなっておいた方がいいと思うよっ?」

「それは……そうですけど」

「ここはひとつ、私の顔を立てると思って! ……だめ、かな?」


 最上先輩があざとく首をかしげてきたので、思わずドキッとする。まずいな、どんどん向こうのペースに乗せられてしまう。だけどここは断らないと。悠とあんなことをしておいて、その姉とカラオケに行く(二人きりではないけど)なんてどうかしている。


「すいません、やっぱり今日は行けないです」

「そっか~。ごめんね、無理に誘って!」

「いえ、その……」

「でも、ちょっと残念かも~。さっき助けてあげたしっ、詩音くんに一曲歌ってもらいたかったな~っ!」

「……」


 たしかに、それを言われると弱いな。二人のキャプテンに迫られたときに、最上先輩が助け舟を出してくれたのは事実だし。それにしても、「さっき助けてあげたから」なんて言われて全く恩着せがましい感じがしないのは……やっぱり天性のオーラなんだろうな。


「――それにねっ、詩音くん?」

「へっ!?」


 いつの間にか、最上先輩が距離を詰めてきていた。綺麗な髪が揺れて、悠と同じ匂いがふわっと漂ってくる。完全に虚を突かれて、その場に立ち尽くしていると――最上先輩は、俺の耳元でひっそりと呟いた。


「私、詩音くんに興味があるんだっ。ちょっとお話するだけでいいから、ねっ?」


 そう言って、最上先輩は輝かしい笑顔を見せた。恩を売って断りにくい状況にしてから、あざとく自らの方へ誘う。しかしその行動に悪意はなく、むしろ純然たる善意で構成されている。……この人は底が知れないな。


「分かりました。少しだけなら」

「ほんとっ? 良かった~!」


 最上先輩は胸を撫でおろした。二人きりで行くわけじゃないし、助けてもらった以上は断るのも不義理だろう。何の話をされるのかは分からないけど、ここは大人しく従っておくか。


 なんて思いつつ、他の部長たちと一緒に会議室を後にしたのだった。

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