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冬の光とクリスマスの約束


十二月の街は、クリスマスの魔法に包まれていた。

街路樹には色とりどりのイルミネーションが瞬き、商店街のショーウィンドウには雪の結晶やサンタの飾りが輝いている。

冷たい冬の風が頬を撫で、吐息は白く舞い、まるで物語の新しいページが開かれるような予感を運んでいた。

駅前の広場では、大きなクリスマスツリーが暖かな光を放ち、行き交う人々の笑顔を優しく照らしていた。

早希は駅前の広場で、詩織との待ち合わせをしていた。

19歳の彼女は、屋敷のメイドとしての普段の装いとは異なり、今日はオフの日らしく私服姿だった。

白いニットのセーターに、ふわっとしたベージュのコート、チェック柄のマフラー、タイトなデニムにショートブーツという出立ち。

長い栗色の髪はゆるくウェーブをかけ、肩に軽くかかっている。

彼女は小さな紙袋を手に、広場のクリスマスツリーを見上げながら、そっと微笑んだ。

ツリーの光がキラキラと反射し、冬の空気を温かく彩っていた。


「クリスマス、ほんとキラキラしてるな…」


早希はマフラーを軽く直し、広場の時計をちらりと見た、約束の時間まであと少し。

彼女の胸には、詩織との初めての「お出かけ」への期待と、ほのかなドキドキが広がっていた、詩織が提案してくれたクリスマスのデート。

あの時の詩織の真剣な瞳と、頬を赤らめた小さな勇気が、早希の心に温かな光を灯していた。

そんなことを考えていると、広場の向こうから小さな人影が近づいてくるのが見えた。

早希は目を細め、そっと手を振った、そこにいたのは、詩織だった。

13歳の中学生の女の子。いつもはセーラー服だが、今日はクリスマスらしい可愛らしい出立ち。

白いふわふわのニットカーディガンに、少し丈の短いフレアスカート、黒いタイツにショートブーツ、黒いミディアムヘアはハーフアップにまとめ、リボンのヘアピンが揺れている。

大きな瞳はキラキラと輝き、手には小さな紙袋と、詩織らしい小さな布バッグを抱えていた。


「詩織ちゃん! めっちゃ可愛い! クリスマスっぽい雰囲気、ばっちりだね!」


早希は笑顔で近づき、詩織に声をかけた。詩織はすぐに頬を赤らめて笑顔になった。

瞳には嬉しさと少しの照れが混じっていた。


「う、うん…! こんにちは、早希さん…! あの…私、ちょっと、ドキドキして…」


詩織の声は小さく、冬の風に溶けそうなほど儚かった、早希はそんな詩織の様子にくすりと笑い、そっと彼女の隣に立つ。


「めっちゃ似合ってるよ! スカートもタイツも、詩織ちゃんっぽくて可愛い! ね、クリスマスデート、どこから行こう?」


早希の明るい声に、詩織の緊張が少し解けたようだった、彼女は紙袋をぎゅっと握り、恥ずかしそうに微笑んだ。


「うん…あの、イルミネーション、見たいなって…。あと、クリスマスマーケット、ちょっと気になる…」


「いいね! じゃあ、まずマーケット行って、あったかいもの飲もうか! イルミネーションは暗くなってからがきれいだよね」


早希の提案に、詩織はこくこくと頷き、早希の後ろについて歩き始めた、二人の足音が、広場の石畳に小さく響く。

クリスマスツリーの光が二人を包み、冬の風がマフラーやスカートをそっと揺らした。

まるで街全体が、二人の小さな冒険を見守っているようだった。

クリスマスマーケットは、駅から少し歩いた公園で開催されていた。

木製の屋台が並び、シナモンの香りが漂うホットチョコレートや、焼きたてのクッキー、キラキラしたオーナメントが並んでいる、子どもたちの笑い声や、カップルが手をつないで歩く姿が、冬の空気を温かくしていた。

早希と詩織は、屋台の間をゆっくり歩きながら、目を輝かせて周りを見回した。


「わぁ、めっちゃ賑やか! 詩織ちゃん、ホットチョコレート飲む? それとも、なんか甘いもの食べたい?」


早希が屋台を指差しながら尋ねると、詩織は少し考え込み、恥ずかしそうに答えた。


「うん…ホットチョコレート、飲みたい…。あの、早希さんと、一緒に飲めたら…嬉しいな…」


「いいね! じゃあ、二人でホットチョコレートにしよう!」


早希は笑顔で屋台に並び、二人分のホットチョコレートを買った。

紙カップから立ち上る湯気が、冬の冷たい空気に白く舞う。早希は詩織にカップを渡し、二人で公園のベンチに腰を下ろした。


「あったかいね…」


詩織はカップを両手で包み、そっと一口飲んだ。

チョコレートの甘い香りが鼻をくすぐり、頬がほんのり赤くなる、早希もカップを手に、詩織の様子を微笑ましく眺めた。


「うん、めっちゃ美味しい! 詩織ちゃん、クリスマスマーケット、初めて?」


詩織はこくこくと頷き、目を輝かせた。


「うん…初めてなの。なんか…絵本の中みたい…。キラキラしてて、あったかくて…」


「でしょ? クリスマスって、なんか特別だよね。詩織ちゃんと一緒だと、もっと特別な感じ!」


早希の言葉に、詩織の胸がふわりと温かくなった。彼女はカップを握り、恥ずかしそうに笑った。


「早希さんと…一緒だと、なんでも、キラキラしてる気がする…」


二人は顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。冬の陽光がベンチを包み、マーケットの喧騒が遠くで響く。

まるでこの瞬間が、物語の輝くページのように、鮮やかに刻まれていく。

マーケットを一通り見て回った後、二人はイルミネーションが輝く街のメインストリートへ向かった。

街路樹には青や白の光が瞬き、ビルの壁には雪の結晶のプロジェクションが映し出されている、詩織は目を輝かせ、時折立ち止まってイルミネーションを見つめた。


「早希さん…見て、この光…! なんか、星が降ってきたみたい…!」


詩織の声は弾んでいた。早希はそんな彼女の様子に心を奪われ、そっと答えた。


「ほんとだ! 詩織ちゃん、詩みたいなこと言うね。星が降るイルミネーション、めっちゃ素敵!」


詩織は少し照れながら、紙袋から小さな栞を取り出した。

紙製の栞には、手描きのクリスマスツリーのイラストが輝くように描かれている。緑と金の色合いが、詩織の丁寧な手仕事を物語っていた。


「これ…早希さんに、と思って…。クリスマス、楽しみにしてたから…描いてみたの…」


早希は栞を受け取り、目を細めた。ツリーのイラストは少し素朴だが、クリスマスの温かな雰囲気が感じられた。


「わぁ、めっちゃ可愛い! 詩織ちゃん、ほんとセンスあるね! これ、クリスマスの宝物にするよ!」


詩織の頬が赤くなり、彼女はベンチの上で足を小さく揺らした。


「ほ、ほんと…? ちょっと、星の部分、難しかったけど…早希さんが喜んでくれるなら、嬉しい…」


早希は栞を手に、大切そうに眺めた。


「詩織ちゃんの栞、いつも心温まるんだよね。ね、クリスマスデート、どんな感じ? 楽しい?」


詩織は目を輝かせ、こくこくと頷いた。


「うん…! 早希さんと一緒だと…なんか、全部が特別な感じ…。イルミネーションも、ホットチョコレートも…」


早希は詩織の手をそっと握り、微笑んだ。


「私も、詩織ちゃんと一緒だと、クリスマスがもっとキラキラしてるよ。ね、夜ご飯、どこかで食べようか? クリスマスっぽいとこ、探してみる?」

詩織はパッと笑顔になり、頷いた。


「うん! クリスマスっぽい…ケーキとか、食べたいな…!」


二人はイルミネーションの街を歩きながら、小さなカフェに入った。

店内はクリスマスの飾りで彩られ、暖炉の火がパチパチと音を立てていた。

テーブルには小さなツリーが置かれ、キャンドルの光が揺れる。

二人はクリスマス限定のケーキセットを注文し、窓際の席でケーキを分け合った。


「このケーキ、めっちゃ美味しい! 詩織ちゃん、イチゴのやつ、好き?」


早希がフォークでケーキを差し出すと、詩織は少し照れながら一口食べ、目を細めた。


「うん…! 甘くて、ふわふわで…。早希さんと食べると、もっと美味しい…」


二人はケーキを食べながら、他愛もない話を続けた。

詩織は夏の花火大会や文化祭の思い出を振り返り、早希は屋敷でのクリスマスの準備や、庭に飾った小さなツリーの話を笑いながら語った。

詩織の純粋な笑顔と、早希の穏やかな声が、カフェの暖かな空気に溶け合う。

やがて、夜が深まり、イルミネーションが一層輝きを増した。

詩織は時計を見て、ちょっと名残惜しそうに言った。


「あ…もう、こんな時間…。お母さん、そろそろ心配するから…帰らなきゃ…」


「そっか。じゃあ、駅まで送るよ。今日、めっちゃ楽しかった! 詩織ちゃん、ありがとね」


早希の言葉に、詩織はパッと笑顔になり、こくこくと頷いた。


「うん…! 早希さん、ありがとう…! クリスマス、ほんと、特別な日になった…!」


二人はカフェを出て、イルミネーションの街を駅まで歩いた。

冬の風が冷たく頬を刺すが、二人で並んで歩く時間は、まるで暖かな光に包まれているようだった。

駅に着くと、詩織は振り返り、恥ずかしそうに手を振った。


「早希さん…また、会おうね…!」


「うん、ぜったい! 詩織ちゃん、クリスマスデート、最高だったよ! また来年も、ね!」


早希も笑顔で手を振り返し、詩織の小さな背中が改札を抜けるのを見送った。イルミネーションの光が、詩織の姿をキラキラと照らす。


「詩織ちゃん、ほんと…可愛かったな」


早希は小さく呟き、紙袋の中の栞を取り出した。

クリスマスツリーのイラストをそっと撫で、目を細める。詩織の純粋さと小さな勇気が、冬の星のように心に輝いていた。

一方、詩織は電車に揺られながら、ポケットの中の栞をそっと撫でた。

早希の優しい声と、クリスマスの穏やかな時間が、胸の奥でキラキラと響いている、イルミネーションやケーキ、早希との時間が、彼女の心を軽やかにしていた。

彼女は本の世界が大好きだったけれど、早希と過ごしたクリスマスは、どんな物語よりも鮮やかだった。


「早希さん…また、会いたいな…」


詩織は小さく呟き、頬を赤らめる、十二月の夜の風が、電車の窓をそっと叩き、新しい物語の続きを予感させた。

街のイルミネーションは、今日も二人の時間を静かに見守っていた。

クリスマスツリーの光が夜空に輝き、冬の星々がそっと囁く中、早希と詩織の小さな絆は、冬の光に照らされて、ゆっくりと花開いていくのだった。

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