表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クールを気取って距離を縮めてくる後輩女子の策略が、妹を通じて俺に筒抜けな件について  作者: 古野ジョン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/16

第1話 新入部員

 放課後、窓に背を向け、自分しかいない部室で文庫本を読む。まだ四月、それも昨日に一年生の入学式があったばかり。まだまだ過ごしやすい気温なのだ。


「ふわあ……」


 欠伸をしながら部屋の中を見回した。十畳くらいはありそうな広さに、空き教室から拝借した机と椅子が二組だけ。文芸部、鋭意活動中! ……とは、とても言えない状況だな。


「……」


 部室の扉の方に視線を向ける。廊下では他の文化部が新入生を勧誘しているし、グラウンドでも運動部が威勢の良い掛け声を出している。どの部も人材の確保に精を出しているというわけだ。


 だが、うちの部は一切の勧誘活動をしていない。部長たる俺がじっと部室にこもっているのがその証拠だ。だから入部希望者なんて来るはずもないし――


「すいません、文芸部はこちらで合ってますか?」

「ん?」


 コンコンと扉をノックする音が聞こえたと思えば、女子の声が耳に届いた。まさか新入生? そんな馬鹿な。壁にポスターも貼ってないし、一年生向けのパンフレットにも出稿しなかったし、部室の扉にも「文芸部」なんて一言も書いてないのに。


 そんなことを疑問に思いながら、読んでいた本にしおりを挟んだ。席を立って、扉の方に向かって歩いていく。


「はいはい、今開けまーす」


 スライド式の扉の取っ手を掴み、ゆっくりと開けていく。すると――


「こんにちは」


 凛とした顔立ちに、姿勢の良い立ち姿。表情は気品高く、クールな雰囲気を纏う。思わず見とれてしまいそうな、芸術品のような女子が立っていた。


「……えっ?」


 状況を飲み込めず、目を丸くしてしまう。てっきり物好きな変人でも来るかと思っていたから、まさかこんな正統派美少女が来るなんて露ほども思わなかった。いや、この子が物好きな変人である可能性もあるけどさ!


「……あの」

「はい?」


 扉を開けたまま立ち尽くしていると、目の前の女子が口を開いた。あまりにじっと見てしまったものだから、不審に思われたらしい。


「私の顔に何かついてますか?」

「いっ、いやっ! 目と鼻と口しかついてないけど!」

「……ふざけてるんですか?」

「ふざけてないよ!」

「はあ……。あまり面白くもない冗談ですね」


 女子は呆れたようにため息をついた。いきなり部室にやってきた挙句、他人のことを「面白くもない」認定とはなかなか肝が据わっている。……本当に物好きの変人なのかもしれない。


「それで、ここは文芸部の部室なんですか?」

「そっ、そうだけど。何か用?」


 この子、まったく表情が変わらないな。端正な顔を保ったまま、淡々と言葉を口に出している感じだ。たぶん新入生なんだろうけど、ちゃんと友達出来るのかな……なんて、お節介な心配をしてしまう。


「……入部したいんですけど」

「えっ!?」


 って、本当に入部希望者だったのかよ!? 不意に言われた言葉に、素っ頓狂な声を上げてしまう。そんな俺の様子を見て、女子は不思議そうに首をかしげていた。


「そんなに驚くことですか?」

「えっ、本当にうちの部でいいの?」

「私が入部すると不都合でも?」

「いっ、いやいや! そんなことは無いけど」

「ならどうして驚いているんですか?」

「えっと……」


 どうやって文芸部の存在を知ったのか、そしてなぜ入ろうと思ったのか。聞きたいことはいろいろあるけど……立ち話もなんだしな。


「とりあえず入って。いろいろ説明するから」

「……分かりました。ありがとうございます」


 俺はその女子を招き入れて、部室の扉を閉めた。ピカピカのブレザーに、汚れ一つないリボンを胸につけている。制服に汚れが少ないし、スカートの丈も規定通りだし、やっぱり新入生なんだろうな。


「あの、全身じろじろ見ないでいただけますか?」

「見てないけどっ!?」


 なんか変態扱いされてる!? 部室の中央に立つ女子を見ていただけなのに、何か疑っているような視線を向けられてしまった。とほほ。


「……あなただけ、ですか?」

「何が?」

「他に部員の方はいらっしゃらないんですか?」

「いないよ。今の部員は俺だけ」

「私が入部したら、あなたと二人きりということですか?」

「えっ? まっ、まあそうだけど……」

「そうですか……」


 女子はこちらから視線をそらし、何かを考えている様子。横顔も本当に綺麗で……って、そうじゃない。二人きり――なんて妙なことを言うんだな。俺みたいな男と一緒なんて嫌だな、とか思ってるのかも。だったら無理に入らなくても――


「――分かりました。それで、入部届はどうすればいいですか?」

「入るの!?」


 当然のように入部を宣言され、ただただ驚くばかりだった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ