愛九話「愛のもとに」F
ーー6月20日午前8時10分ーー
加持先生や、一般生徒は昨日の不思議な体験をしなかったのだと俺は結論づけた。
真緑の空間に生き物のように蠢く木々の不気味さ、謎の少女に加えて血で染められた灯篭。
普通の人間ならネタとして必ず話題にあげるだろう。
会話を嫌うこの俺でさえ、もし友達がいれば事細かに話していたくらいに、奇妙な非日常の体験であった。
皆が体験すればすぐに話したくなるほどの体験談は未だ教室では姿を見せていなかった。
であるならば昨日のことは俺だけしか知らない出来事なのだろう。
少し嬉しい気分もある。
しかし俺の奇怪な動きを見た生徒は俺と同じ体験をしたのだろうか。
疑問は積もるばかりである。
皆が体験すればすぐに話したくなるほどの体験談は未だ教室では姿を見せていなかった。
窓際に座る俺はそのまま外の世界をみつめ、道路を歩いている幼稚園児を見出した。
そんな露離婚と疑われる俺でも幼稚園児時代には幼馴染がいた。
容姿端麗だと一目でわかるくらいに美麗な顔立ちの二人の少女。彼女たちは彼女たち同士で遊ぶ際に俺にいつも声をかけてくれていた。
そのおかげで俺は幼稚園児時代友達という存在がいて、ぼっちでなかった。
しかしながら嫉妬した男子たちのせいでついぞ男の友達は出来なかったが、それでもたのしかったといえる。
しかしそれ以降友達らしき人は俺の目の前に現れていない。
俺が完璧受けなタイプだからか臆病だからか、真相は誰にもわからないがとにかく友達はできなかった。
そもそも友達が現れるという表現自体が良くないのかもしれない。
友達は作るもの。そして利用するもの。
小学校の先生に習ったことだ。改変はされているが。
だからこそ、当時の友達がいた思い出は大切で大昔とまで言える幼稚園時代を今でも事細かに思い出せるのはそういう理由だ。
しかしながら、今のこの俺をみれば幼稚園児の時でさえ友達はいなかったはずだ。
有り得る話じゃない。
しかしその思い出は、幼稚園時代に恋愛感情ましてや男女の区別も付いていなかった俺は見事に人生で最初で最後のモテ期を見逃してしまい、この幼稚園時代の思い出は楽しいと同時に悔しい思い出でもある。
そんな空は落ちてこないか、という杞憂のように無意味で馬鹿馬鹿しいこと考えていた俺の頭は一時間目の授業の終わりを告げるチャイムの音を聞いた。
いつも通り俺は自席に座ったまま手早く次の授業の用意を行い引き出しに隠し入れていたライトノベルを取り出した。
「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」という題名のこの本に萌えキャラという立ち位置のキャラは登場しないが、驚くほど精緻な表現とシナリオ構成がこの本の最大の魅力だと思う。
「俺の脳内選択肢が、学園ラブコメを全力で邪魔してくる」は先ほどの俺ガイルに比べて萌え萌えしているが俺はどちらの作品も大好きだ。
そんな驚くほどバカな考えを脳で描きながらラノベをよんでいると、後ろから唐突に声をかけられた。
「能登くん。ちょっといいかな。」
そんな声がした。
どうしようかと頭の中で思考を張り巡らせる。まるで蜘蛛のように精密でかつ耐久性のある思考を。
蜘蛛はネバネバした糸そうでない糸を使い分けるらしい。
俄然、俺はそんな器用でないのですべての思考が醜く捻くれているのだが。
そんなボッチの王様こと俺はただの捻くれ者ではない。
ぼっちを超越せしエターナルぼっちだ。まあ王様って言っても従える民がいないから、自称王様なのだけどね。
そんな俺は厨二でぼっちだからこう考える。
今のは俺に向けたお言葉じゃない。
俺に声かける人間などこの世に存在しない。
俺に意識を向けるやつなどいないはずだ。
俺に話しかければ秘密組織GSがお前を襲う。
そんな危険を犯すやつはいないし、その事実を知っているから自分から話しかけない。
だから俺は孤独というレッテルを自ら貼って周りを救っているのだ。そんな我が背中に涙せよ。
もちろん全くの嘘だが。
そう考えていると再び声がかかる。
「能登まさしくん。答えてよ。」
今度は声と共に肩まで叩かれた。
流石にこの俺でも無視はできない。
もうあとは知らないぞ。
お前は俺に話しかけたせいで死んでしまうかもしれない。
しかしそれでも声をかけたのはお前の責任だ。俺は責任を取らないからな。
と、無責任な顔持ちで俺は答える。
「あ、えっと。どうした。」
流石にもうすこしマシな答えはなかったのか。
秘密組織だのなんだの、この場において無意味なことを考えているからこうなるのだ、と自分で反省する。
反省する人は成長できる。
誰の言葉か知らないが間違っていると思う。
反省してもすぐに忘れてしまえば無意味な訳で反省した上で行動を変えた時そこで初めて意味があるからだ。
だから反省する人は成長するのは間違いだ。反省した上でそれを踏まえて行動を改められるやつが成長する可能性をさらに強めるのだ。
数学的にいえば必要条件、俺的にいえばそれは常人の考えだ。
この凡才め、だ。
そんなひょんなことを思っていると、 彼女は俺の目をじっと見つめながら体をくねらせた。
なんだこの可愛い生き物は。手を胸の中で文字文字動かしながら顔を赤らめて小さい口を開ける。
「えっとね。私さ。君のことね。えっとね。」
まるでというかわざわざ直喩する必要もないくらいに、それよりもうこれは小動物を超えて微生物なのではないかと思えるほどに可愛らしい庇護欲を刺さる口調で精一杯俺に思いを伝えようと頑張っていた。
微生物は可愛いを超えて奇妙か。
言葉の選び方を間違える事で人を傷つけてしまうという格言をひしひしと実感した。
「すまん、俺なんか悪いことしちゃったかな。」
「なんでもないよー。やっぱりなんでもないよー。私どうかしちゃってたのかな。ごめんね。能登くん。」
彼女はそういうと急いで足を精一杯動かしながら去って行った。どういうことだ。
この幼気な女の子は何がしたかったのか。
そう疑問に思いながらな物思いにふけていると、今や遠く離れてしまった彼女のそばでゆうかちゃん、と呼ぶ女子どもの声が耳に入ってきた。
彼女の名前は吉田優香。
女の子だ。
その母性本能をそそる彼女の行動や容姿には多数の母性を持つ男子生徒をことごとく虜にしてきた。
それでも彼女は自分を可愛くないと言っているあたり本当は計算高い女の子かもしれない。
しかし母性本能を持つ我らが男子生徒にはそんなこと知る由もない。それにしても男が母性本能を持つというのはどういう意味だろう。
ただ文字通りの意味以外に他の意味もはらんでいそうな表現であ。
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トントン。
今度は何だ。
肩が優しくそして時計の針のように連続的に撫でられる。俺は俺の背中を優しく叩く犯人を知っている。
俺は少しいやかなりニヤけながら後ろを全力の力を持って振り向いた。
目が合った。
可愛らしい鳩のような優しさと平和の恩恵を与えてくれるまさに鳥の羽のような笑顔を乗せた可愛らしいオトコと目が合った。
彼女、間違えました。彼である。
すまない。
言葉の語彙が無くなった。
考えることを許容せずただ私だけを見つめてと言わんばかりのその笑顔は俺のの思考回路を駄目にする。そんな笑顔は俺に深く刺さった。ああかわいい。最高だな。
しかし俺が笑顔だと思い込んでいた彼女の顔はあからさまにムッとほおを膨らませていた。おおまじか。
彼女の怒る顔なんて初めて見たぞ。彼女はいつも笑うのだとばかり思っていたから勝手に俺の脳フィルターが笑顔モードにしていたのか。
まさに語彙、思考を放棄させる彼女の笑顔。
恐るべし。
とのたうち回ると今度は顔を少し天井の方に向けて、俺を見下ろして一つ。
「さっきの子はだれなの。」
ふわあああああ。
可愛いにも程がある。
これは全人類、いやこの世界に生まれた人類、そして今この世界に生きる人類、そして未来この大地を踏む運命にある人間それら全ての時間軸の人間に対して国家を超えた人類種の宝として崇めることをここに誓おう。
そう俺は心で契約した。
しかし俺は大体孤独なので共に誓ってくれる人はいないが。
「ねえ、聞いてる。あの子誰なの。」
おお。嫉妬か。嫉妬なんですか。まじすか。
人類種全体に崇められる運命にある彼女が俺に嫉妬だと。今すぐにでも地獄行っても俺は理不尽だなんて言わないよ。
嫌だとはいうけれどね。
「いや、俺もよくわからん。」
そう答えると彼女はあからさまに安心した後、
「なんだ。ならいいかな。」
そう呟きそのまま机に突っ伏した。 いいものを見たな。
と、俺は内心いやもう行動に出ているのかもしれないが踊り叫びこ今までのストレスを発散したと天に居座る我が天使に連絡を入れた。
こんな可愛い子でも女の子ではない。
その事実に改めてゾッとししかしそれもまたいいかなとき許容し、授業が始まるまで俺は夢見心地の状態で黒板をぼーっと見つめていた。
教室の隅でそんなやり取りを訝しげに眺める女教師の姿があるとは知らずに。