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九頭竜 由良〔九歳〕

 海岸にて──

「誰? あたしを呼んでいるのは……一緒に来て、ワタツミ」

 そう言って小学生の由良は岬の洞窟に向かって小走りに走りはじめ、子犬のワタツミは後を追った。


 海水が流れ込む青い洞窟の中を進んだ由良は、海中に青く輝く宝石のような水滴型の石を見つけて拾い上げる。

「綺麗な石」

 由良は、手にしたその石に呼ばれていたような気がして、青い石を持ち帰った。


 枕元に海で拾ってきた青い石を置いて、眠りについた由良は不思議な夢を見た。

 白い砂浜にワンピース姿で立つ由良、傍らにはワタツミもいる。

 前方には青い海と空、海には身体中に鼻がある巨人が膝上まで海に浸かった姿で立っていた。

 鼻の巨人が言った。

「どうする? 海のセフィロトになるか? 我が潮騒の声を聞き取った者よ。お主の気持ちは痛いほどわかる、父と母を殺した機神が憎いのであろう……機神を倒す力を欲しているのなら、力を貸そう……魂核になる覚悟が、その幼き身にあるのなら」

 夢の中で由良は号泣した、ずっと耐え続けていた。

 祖父を心配させたくない一心から、由良は悲しみを隠し涙を感情の奥に封じてきた。

 祖父が寝入り話に語ってくれた、忍者の話の中に出てきた言葉。

「忍者は忍耐強い、涙を見せない」

 その言葉が幼き胸に残った由良は、強い忍者に成りきろうとした……祖父の前では、決して泣くまいと決めた。


 鼻の巨人は、夢の中で号泣している由良にさらに言った。

「辛かったのであろう……生体機神セフィロトになるということは、お主が憎む機神と同じ力を得るということ……耐える覚悟があるか、憎む者と同じ存在になる覚悟があるか」


 唇を噛み締めた由良は、静かにうなづく。

 それを見た鼻のセフィロトもうなづいた。

「心・技・智・体……セフィロト素体、魂核、ブースターの三位一体は、それぞれのセフィロトで割合が異なる。ブースターが智のセフィロトがいれば、魂核が心と体の者もいる……セフィロト素体は基本は体、我は由良のセフィロト体と智を重点に受け持つ……技は由良、由良を癒す心はワタツミ……それで良ければ、心を開いて我を受け入れよ」


 心を開いた由良の体に、光の粒子になった鼻のワン・オリジンセフィロトが流れ込んできたところで、由良は夢から覚めた。

(奇妙な夢を見た)

 涙で濡れた目を指先で拭った由良は、元気に布団から跳ね起きる。


 枕元に置いてあった石は粉々に割れていた、由良は幼いながらに大きな力が身に宿ったのを悟った。


 九頭竜由良〔九歳〕~おわり~

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