第29話 UFO
高校生が遊びに行く場所、と聞いたら何を想像するだろうか。
パッと思いつくのはカラオケ。みんなで歌って盛り上がろうという極めて単純なレクリエーションだけど、昔からの定番と言っていい。
両親の昔話に出てくるようなブームは無いけれど、ボウリングにも根強い人気がある。スコアが良ければそれでよし、下手だとしてもそれなりに楽しめるものだ。
それからゲームセンターというのもある。ああでもないこうでもないと言いながらUFOキャッチャーで遊んでいると、いつの間にか財布の百円玉が尽きている……なんてこともありがちだ。
俺と悠は今――その三つも含めた様々な娯楽が揃ったアミューズメント施設の中にいる。音ゲーに興じる小学生、ビリヤードに打ち込むご老人、楽し気にピンポンをしているカップルなど、いろいろな人間模様があり、悠は興味深そうに周りを見回していた。
「ここ、初めて来ました」
「本当?」
「はい。あまり縁がなかったので」
俺たちは学校から一駅分だけ電車に乗り、この場所にたどり着いた。あまりに定番すぎる行先かなと思ったけど、悠が面白そうにしてくれているから、俺はほっと胸を撫でおろした。
「何しよっか? 上の階に行くとボウリングがあるよ」
「私、スカートなんですけど」
「あっ、そうか。じゃあ違うのに」
「そんなに私にボウリングをさせたいんですか?」
「違うのって言ったよね!?」
変質者でも見るような目つきに、ついたじろいでしまう。さっきのいじらしい様子はどこへ行ったのか、悠はすっかりいつも通りだった。
「じゃっ、じゃあさ。下の階行ってみない?」
「何があるんですか」
「いいから、ついてきて」
悠を引き連れ、エスカレーターの方に向かって歩きだした。
***
「ここは……」
「すごいでしょ、この数!」
広々とした空間の中に、所狭しとUFOキャッチャーが並べられている。周りを見回してみれば、様々なところで若者たちが景品を獲得しようと躍起になっていた。
「……」
「あれ、悠?」
悠が何も言わずに通路を歩きだしたので、慌てて後ろをついていく。真面目そうだし、あんまりゲームセンターとか行ったことないんだろうな。
「気になる景品があったら、遊んでみたら?」
「いえ、特にないです。知らないアニメのフィギュアなんて、貰っても仕方ないじゃないですか」
「それはまあ、そうかもだけど」
たしかにここらへんの筐体の景品はアニメ関連の商品ばかりみたいだな。遊んでいる時は「絶対に欲しい!」とか思ってるんだけど、いざ獲得すると「なんで必死こいてこんな景品ゲットしたんだろう」なんて虚しくなるのもUFOキャッチャーあるあるだよな。
「こういうのって、店側が必ず利益を出すようになっているんですよね」
「まあ、多分ね」
「だったらやるだけ無駄ですよ。遊ぶ人の気が知れませんね」
「えー、そんな悲しいこと言うなよ」
「だいたい、ちゃんとした店で買えば安いような物を――」
などと言いかけたところで、悠が足を止めた。その視線の先にあるのは一台の筐体。ガラス越しに見えるのは……ああ、デカい菓子の箱か。一箱数百円で買えるような菓子がたくさん詰まったやつ。
「……詩音先輩」
「ん?」
悠はじっと菓子の箱を見つめている。おい。興味出ちゃってるじゃん。お菓子につられちゃってるじゃん。
「やっぱりUFOキャッチャーって夢がありますよね。たったの百円が素敵な景品に化けることもある、大変素晴らしいゲームだと思います」
「さっきと言ってること違くない!?」
「そして、ああいったものをプレイするのは経験が重要だと聞いたことがあります。でも、先輩なら大丈夫ですよね」
「ちょっ、何の話!?」
困惑していると、悠が肩にかけていた鞄から革製の財布を取り出した。何をするのかと思えば、悠はその中から一万円札を取り出し――頭を下げ、俺に差し出してくれる。
「一生のお願いです。あのお菓子……取ってくれませんか」
「買った方が安いよ!?」
俺の絶叫が、ゲームの効果音と混じって響き渡ったのだった――




