第二十二話「思考の海は枯れ果てた。」€
ーー?年?月?日?時?分ーー
世界の因果に捨てられて、孤独の海で、ただ一人、少年は再び、目覚めた。
荒れ狂う海の上に漂う小舟の甲板の上。
太陽は暗い七人の雲によって遮られ、少年の頬を照らすことはない。
外界と拒絶され、海の上で、たった一人の少年は、呆然とただ、そこの見えない瞳で、そこの見えない深海を見つめていた。
「僕は、一体何がしたかったのだろう。」
「なんのために船を漕いでいたのだろう。」
この思考の海を漕いでいた動機はすでに消え去っていた。
「僕は、ただ、彼女を助けたかっただけなんだ。」
「彼女って、、、。誰のことだっけ。」
「あぁ。全部忘れちゃったよ。記憶はもうすでにないんだね。」
「君は成功したのかな。今、あなたは喜んでいるの?」
「けれど、それは、本当に嬉しいことなのかな。」
「僕だったら、そんなことできない。そんな自分を失ってまで、愛するひとのために、何かをするなんて。」
「でも、君が望むならいいよ。この世界の僕は、受け止めるしかできないんだから。」
「でも、この世界じゃない、あの世界の僕なら、君のそんな姿は、認めないよ。」
「君の涙でぐっしょりなその横顔を、無視なんてできない。」
「あの世界の僕が止める。僕の共有された、『信条』にかけて。君だけは守る。」
「あの世界の僕は、捻くれて捻くれて、人を愛せなくなった。」
「だから、また君を愛せるようになる。たとえ、全てが紛い物でも、きっと僕は君を見つける。」
「僕は、失敗したよ。あの時、君を助けられなかった。けれど、あの世界にいる僕は、違う。」
「助けてくれるよ。きっと、今の君を、ね。」
「だから、待っていてほしい。あの世界の僕は必ず、君という存在、全てを助けてくれるはずだから。」
少年は、小舟に乗って、暗い雲に隠された、太陽の面影を必死に目を凝らして、見つめていた。
この世界、この僕だけの世界は、もうすぐ終わる。だけど、それで終わりじゃない。
終わりの後には、始まりがある。
その始まりの世界にたとえ僕がいなくても、違う僕がいるだろうから。
「僕の出番はこれで終わり。ただ、船を漕いでいただけだけど、楽しかったよ。」
弱々しい木製の小舟は、音を立てずに、次第に瓦解して、海という思考の世界の一部となった。
その少年の生き様は、その少年の概念に同期し、一つの僕として、溶け込んだ。
まもなく、この海は、枯れ果てる。
そんな、終末世界の成れの果て。それでも、その少年は、笑って消え去った。
まるで、自分の願いを叶えられたような。
まるで、愛する人を救えたような。
そんな少年の最期の笑顔は、『次の僕に任せた』とでも言わんばかりであった。




