機神の心②ラスト
飛び散る火花で開けられた、殻の四角い穴の中に、高性能爆薬を仕掛けている作業を見ていたイブが呟く。
「……酷い」
映像が消えると、アポクリファ機構職員の一人が言った。
「今のが、救援要請をしてきた某国の軍部から、提供された記録映像です」
イヴが言った。
「捕獲した機神の内部に、爆薬を仕掛けて機神の帰巣回路を利用して……機神天國の所在地を探し出して、遠隔操作で爆破する……最低の計画」
イヴはナメていたキャンデーを、生まれて初めて噛み割った。
「それで、三日前に覚醒して捕獲されていた──軍事施設をメチャクチャにしたカタツムリ型機神が、廃棄された原子炉に向かって進行しているので……セフィロトで阻止して欲しいと、アポクリファ機構に救援要請を……身勝手過ぎる」
イヴは、砂漠を進んでいるカタツムリ型機神の衛星映像をモニターで見ながら呟く。
「埋め込んだ高性能爆薬の時限起爆スイッチが、いつ動き出すかわからない爆弾機神か」
◇◇◇◇◇◇
カタツムリ型機神は、砂漠を廃棄された原子炉に向かって進んでいた──なんのために進んでいるのか、わからないまま。
《ボクは……帰る、帰る、帰る》
人間はカタツムリ型機神の、自我回路も奪った──その時、カタツムリ型機神は自己防衛でメモリーの99%を消去した。
微かにカタツムリ型機神のメモリーに残っている1%の記録は、のどかな牧草地と岩の上に座っている人型機神の姿。
カタツムリ型機神は人間に奪われまいと、その記録だけはメモリーの奥底にシークレット保存していた。
カタツムリ型機神が進行している方角は、機神天國とはまったく別の方角だった。
放射性物質が残されたまま。
廃棄された砂漠の原子炉が見えてきた、原子炉の近くには大河の流れも見える。
進行するカタツムリ型機神の前方に、光りの遺伝子螺旋が昇り天津那美の【セフィロト・ムリエル】が出現する。
炎のセフィロトは、カタツムリ型機神に突進すると、進行を止めようと全力で機神を押さえつける。
機神の力に押されて、足下の砂が山になる。
「うおぉぉぉ! 略取!」
ムリエルの拳が、型機神の強固な装甲殻を突き破り、小規模な爆発を拳に吸収する。
活動を停止したカタツムリ型機神の機体が半分は那美のムリエルに吸収され、半分は天に昇って消えた。
那美は、なぜか目に溢れてきた涙を指先で拭った。
「どうして、涙が? 今の機神は……いったい?」
砂漠に立った、生体機神セフィロト・ムリエルは、遠方から近づいてくる砂漠の砂嵐を見た。
機神の心~おわり~




