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機神惑星セフィロト ~機神人機の乙女は未来を捨てて人類を守る~  作者: 楠本恵士
ワンエピソード・心【イヴ・アイン・狩摩】
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イヴ・アイン・狩摩の初恋

 その日──学校の中庭にある木陰のベンチに座って本を読みながら。

 いつものペロペロ棒キャンデーで栄養補給をしている、イヴ・アイン・狩摩に話しかけてきた下級生の男子生徒がいた。


「あのぅ、隣に座って少しお話してもいいですか? 先輩」

 読書をしながら、イヴはそっけなく、抑揚がない口調で答える。

「座りたければどうぞ勝手に」

 緊張気味の後輩男子生徒が、少し距離を開けてイヴの隣に座る。


 読書を続けているイヴに、男子生徒は訊ねる。

「何を読んでいるんですか?」

「『特殊相対多様性異生物進化理論』」


「難しい本を読んでいるんですね」

「別に……難しくない」


 イヴの黒髪を微風が揺らす、沈黙が続く。

 意を決した様子で、男子生徒が言った。

「先輩……ずっと見ていました、好きです! つき合ってください! 狩摩先輩」


 本を読みながらイヴが言った。

「ずっと見ていたってのはストーカー行為? つき合うっていうのは、求愛とか性交に繋がる行動の一つ? あたしには、人間の好きって感情は良くわからない」


「ストーカーじゃないです……やっぱり、つき合うなんてムリですよね……すみませんでした、忘れてください」

 年下の男子生徒がベンチから立ち上がって去ろうとした時──本を閉じたイヴが静かな口調で言った。


「その〝つき合う〝とかいうものをやってみよう……聞くところによると〝デート〟とかいうものをするのだろう」

 意外な展開に驚く下級生男子生徒。

「本当ですか⁉ 先輩がボクと、つき合ってくれるんですか?」

「ネフィリムから、人間のコトは、できる限り知るように言われているからな」

「ネフィリム?」


 立ち上がったイヴのスカートの裾を、風が揺らす。

「デートの計画は君に任せる……いつ、どこへ行く?」


  ◆◆◆◆◆◆


 イヴと年下の男子生徒は休日、ゲームセンターにやってきた。

 男子生徒は私服だったが、イヴは制服姿だった。

 イヴが言った。

「外出用の衣服は持ち合わせていないのでな……制服でのデートは不都合か?」

「いえ、そんなコトはありません、似合っています……学校の校則では制服での遊戯施設入居(ゲームセンター)の入店も認められていますから大丈夫です」

「そうか、こういう場所は初めてだから、どうすればいいのか、わからない」

 イヴは男子生徒に、手を差し出して言った。


「検索して調べてみたら、こういう場合のデートでは手をつなぐものなのだろう……あたしの手を握ってくれ」

「先輩……いいんですか?」

「その後の展開も検索して調べた……最終的にハグしてキスまでいくのだろう、キスというのは初体験になるが、人間を知るためには必要だ」

 動揺する年下の男子生徒。

「せ、先輩……初めてのデートでそこまでは」

「そうか……じゃあ、どうするかは君に任せる」


  ◇◇◇◇◇◇


 イヴと男子生徒は、最初にクレーンゲームを楽しむ。

 あと少しのところで、クレーンから落下した景品を見て男子生徒が少しく苦笑する。

「なかなか、景品取れないですね……どうすれば、取れるのかな?」


 クレーンゲームのケースをじっと観察していた──イヴ・狩摩・アインが言った。

「アームのパワーが弱く設定されている……店側のゲットできるものなら取ってみろという……悪意に近い設定がされている……どうしても、さっき狙った景品が欲しいのか?」

「できれば」

「ケースの中の景品の位置は、変えられるのか?」

「お店の人に頼めば」

「それなら、簡単に取れる」

「本当ですか?」


 男子生徒が店員に頼んで景品の位置を変えてもらう。

 その際にイヴがアレコレ景品の位置の指定をして店員からイヤな顔をされた。

「もう少し右に……そう、その位置……景品の頭を斜め左で、うつ伏せにして」


 店員が去るとイヴがコントローラーを操作して、景品をアームでつかむ……安定したアームの移動で景品が一発でゲットできた。


「すごいです先輩、この景品難易度が高かったのに……一回でゲットできるなんて」

「角度と重量、それとバランスを計算した……アームの移動速度も考慮したら取れた」


 イヴと男子生徒は次に、打楽器系のゲームに挑戦した。

 最初に男子生徒がプレイしているのを、イヴは観察する。

 男子生徒は、打撃のポイントを外すたびに声を発する。

「あ、また外した……早いよ」


 次のプレイはイヴと二人で競うコトになった。

「ポイントに流れてきたら合わせて、打てはいいのだな」

 いきなり、イヴは最高難易度を選択する。

 ゲームが開始され、男子生徒は悲鳴を発する。

「ムリムリムリ、こんなのムリ!」

 イヴの方は涼しい顔でパーフェクトに連打して、全国ランキングのトップが表示された。


 驚く男子生徒。

「すごすぎます、先輩……いきなり、全国ランキングトップだなんて」

「そうか、あたしには何がそんなに、凄いのかわからない」


  ◇◇◇◇◇◇


 ゲームセンターを出た、イヴと年下の男子生徒は近くの公園のベンチに座る。

 男子生徒が公園のキッチンカーで売られていた、ソフトクリームを買ってきてイヴに差し出した。

「はい、先輩……ボクのおごりです」

 受け取ったソフトクリームを眺める、イヴが男子生徒に質問する。

「これは食べ物なのか? 雑菌だらけのコレは食べても大丈夫なのか? どうやって食べる」


「先輩……ソフトクリームって、食べたことないんですか? 好きなように食べればいいんですよ」

「そうか……好きなようにか」

 イヴは、コーンの下からかじる……当然、アイスが下からダラダラ垂れてきて、大変な状態になった。

「食べにくい食べ物だな」


 その時──サイレンが鳴り響き、空からクラゲ型の機神が降りてきて街を破壊する。

 冷気を放出するクラゲ型の機神は、人も車も凍結させる。

「ちょっと、この食べかけを持っていてくれ」

 ベンチから立ち上がったイヴが、食べかけのソフトクリームを男子生徒に渡して。

 ベタベタする手でポケットから取り出した、イヤホン型のインカムを片耳に装着して言った。

「『アポクリファ機構』……愛名通りに出現した機神から、一番近くにいるセフィロトは? 天津 那美が一番近くにいるの……大至急、那美を転送」


 光りの螺旋の中に、生体機神『セフィロト・ムリエル』が出現する。

 セフィロト・ムリエルにイヴが言った。

「那美、そのクラゲ型の機神……さっさと倒しちゃって、ムリエルなら略取可能な機神だから……あたしは、デートの続きするから」


 那美が、訝る目でイヴを見ながら言った。

「デートって……なにそれ?」


 数分後──那美はクラゲ型の機神を倒して冷気の力を略取した。


  ◇◇◇◇◇◇


 機神も倒される、イヴと男子生徒はデートを再開する。

 夕暮れの恋人の丘で、向かい合うイヴと男子生徒。

 オレンジ色に染まった顔で、イヴが真剣な口調で言った。

「さあデートの締めくくりだ、あたしに永遠の愛を誓え……そしてハグしてキスして……それから」


 動揺する年下の男子生徒。

「ち、ち、ちょっと待ってください……ボクそこまで望んでいません! いったい、先輩ってなんなんですか?」


 イヴは抑揚が無い声で。

「イヴ・アイン・狩摩」

 と、答えた。


 イヴ・アイン・狩摩の初恋~おわり~

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