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第十九話【機神天國】

 空に海に大地に、次々と出現する機神の軍団──町は破壊され、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。

 サイレンが鳴り響き続け、漂う黒煙の中でパニックから暴動へと発展していく。

 大地が揺れ、空が震え、海が荒ぶる。

 人間の通常兵器は、アポクリファ機構のモノを除いて機神に対して無力だった。


 地上の爆発音が聞こえてくる、アポクリファ機構地下──ネフィリムの部屋に入ったイヴ・アイン・狩摩は、衣服をすべて脱ぎ捨て生まれたままの姿になった。

 ネフィリムの一部が開き、光りに満ちた空間が出現する。


 裸になったイヴから、少し離れた後方に立つ狩摩 断が言った。

「行くのか……」

 前方を見つめたまま答えるイヴ。

「これが、人類絶滅人工知能『メタトロン』と、人類守護人工知能『ネフィリム』が、長年に渡り互いの得た情報を共有して、密かに連絡をとり合って出した……結論だから、機神と動植物と地球の新たな未来のための答え……すべての生物の遺伝子を収納した『ノアの方舟』も出現する」

 イヴの言葉に苦笑する狩摩断。

「その新たな未来に、人類は含まれていないがな……元気で、というのも妙な送る言葉だが……今までオレの娘で、いてくれてありがとう」

「うん、じゃあ行ってくる……お父さん、大好きだよ」

 イヴが光りの中に消えると、ネフィリムの扉は閉じて。

 娘の旅立ちを見届けた断は静かに、ネフィリムの部屋を出た。


  ◇◇◇◇◇◇


 断が部屋を出たすぐ近くの壁に背もたれた、若い男が立っていた。

「娘さんとの挨拶は済ませましたか……狩摩大佐」

 等身機神がらみの事件調査専門の刑事──【伏義(ふぎ)龍之助】だった。

 狩摩 断とは長年の飲み屋仲間だった。

「あぁ……町の状況はどうだ?」

「酷いものですよ、機神災害でメチャクチャです……覚悟を決めた、セフィロトの乙女たちと。アポクリファ機構の陸・海・空も出撃しました。イヴがあらかじめ出撃指示を伝えておいたらしいですね」

「そうか……」

 断は龍之介の左腕に目を向ける、伏義 龍之助の右腕は肘の辺りから、ある事情で銀色の機械義手になっていた。

 断が訊ねる。

「その腕から、等身機神を倒せる弾丸を作り出せるんだな……大型機神を倒す技術にも応用された」

「機神を撃ち抜く弾丸も、元々は機神から生み出された産物なんですがね……さてと、わたしも四天王最後の一人と決着をつけてきますか……近くに来ているのを、この機神の腕が疼いて教えてくれるので」

「無事に戻ってこいとは言わないからな……この戦いに関しては」

「わかっていますよ……これが機神事件専門部署の仕事ですよ……一人しかいない専門部署の刑事ですが」


 そう言って、数歩進んだ伏義は、立ち止まって左手を眺めてから断に質問した。

「もしかして、最近新しい隊員をアポクリファ機構に入れましたか?」

「数週間前に一人、生活班の募集で補充したが──内定していた者が突然、失踪してしまって……その代わりに来たのが、濃緑色のスカーフを首に巻いた、花と植物が好きな優しい女性隊員だ──机の上によく花を飾ってくれる……今なら地下の温室で植物の世話をしていると思うが」

「そうですか」

 何か考えている表情の伏義は、断のところから去っていった。


 地上では、アムリタ海境界海域の青い海や、空や陸から押し寄せてくる。

 機神の大軍を丘の上に立って見ている、セフィロト乙女たちとブースターたちがいた。

 那美が厳しい表情で言った。

「人として逃げるなら今のうち、セフィロト化したら戦いからは引き返せない」

 海の方を見ている由良が言った。

「もとより覚悟の上」

 陸の方を見ている金華が言った。

「にゃは、やるっきゃないない」

 片方の肩を押さえて空を見ている千穂も無言でうなづく、姫が何かを那美に伝えようとするのを、千穂は首を横に振って制する。


 那美が言った。

「みんな、いくよ! 知・心・技・体! 化生覚醒! セフィロトォォォォォォ!」

 光りの遺伝子螺旋が立ち上り、四体のセフィロト乙女が出現した。

 数多くの機神を倒し続け、略取を繰り返し、強くなったセフィロトたちが四方へ散る。 


  ◇◇◇◇◇◇

 同時にアポクリファ機構の深緑の機動・フォンリル隊──紺碧の追撃・ミッドガルト隊──紅蓮の覇者・ワルキューレ隊の三隊も、陸・海・空へと分散して機神軍団を迎え撃つ。


 人類と機神の存亡をかけたハル・メギドの丘での最終決戦が、角笛のような機神の唸り声が響き渡る中で開始された。


  ◇◇◇◇◇◇


 那美たちが仮生覚醒していた頃──アポクリファ機構地下本部の、太陽光と地下水を利用した地下温室の中では、首に濃緑色のスカーフを巻いた女性隊員が、水差しで花に水を与えて世話をしていた。

 温室に入ってきた狩摩 断が、女性隊員に労いの言葉をかける。

「いつもすまないな、わたしが忙しい時に、代わって植物たちの世話をしてもらって」

 濃緑スカーフの女性隊員は、断に向かって微笑む。

「気にしないでください、植物の世話は好きですから」

 狩摩 断は蕾の花に近づいて眺める。

「君は本当に植物を育てるのが上手いな、まるで植物と意思の疏通をしているようだ」

「そんな……大佐の方が植物を大切にしてくれています、大佐は雑草さえも育てていますから……戦況はどうなっていますか?」

 女性隊員に背を向けて、葉っぱや茎についていた害虫を排除しながら狩摩 断が言った。

「最終決戦がはじまったみたいだ……人類か、機神か、どちらが勝ってどうなるかは……まったくわからん」

「そうですね、戦いの行方は、大佐でもわかりませんね」

 虫をつまみ捨てている、狩摩 断の背中を眺めている女性隊員の表情が、険しい表情へと変貌する。


 突然、女性隊員の顔が静かに金属のバラ顔に変わり、体から伸びたトゲ状の機械ツルが、狩摩 断の背後から心臓を貫いた。

 無言で、その場に倒れる狩摩 断。


 アポクリファ機構に潜り込んで、諜報活動を続けていた妖花将軍【ガルラウネ・ブライド】が、花の中に倒れた狩摩 断を見下ろしながら呟く。

「まったく、あたしが機神だと気づきませんでしたね大佐……植物を愛してくれたコトには感謝します。あなたが人間ではなく機神だったら良かった……残念です」

 機械バラ頭のまま振り返った、ガルラウネの顔中央を対機神用の一発の弾丸が貫く。

 後方に倒れ機能を停止する妖花将軍。


 ガルラウネに向かって、発砲したばかりの銃を構え立つ伏義の姿があった。

 伏義は倒れたガルラウネに近づくと、二発・三発と対機神用の弾丸をガルラウネに撃ち込み、無言で地下温室から去っていった。

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