表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/46

第3話 想起

 俺の連絡先を貰って、嬉しい? ボールペンを返したくない? ……とてもそんな態度には見えなかった。柚希が話を盛っているのだろうか?


 なんてことを考えながら学校を出て、最寄り駅までの道を柚希と共に歩く。時間にしておよそ十分強の間、俺は最上についての話を聞き続けることになる。


「それでねっ、『ほかに部員がいなくてよかった』とも言ってた!」

「えっ、なんで?」

「んー? なんでだろ。悠って静かだし、人が多いのは嫌いなのかも!」


 柚希は拳を口元に当て、不思議がっていた。話を聞いていると、どうやら最上は相当うちの妹と仲が良いみたいだな。今日の出来事を事細かに話しているみたいだし。ただ、それが全部俺に筒抜けなのは大丈夫なんだろうか……。


「っていうか、柚希と中学の同級生だったとは知らなかったよ。あの最上って子も言ってくれなかったし」

「忘れてたんじゃない? 私も今日筆箱持って来るの忘れたし!」

「お前と一緒にするな」

「いだっ!」


 軽く頭を叩いてやると、柚希はわざとらしく手で抑えて痛がっていた。入学して二日目から筆記用具を忘れるってのは、それはそれで兄として心配だな。うちのクラスに来てくれれば貸してやったのに。


 それにしても、あの最上という子はどうすればいいんだろう。明日から二人で部活に勤しむことになるわけだけど……うちの部、大して活動内容もないしなあ。


「俺、あの子と仲良く出来るかなあ。ちょっと怖いよ」

「えーっ、そうかな? 結構可愛いとこあるのに」

「例えば?」

「おにいと遊びに行ったーとか言うとねっ、ちょっと不機嫌になるの! 私がおにいに取られるーって思ってるのかなっ?」

「へえ……でも、お前の勘違いか勝手な思いこみだと思うけど」

「なんでよー! 悠は私のこと大好きに決まってるもん! きっとヤキモチなのっ!」

「根拠は?」

「私が悠のこと大好きだから!」

「ノーエビデンスじゃねえか」

「違うってばー!」


 柚希はむうっと頬を膨らませ、不満そうにしていた。別に俺が柚希を取ったりしないけどな。カラオケ行ったり映画観たりプール行ったりパフェをあーんしたりとか、兄妹なら当たり前だもんな。……当たり前だよな?


「まあ、なんとかやってみるよ」

「困ったことがあったら私に聞いて! 悠のことならほくろの数まで知ってるから!」

「いくつ?」

「ひいふうみい……よっつくらい?」

「知らないじゃん」

「物の例えなの! 頭良いんだから分かってるでしょー!」

「へいへい」


 また頬を膨らませている柚希に対し、適当に返事をする。まあ、今日会ったばかりだしな。話をする機会はいくらでもあるだろう。


「あっ、悠からなんか来た!」


 柚希がポケットからスマホを取り出し、通知を確認している。結構頻繁にメッセージをやり取りしているんだな。


「……あ~、おにいったらいけないんだー!」

「何の話?」

「あのねっ、悠がねっ……」


 そう言って、柚希は俺にスマホの画面を見せてきた。そこに表示されていたメッセージは――


『でもね、私の顔忘れてたみたい 先輩の方から思い出してほしかったのに、ショックだなー』


 という、寂しそうな一文だった。


***


 次の日の放課後。いつも通りに本を読んで暇を潰していると、部室の扉が開いた。そこに立っていたのは、昨日と同じように凛とした顔つきの最上。


「こんにちは」

「お疲れ様。入ったら?」

「先輩に言われなくても、そうします」


 最上は表情を変えずに扉を閉めて、鞄を持ってこちらに歩み寄ってくる。……やっぱりちょっと怖いなあ。この子が「連絡先もらえて嬉しい」なんて言うとは思えないのだけど。


「座っていいですか?」

「うん」

「失礼します」


 断りを入れてから、最上は俺の向かい側の席に座った。昨日の俺を見習ったのか、鞄の中から文庫本を取り出している。……改めて見ると本当に綺麗な子だな。これから毎日顔を合わせるんだし、慣れないといけないな。


 そうだ、それより伝えないといけないことがある。柚希の話を聞いて、いろいろ記憶を呼び起こした。俺が高一の頃だったか、たしかに柚希が家に友達を連れてきたことがあったと思う。


「ちょっといいかな」

「なんですか?」

「うちの妹が世話になってるみたいだね。ありがとね」

「ああ、柚希ですか。中学の頃からの付き合いってだけです」


 最上は淡々と呟いた。その割には柚希といろいろ喋っているみたいなのにな。恥ずかしくて「友達」とは言えないのかもしれない。って、話がそれてる。本題にいかないとな。


「それで……さ」

「何を言いよどんでいるんですか? はっきり言ってください」

「わ、分かったってば」


 やっぱり怖いっ! 言うのやめようかな!? でも……柚希が見せてくれた文面を見れば、最上がショックを受けていたことはたしかみたいだし。ええいっ、言ってしまおう。


「ちょっと思い出したんだけど、俺と最上って会ったことあるよね?」

「……えっ?」

「たしか、ちょうど一年前くらいに。柚希の部屋でさ、一緒にお菓子食べたでしょ」

「……」


 最上は顔を上げ、きょとんとしていた。たしかに俺はこの子の顔を覚えていなかった。だけど、柚希の話をもとに記憶を辿っていくと……なんとなく、こんな雰囲気の子にお菓子を出した覚えがあるのだ。だから――


「それだけですか?」

「へっ?」

「そんなことを言うためだけに、私に話しかけたんですか?」


 クールな表情とともに、ずいぶんあっさりした返事が来た。……それだけ? 俺、君ががっかりしてたから頑張って思い出したのに?


「いや、本当に思い出しただけって話」

「……そうですか」


 最上はそう返事をすると、手元にあった文庫本で口元を覆った。まるで表情を隠すみたいに。……あれ?


「今、笑った?」

「いえ、なんでも」


 目元が微かに笑った気がしたけど……勘違いか。こんなツーンとした子が笑うなんて、よっぽどのことがないと起こらなさそうだし。きっと気のせいだろう。


 なんてことを思いながら、自分も文庫本を再び開いて、読み始める。こうして、最上悠という後輩女子と放課後を共に過ごす生活が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ