私の両親とそのまわりの人のはなし。
人は恋をする生き物。と決定的に決めつけると、今の時代は多様性が重視される時代だからどうしてもあーだこーだ言われてしまう。けど、生物学的には一般的に男と女が恋に発展しなければ人は誕生しない。その恋がたとえ中身のない、からっぽの状態に近いものだとしても。
先に言っておくと、両親の結婚式の時に私はもう胎児として出席していた。
俗に言う「デキ婚」である。
母は顔だけ見ると世間では「美人さん」という部類に入るのだろう。子供の私から見ても顔のパーツが整っていて実年齢より若く見える。何処ぞの婚活パーティー知り合ったのかは詳しく聞いたことがないが、「面食い」な父は母の外見を見て惚れてしまったのだ。
これも俗に言う「一目惚れ」というものだろう。
未だに父好みの女優はどことなく母に似ている。この「面食い」な父と「顔だけ」な母のおかげで私自身は、悲惨な幼少期と中学時代を歩むとは知らずに。
私が誕生する前に、母と父のはなしをしよう。
母はサラリーマンの祖父と専業主婦の祖母の長女として誕生した。祖母は、母が産まれる前にも命を授かっていたそうだが、空に帰ってしまったという。しばらくして、4歳差の妹(叔母)が誕生し、祖母の両親(曾祖母・曾祖父)と家族6人で暮らしていた。祖母は孫の私から見ても厳格な人だと幼少期からすでに分かっていた。母が小学生の頃、祖母と喧嘩をしてランドセルを投げられたとか。それも玄関のドアを突き破ったらしい。今も尚当時からしてみても強烈過ぎるのではないだろうか。それに祖母は、現代で言うコスパとタイパ重視で家事をこなすタイプだったからか、娘たちには「お手伝い」という概念がほぼ無いまま育った。それに比べて祖父は、祖母とは正反対の人格。欲しいおもちゃを言えば仕事帰りに買ってきてくれるなんてこともしょっちゅうあったそう。家の事こそしなかったが、とにかく娘たちに優しすぎる性格で、家では肩身が狭かった。当然のことだろう。なんてったって妻の存在が強すぎる。それに義理の両親が一つ同じ屋根の下ならなおさらだ。こんな家庭で育ったからか、母は少し、いやかなり曲がった人格になってしまった。後に「発達障害」と診断されるほどに。
そもそも母は、「親」になってはいけない人だったのだ。
一方父は、出版社で編集長を務める祖父と色彩を職にしている祖母の次男として誕生した。どちらかといえば中性的な顔立ちをしており、初めて父の幼少期の写真を見た時は私すぎて驚いたほど。そんな祖母と祖父の馴れ初めは、仕事関係だった。
取引先が「運命の出会い」と言ったところだろうか。
祖父は私が産まれる前に他界しており、詳しい人格は知らないが、父によると、祖父は父親らしい人ではなかったそう。第一、父親らしいとは一体何なのかといったところだが、出張で家を空けることが多く、仕事一筋な面があった。タバコは吸うけど酒はめっぽう弱い。車の免許も持っていない。当時の成人男性では珍しい部類の人だったという。それに比べて祖母は、孫の私から見ても、アグレッシブで優しく、猫が大好きで世話焼きな人といった印象。父によれば、祖父の代わりに車の重要性を重んじて40過ぎに免許を取得したとか。そんな祖母も結婚する前はかなりモテたらしく、山下公園でカーナンパをよくされたそう。カーナンパを全く知らない私の世代からしたら良さが全く分からないのだが、それもその当時は若者間での流行りだったのだろうか。そんなわけで、世代的に見ると良い意味で少し変わった両親の元で育った父は、自由奔放だけど芯がある。そんな人格となった。
父は母以上に私の中では最高の「親」だ。
そんな両親の共通する唯一の点と言えば、どちらも恋人運が無さすぎる。という点であろう。母は父と出会う前にDV気質の男と付き合っていた。まぁまぁな被害を受けたそうで、時には警察沙汰にもなったらしい。父は学生時代3年も付き合っていた女を自ら振っている。理由は、飽きたから。娘ながら人としてとんでもない奴だと思う。男は皆こういうものなのだろうか。私自身、"今のところ"彼氏いない歴=年齢なので、男の素質がいまいちよく分からない。今までに元カノのはなしにこれ以上首を突っ込んだことはないが、きっと私が来なければ父は母を捨てていたに違いないだろう。
そんなわけで2人は、授かってしまった命(私)の為に結婚するのだが、母の曾祖母は父に結婚前こんな事を言ったという。
「本当にこの娘と結婚して大丈夫?」と。
この言葉が後に、父の人生も波乱に導く前兆となる。