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クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン
第一章 クールな後輩との出会い

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第32話 密室

 カラオケの受付を済ませた俺たちは、指定された部屋の前にやってきた。悠が相変わらずデカい菓子の箱を抱えているので、俺が扉を開けて中に案内する。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。……あれ、意外と広いですね」

「本当だ」


 広々とした部屋を見て、悠が少し驚いていた。普通のカラオケ店だと少人数で使えるような小さい部屋もあるけど、ここは専門店じゃないしな。五、六人くらいのグループ客が多いんだろう。


「詩音先輩、どう座りますか」


 荷物を抱えたままの悠が尋ねてきた。暗い部屋の中に、モニターに相対する短めのソファがあり、それと直角になるように長めのソファが配置されている。二人で過ごしたい、とは言ってくれたものの……流石にこんな密室で隣同士っていうのはな。


「じゃあ俺、向こうに座るから」

「えっと、私は」

「そっちの広い方座ってよ。気にしないで」

「……」


 部屋の奥に進み、短い方のソファに背負っていたリュックサックを下ろした。悠は黙って俺のことを見ていたが、やがて長い方のソファに鞄とお菓子の箱を置いた。そうだっ、ドリンクバーで飲み物取ってこないと。


「ちょっと飲み物取ってくるよ。何がいい?」

「えっと、じゃあお茶で」

「分かった、待っててね」


 部屋から出ようとする間際、扉の近くに電気のスイッチがあることに気づいた。こんな暗いとアレだし、明るくしておこうかな。


「電気点けるよ」

「えっ? あっ、はい」


 視界がパッと明るくなり、悠が一瞬だけ目を細める。その様子を見てから、部屋を後にした俺であった。


***


 ドリンクバーでコーラとお茶を汲み、両手にコップを持って部屋の前に戻ってきたのだけど……なんだか様子がおかしい。さっき電気を点けたはずなのに、扉のガラスから全く光が漏れていない。


「……あれ?」


 いや、さっき電気点けたよな? 自分がスイッチを押したことも、悠が眩しそうにしていたこともちゃんと記憶にある。まさか……俺がいない間に不逞の輩でも侵入したのか!? ちょっ、洒落にならん!


「悠っ!?」


 コップで両手が塞がっていたので、肩で押すようにして扉を開けた。するとたしかに照明が消えていて、液晶モニターから発せられる光だけが部屋の中を照らしていた。たしか、さっきは長い方のソファに悠が――


「……あれ?」


 視線を向けた先に、いるはずの悠がいない。あるのは丁寧に積まれた俺と悠の荷物だけ。……本当にどこかに誘拐でもされたのか!?


「どうしたんですか、詩音先輩」

「!?」


 思わぬ方向から声が聞こえてきて、跳ね上がるように驚いた。コップに入ったコーラがこぼれそうになるが、なんとか踏みとどまる。今、どこから声が……?


「ゆ、悠? どこにいる?」

「こっちですけど」


 よくよく耳を澄ませてみると、悠は短い方のソファにちゃんと座っていた。特に何かおかしいところはなく、きょとんとした顔で俺の方をじっと見ている。


 あれ、でもおかしいな。俺の荷物が積んであったはずなのに、どうして悠がそこに座っているんだ?


「悠、なんで俺の荷物がこっちにあるの?」

「さっきリュックが自分で歩いていきました」

「そんなわけないけど!?」


 悠、もしかしてわざわざ俺のリュックサックを移動させたのか? いったい何のために?


「あと、さっき電気点けたはずだよね? なんで消えてるの?」

「箱根に出た正八面体を倒すのに電気が必要らしいです」

「そりゃ大ごとだな……」


 って、納得しちゃだめだな。状況を整理すると、悠は俺の荷物を移動させたうえに部屋の電気を消したってことだよな。……それも、こんな密室の中で。


「――詩音先輩」

「へっ!?」


 考え事をしている間に声を掛けられたものだから、素っ頓狂な声を出してしまった。なんだか心臓の鼓動が速い気がする。落ち着け、いつも悠とは部室で二人きりなんだ。今更こんな状況で――


「私の隣、座ってください」


 緊張しないよ、なんて言いきれるほど肝の据わった人間ではない。唾を飲みこみ、心をいくらか落ち着ける。悠は自分の隣のスペースをぽんぽんと叩き、「ここに座って」と言わんばかりだった。


「……分かった」


 コップを両手に持ったまま、悠のもとに向かって一歩を踏み出したのであった。

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