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クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン
第一章 クールな後輩との出会い

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第31話 行先

 店員さんの助言もあり、俺はなんとか景品をゲットできた。ゲームコーナーを出て、悠と二人で歩いている。


「まったく、店員さんに頼むなんて卑怯ですね……」


 なんて文句を垂れつつも、悠はお菓子の箱を大事そうに両手で抱えていた。獲得するまでに投入した金額、なんと三千二百円。ハードカバーのSFを買い渋っていた文学少女とは思えぬ金の使い方である。


「それ、結構中身入ってるんじゃない? 家の人と食べるの?」

「え? 一人で今日中に食べますけど」

「そ、そっか……」


 悠は「何を言っているんだ」と言わんばかりに首をかしげる。この後輩には愚問だったかもしれないな……。


「次はどこ行く? 上の階に戻ると卓球とかビリヤードとかあるよ」

「あんまり得意じゃないので。ビリヤードなんかしたら、間違って先輩の急所を」

「やめてね!?」


 真顔でなんて恐ろしいことを言うんだこの後輩は!? というか急に下ネタぶっ込んできたからビックリした!


「ま、まあ。悠がそう言うならやめておくよ」

「……」


 悠は神妙な面持ちを浮かべた。ピンポンもビリヤードもだめ、となると他に何があったかな。ダーツってのもあるし、ゲームコーナーに戻るって手もある。


「あの、先輩」

「ん?」


 その時、悠がその場に立ち止まった。うまく言葉が出てこないようで、もごもごと口を動かしている。俺も足を止め、悠の話に耳を傾けた。


「どうしたの?」

「ゆっ……」

「ゆ?」

「柚希とは、いつもどこに行って遊ぶんですか?」

「えっ?」


 やっと口を開いたかと思えば、悠は妙なことを言い出した。なんで柚希が出てくるんだろう?


「うーん……カラオケとかかな。柚希は歌うの好きだし」

「詩音先輩は好きじゃないんですか」

「まあ――」


 嫌いじゃないけどね、と言おうとした瞬間だった。そういえば、ここの施設にはカラオケもあったよな。もしかして、悠は俺と柚希がカラオケに行くことを知っていて――わざとその話になるよう仕向けたのかな。


「……」

「詩音先輩?」


 中途半端なところで黙ってしまったから、悠が不思議そうに俺の顔を見上げていた。要するに、この後輩はカラオケに行きたいのかな。だけど自分からは言い出せないから、わざと俺から提案してもらうのを待っている……と。


「あ~、そういえばここにもカラオケあるんだよ」

「……運動じゃなければ、私はそれでいいです」


 悠はわざとらしくそっぽを向いていた。自分から行きたいとは言わず、やっぱり俺から誘うのを待っている感じに見えるな。何回か、前にもこんなことがあったような気がする。


 単に自分から誘うのが恥ずかしいのかな。このまま「カラオケ行こう」ってのも素直すぎる気がするから、ちょっと回り道をしてみるか。


「いや~、俺って音痴だからさ。カラオケはあんまり得意じゃなくて」

「……そうですか」

「あんまり柚希以外の前で歌うのは恥ずかしいかな~って」


 ちなみに、これは嘘だ。実際は柚希と二人でデュエットをして滅茶苦茶盛り上がるのが常である。もちろん点数は九十点を超えることが多い。


「大丈夫ですよ。詩音先輩が歌う時は耳栓するので」

「ひどくない!?」

「ずっと私だけ歌ってもいいですよ? 詩音先輩はマラカス担当で」

「飲み会じゃないんだからさ……」


 悠は興味無いといった感じを装いつつも、ちらちらと俺の顔を窺っていた。はっきりと言葉にしてないだけで、明らかにカラオケに行きたい雰囲気を醸し出しちゃってるもんな。ソワソワしてるし。


「なんでしたら、私が先輩に歌を教えてもいいですよ? 私、こう見えて――」

「悠、なんだかすっごくカラオケに行きたいって感じだね」

「!」


 単刀直入に指摘してみると――反応は激烈だった。さっきまで胸を張って滔々と喋っていたのに、悠は急に黙り込んで何も言わなくなってしまう。


「別にっ、そんなことは……ないですけど……」


 可愛い。図星を突かれたっていうのが見え見えだ。普段はクールを装っているけど、悠の性格にはどことなく子どもっぽい部分がある。別に悪いと言いたいわけじゃなくて、むしろ魅力的だとすら思う。


「んー、でもなー。恥ずかしいしなー」


 俺はちょっと意地悪をしてみることにした。「カラオケ行こうか」と言えば済む話なのに、もう少しこの可愛い後輩の反応を見てみたくなったのだ。


「でもっ、その……」

「やっぱゲームのとこ戻ろっか。それかダーツでもする?」

「えっと、だから……」

「カラオケはさ、いつでも行けるから。また今度でも――」

「詩音先輩っ!」


 珍しく、悠が大きな声を出した。ハッとしてその場に固まっていると、悠が小走りで近寄ってきた。その頬は微かに赤く染まっていて、普段とのギャップに心がときめく。


「ゆ、悠?」

「……ふたり」

「?」

「二人でゆっくりしたいんです。だから……カラオケ、行きませんか」


 照れてしまったのか、悠は抱えているお菓子の箱で顔を隠した。歌いたいからカラオケに行きたいだけなんだろう、なんて悠の気持ちを軽く見ていた自分が恥ずかしく思えてくる。悠は……ただ、二人で過ごしたいだけなんだな。


「……なんか、ごめんね」

「何がですか?」

「いや、気にしないで。行こっか」

「はい」


 悠を引き連れ、カラオケの受付へと歩き出したのだった。

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