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クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン
第一章 クールな後輩との出会い

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第19話 連絡先

「はあっ、はあっ……」


 ある日の放課後、俺は大急ぎで廊下を走っていた。いろいろな用事が重なって、部活に行くのが遅くなってしまったのだ。俺しか部室の鍵を借り方を知らないから、このままじゃ悠を待たせてしまう。


 渡り廊下を通って部室棟に向かう。さらに走っていった先に、部室の前で姿勢良く立ったまま本を読む悠の姿があった。絵になるなあ。


「悪い、遅れた!」

「今来たところなので、大丈夫です」

「そっ、そうか……」


 しかし悠の手元にある文庫本を見ると、既に中盤まで読み進められていた。どうやら後輩に気を遣わせてしまったらしいな、申し訳ない。


「ごめん、すぐ開けるから」


 俺はガチャガチャと鍵を差し込み、扉を開けた。悠は鞄を肩に抱えたまま部室の中に入っていく。その後ろをついていくようにして、俺も部屋の中に足を踏み入れた。


「詩音先輩、何かあったんですか?」

「ちょっと生徒会に呼ばれてたんだよ。これでも部長だしね」

「ああ、そういえば部長でしたね。普段はそんな感じしないですけど」

「失礼な! 総勢二名の大所帯を率いる首領に何を言う!?」

「シスコンなるドン、ですか」

「『し』しか合ってないけど!」

「シスコンは合ってるんですね」


 そういやあの主人公にも妹がいたなあ……。なんて考えていると、悠は机の横に鞄をかけて椅子に座り、また持っていた文庫本を読み始めた。俺も背負っていたリュックサックを下ろし、机の横にかける。


「……」


 椅子に腰かけ、ポケットにしまってあったスマホを手に取った。溜まっていた通知を黙ってチェックしていると、悠が不思議そうな表情を浮かべていた。


「ん、なに?」

「詩音先輩がスマホを見ているの、珍しいですね」

「そう? だって柚希と連絡取り合わないといけないし」

「例えば」

「晩飯のおかずとか、帰りの時間とか、週末遊びに行く予定とか」

「……そうですか」


 悠は興味無さそうに髪を耳にかけつつ、再び本に視線を落とした。自分から聞いてきたくせに、なんだこの後輩は。などと思いつつ、スマホに表示された広告の×印をクリックする。


 そういや、悠の連絡先って電話番号しか知らないな。入部の日に教えてもらって、登録したやつ。今日みたいに俺が遅れることもあるし、LINEとか教えてもらった方がいいかな。


「悠、ちょっといい?」

「はい」


 悠は顔を上げ、こちらを見てきた。俺はQRコードが表示されたスマホを机上に差し出す。


「連絡先、交換してくれない?」

「!?」


 何気なく提案したつもりが、悠は目を丸くして驚いていた。文庫本で口元を隠し、視線を泳がせている。そんなにビックリさせること言ったかな?


「なっ、なんでですか。どうしたんですか急に」

「いや別に、大した理由じゃ――」

「詩音先輩は部活が終わっても私と話がしたいんですか。さ、寂しがり屋さんですね」

「そんなこと言ってないけど!?」

「どうしてもって言うなら交換しますけど。まったく、仕方ないですね」

「もうそれでいいよ……」


 別に寂しがり屋だから連絡したいわけじゃないんだけどな。悠はすぐに自分のスマホを取り出し、アプリを開いていた。「仕方ないですね」とか言っている割に、随分と手際がいい。まるで俺と連絡先を交換するのが嬉しいみたいだけど、まさかな。


「はい、終わりました」

「もう!?」


 いつの間にかQRを読み取っていたみたいで、俺のアカウントに悠が友達として追加されていた。アイコン画像は……近所で撮った野良猫かなんかかな、可愛い。


「先輩のアイコン、なんですかこれ?」

「前に食べて美味かったラーメン」

「どこのお店ですか」

「自分で作ったから、この味は二度と出ないと思うね」

「えー」


 悠は頬を膨らませていた。いつも無表情なのに、今日の悠は感情が表に出ているな。機嫌が良さそうというか、そんな感じに見える。


「何かいいことでもあった?」

「何の話ですか?」

「いや、さっきからご機嫌だからさ」

「……き、気のせいです」


 悠はまた文庫本で口元を隠して、いつも通りに振る舞おうとしている。しかし、この日の悠はずっと机の下で足をぷらぷらと揺らしていた。やっぱり機嫌が良いみたいだったけど、何が理由なのかは分からずじまいだった……。


***


「たっだいまー!」

「おかえりー」


 その日の帰宅後、俺はいつも通りに玄関で柚希を出迎えた。ジャージが汚れているし、今日もソフトテニスを頑張っていたみたいだな。


「柚希、先にお風呂入る?」

「ううん、お腹空いたからご飯食べたい!」

「分かった。じゃあちょっと待っててな」


 靴を脱ぐ妹を尻目に、台所に戻ろうと歩き出す。しかしその直後、柚希に呼び止められた。


「あっ、そうだおにい!」

「えっ?」


 振り返ると、柚希が中途半端に靴を脱いだ状態で立っていた。何か企んでいるようなニヤニヤ顔を浮かべ、口を開く。


「悠に連絡先教えてもらったんでしょ~?」

「えっ? ああ……そうだけど」


 たしかにそうだけど、悠はどうして柚希にそのことを伝えたんだろう。同じ部活の先輩後輩なんだから、それくらい当たり前だと思うんだけどな。


「おにいっ、なんかメッセージ送ってあげなよ!」

「えっ、なんで」

「なんでも! だってさ、こういうのって後輩から送りにくいじゃん!」

「まあ……たしかにな」

「きっと悠も喜ぶからさ! ちゃんと送ってあげてねっ!」

「はいはい」


 俺は再び台所の方に向かって歩きだす。送るにしても、夕飯の後だな。何を送ったもんか――


「隙ありっ!」

「えっ!?」


 気付いた時には、ズボンのポケットにしまってあったスマホが奪い取られていた。驚いて何も出来ないでいると、柚希は素早く俺にスマホを向けてシャッターを切る。


「よしっ、撮れた! 悠に送ろうっ!」

「なんでだよ!?」

「暗証番号は……あっ、やっぱり私の誕生日!」

「勝手にロック開けるなっての!」

「おっと!」


 なんとか止めようと柚希の手を掴もうとするが、上手い身のこなしで避けられてしまう。ソフトテニスで鍛えた敏捷性は伊達じゃないな、なんて感心している間に……柚希は写真を送ってしまった。


「よーしっ! これでオッケー!」

「何がオッケーだよ!?」

「あっ、しまった!」


 柚希が油断した隙を突いて、なんとかスマホを奪還した。すぐに悠とのトーク画面を開き、画像の送信を取り消そうとしたのだが――運の悪いことに「既読」と表示されていた。あ~あ、間抜けな表情で写った俺が悠の目に入っちまった。


「あのなあ柚希、やっていいことと悪いことが――」

「ん、ちょっと待って!」

「え?」


 ジャージのポケットをごそごそと漁り、自分のスマホを取り出す柚希。画面を見て驚いたような顔をして――一言。


「……悠から電話きちゃった!」


 柚希はスマホを耳に当て、通話を開始したのであった――

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