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クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン
第一章 クールな後輩との出会い

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第17話 確信

「えっと……」


 最上はやや俯いて、何か言いたそうにしている。どうしたものかと思っていると、柚希が俺の手から体を降ろして、すっと立ち上がった。


「柚希?」

「あ~、気が変わった!」

「えっ、何が?」

「やっぱり、二番が一番をお姫様抱っこ!!」

「……へっ?」


 柚希はそう言い放つと、俺の後ろを見てニヤっと笑った。まるで何かを確信したような、そんな表情にも見えた。


「だから最上が嫌だろうって――」

「おにいっ、王様の命令は絶対だよっ! ……ねっ、悠?」


 再び後ろを振り向くと、最上はきょとんとして固まっていた。しかし、間もなくいつもの表情で――静かに呟く。


「……うん。王様の命令は絶対」

「い、いいのか?」

「早く終わらせてください。柚希がうるさいですから」


 最上は制服のスカートを整えながら、すっとしゃがみこんだ。……そういえば、別に「抱っこされたくない」と明確に言われたわけじゃなかったな。俺が勝手に「嫌がっている」と思っていただけだし。


「じゃあ、ここ座って」

「はい」


 片膝をつくと、最上は俺の腿の上に座る。顔は向こうを向いていて、どんな表情かは分からない。ただ、その視線の先にいる柚希はいつになくニヤついていた。


「先輩、重かったらすいません」

「別に大丈夫だよ」

「柚希とどっちが重いですか?」

「そりゃ柚希だよ。俺が作った飯食べてるんだから」

「……だって」

「いいじゃん! おにいのご飯美味しいんだから!」


 柚希はむーっと頬を膨らませて地団駄を踏んでいた。二人とも、別に体重なんか気にしなくていいのに。若いうちはたくさん食べたほうがいいに決まってるんだからさ。


「最上、こっち向いて」

「えっ?」

「俺の首、掴まってないと落っこちるよ」

「……はい」


 最上が俺の首に掴まる。顔はこちらに向いているけれど、視線は合わない。……それにしても、こんな近距離で顔を突き合わせたのは初めてだな。つい、見とれてしまいそうになる。


「おにい、何してんの?」

「なんでもない。最上、失礼するよ」

「は、はい」


 了承を得てから、腰と腿の裏に手を入れた。柔らかいながらも芯のある感触に、思わずドキリとしてしまう。


 一方で、最上は珍しくぼーっとしているように見えた。緊張しているのか、あるいは恥ずかしいのか。なんて心の内を推察しながら、俺はぐっと両腕に力を込める。


「じゃ、いい?」

「はい」

「せーのっ」


 ――掛け声を出した瞬間、最上がぎゅっとしがみついてきた。ふわっと良い香りが漂ってきて、クラリとしてしまう。それでも俺は姿勢を崩すことなく、ゆっくりと立ち上がっていった。


「わあっ……!」


 俺たちの様子を見ていた柚希が、上ずった声を漏らした。俺の腕に支えられて、最上の身体が持ち上がっていく。両腕に重さを感じながらも、そうは悟らせまいとさらに力を込める。


「すごいっ、本当にお姫様みたいっ……!」


 柚希は目をキラキラと輝かせていた。コイツはどうしてこんな命令を出したんだろう。単にお姫様抱っこが見たかっただけ? ……それだけなのか?


「最上、大丈夫?」

「いえ……大丈夫です」


 俺の耳元で囁くように、小声で返事する最上。何を思っているのかな。ぎゅっとしがみつかれているから、表情がよく見えない。


「なーんか、恥ずかしいな」

「えっ?」


 なんとなく、声をかける。こんな綺麗な子をお姫様抱っこするなんて緊張するな。ドラマの中ではよく見る光景だけど、いざやってみるとドキドキする。


「どうして恥ずかしいんですか。柚希の時はそう見えませんでしたけど」

「最上みたいな子を抱っこするなんてさ、妹とはわけが違うよ」

「先輩は意外とピュアなんですね」


 いつもの凛とした声で、最上はそう言い放った。もしかすれば、妙な気分になっているのは俺だけなのかもしれない。だけど、身体越しに伝わる最上の拍動は、通常のそれよりも速い気がした。


「二人ともーっ、こっち向いてー!」

「「えっ?」」


 声に反応して、二人で柚希の方を向く。次の瞬間、スマホのシャッター音が鳴り響いて……カメラマンが満足げな表情を浮かべた。


「えへへっ、撮っちゃった!」

「ゆ、柚希!」

「んー? どうしたの?」

「いや……その……」


 不意に撮られて動揺したのか、最上はいつになく慌てた声を上げていた。柚希は相変わらずニヤニヤとしている。こっちはこっちで何を考えているのか分からないな。なんだか、この状況を楽しんでいるようにも見える。


「こら柚希、勝手に写真撮らないの」

「えー、せっかくお似合いなのにい」

「お似合い?」

「あっ! ……おにいっ、今の忘れて!」

「えっ? あっ、うん」


 柚希は手で口元を抑え、「しまった」と言わんばかりだった。俺と最上がお似合い、と言いたいのか? 俺が良くても、最上がそう思わないだろうに。


「じゃあじゃあっ、今度はちゃんと撮るから! 二人ともこっち向いて!」


 なんて思っていると、また柚希がスマホを構えた。どうやら意地でも俺たちのお姫様抱っこを写真に収めたいらしい。


「えー、別にいいのに」

「いいから! 撮るの!」

「後で見たら恥ずかしいじゃん。なあ?」

「……」


 同意を求めて話を振ったのだけど、最上はそっぽを向いてなかなか口を開かない。恋人でもないのにお姫様抱っこなんて、将来黒歴史になってしまいそうだと思うのに。


「……一枚くらい、撮らせたらどうですか」

「えっ?」

「いえ、そうしないと柚希が引き下がらないと思ったので」


 最上は柚希の方を見たままそう言った。だったら止める理由はないけどさ。


「柚希、撮っていいって」

「任せて! 縦で撮るから壁紙にしてねっ!」

「しないけど!?」

「はいっ、笑ってー!」


 柚希が改めてスマホを構えて、こちらに向かって手を振っていた。俺は最上を抱っこする腕に力を込めて、笑顔を作ろうと努める。


「おにいっ、ちゃんと笑って!」

「笑ってるってば!」

「悠も! もっといい顔してよー!」

「してるってば……」


 最上はまたもごもごと言いよどんでいた。部活で唯一の後輩をお姫様抱っこして写真撮影、なんて変な青春だなあ。やっぱり黒歴史になるかもしれん。


 でも――最上となら、いいか。そんな風に考えている自分がいた。


「はいっ、チーズ!」


 ふと気を抜いていた瞬間に、柚希がシャッターを切っていた。笑顔を作ろう、というのが頭から抜けていたから、ひょっとして間抜けな表情だったかも。


「……うん、撮れた!」

「そっか。最上、降りるか?」

「はい。お願いします」


 ゆっくりと腰を落とすと、最上は床に足をつけて俺の腕から降りた。おお、腕が疲れた。まだまだ研鑽が必要かもしれないな。そういや、俺はどんな顔で写ったんだろう。


「柚希、写真見せてよ」

「あっ、うん! ちょっと待っ――」

「柚希っ!」


 俺が歩み寄ろうとした瞬間、それより先に最上が柚希のもとに走っていった。まるでスマホを俺から隠すようにして、柚希の腕を掴む。


「ふえっ!? な、なに悠!?」

「先輩、今日はこれで失礼します。柚希、一緒に帰ろう」

「えっ、帰るの!?」


 最上は机の横に掛けてあった鞄を手に取り、柚希を引きずって部室の出口に向かって歩いていく。あっという間の出来事で、俺はただただ呆然と眺めることしか出来なかった。


「ちょっ、おにいがまだ――」

「いいから。先輩、また明日」

「ああ、うん……」


 去り行く最上の背中を見つめる。……何だろう。何かを忘れている気がする。王様ゲームで命じられたこと。お姫様抱っこの前に、最上に命じられたこと――


「な、なあ!」

「はい?」


 大きな声をあげると、最上がこちらに振り返った。俺はなるべく平静を装って、いつも通りに挨拶をする。


()、また明日な」

「!」


 最上はすぐにこちらから顔を背けて、部室の扉を開けた。いつも通りの冷静さで、廊下に歩き出していく。


 何の返事もなし……か。少し寂しさを覚えつつ、自分も帰ろうと身支度を始めようとしたその刹那。扉の向こうから、たしかにその一言は聞こえてきた。


「お疲れ様です、詩音先輩(・・・・)


 扉の閉まる音が、部室に響き渡った。

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