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第十四話「新世界」Fー終

ーー7月21日午前7時35分ーー



 歪なほど暗闇の中で、私は目を覚ました。




 目を冷ました、

 という方が的確であろうか。



 そうどうしようもなく、馬鹿で意味のわからない考えを膨らませるのを一旦拒絶し、今自分が何をどこでしているのかなぜか考えてしまう。

 


 どうせいつもと変わらないただ平凡で変わり映えのしない、社畜代表の生活だろう。


 自分を取り囲む暗闇の空間はどうやら私の住むアパートの寝室のらしい。


 あぁ独身で一人暮らしは部屋が広く使えて最高だなぁとほざきながらカーテンを勢いよく開いた。


 バババババッ。


 そこにはなんと新世界が広がっていた。


 目の前に広がるのは太古の時代、プテラノドンやティラノサウルスが陸も海も支配する世界。力が全てを支配する弱肉強食の世界だった。




 私、転生した???


 


 と、いうのは全て嘘で、まあまず真実である理由も意味も動機も不十分で裁判所に持って行っても不起訴まっしぐらな世界なのでこれが嘘と気づけなかった人はオレオレ詐欺に気をつけてくださいね。

 


 そんなことを言っていても埒が開かない。

 とにかく恐竜の世界なんてものは嘘っぱちである。目の前に広がっていたのは煌々と太陽が照りつく、見るからに暑そうな日常の一コマだった。

 


 ミーンミーン。



 ほら見るからにというか、目を両手で隠していても耳からでわかってしまうこの酷暑。

 なんだよ、蝉かよ。


 ミーンミーンって、何か私に尋ねてるの?それならば私はこう答えましょう。



「ねえなんで君たちってそんなに騒がしいの?」

ってね。

 これじゃ蝉問答じゃないかーい。

 上手いこと言っても誰も反応しない。これが独身の三十路の末路です。


 早速朝の第一歩を踏み外して気分がダダ下がりのまま洗面所に行く。



 ジャバジャバジャバ。

 

 私はこの時間が好きだ。

 Java Java Javaときこえて、それが何かジャズのような語感だからじゃない。

 

 私はジャズというものをあまり知らないし、まして実際に洗面所のシンクくんがジャバジャバと話しかけてくれるわけでもないから。

 でも実際話しかけてくれるならそれはそれで嬉しいな、とか思う。


 たとえ機械でも会話成立するなら仲良くなりたいとか思っちゃう。


 まじで本当に独身の闇見えてんじゃねえか、話しかけてくれるなら人外でもいいのかよ、そのうち扇風機と結婚しちゃうぞ、っめ。


 とか言いながら私は顔をゴシゴシと洗った。

 


 私が洗面所が好きなのはこういう意味のないことを考えられるから。



 一通り顔についた水滴を拭いだあと、私は気だるげな服装から、教師としての威厳と、いい歳した女としての最低限の社会への配慮のためにびしっとスーツに着替える。

 

 ここから学校に着くまでに私は特に心入れしていることはないのでそのままカットさせていただく。

 すいませんね、

 でもこれが私のやり方なんですよ。うふふふ。


 だーかーらあんたは独身なんでしょうが。


 結構美形なのに独身の理由がわかってしまった、と洗面所くんは思ったらしい。


 玄関開けて外の世界に出場した。参加してみて、少し過ごしてから思ったことを一つ言いたい。 




 おかしくね??????



___________________________________________________


 世界が変わっていた。


 真面目に変わっていた。


 今までと変わっていた。



 私がいつも降りる、学校の最寄り駅の名前が変わっていた。

 そう、いつも乗るのは「百灘駅」なのに今時刻表に載っているのは「零灘駅」。


 誰かのイタズラでもないだろう。


 こんな公共交通機関でイタズラを出せば賠償金は馬鹿にならないし電光掲示板に細工など普通はあり得ないだろうから。


 ではここは私の知っている場所と違うのだろうか。

 いつもと違う世界に私はいるのだろうか。



  キイイイイイイイイ


 金切り声と共に生暖かい風を乗せて私の元に電車が近づいてきた。


 オレンジ色がチャームポイントなその電車は比較的新しい電車で、保冷車と書いてあった。

 扉が開くと中から大勢の社畜が出てくる。

目の前に並んでいる人もおそらく社畜だ。同じ同胞として日々の日課である、社畜には敬意を示して目を合わせず関係も持たずただその横を過ぎるという尊敬の念を閉じ込めた塊のような行動を遂行する。


 これはただの無愛想な奴じゃないか。


 その後、私はすかさず優先席の端っこを光の速さを超えて、光よりもスピディー

に、優先座席を奪ってすぐさま目を閉じ寝たふりをして車内に溶け込んだ。


 余談だが、というのも余談しか話していないような気がするが光よりも早い存在がこの世にはあるそうだ。


 それが私である。


 いや本当にあるらしい、詳しくは物理を勉強してほしい。

 

 と、馬鹿で意味のないだがしかし、心は紛らわせられる妄想を繰り広げたところで長考モードに入る。


 

 なぜ駅名が変わっていたのか。


 そして今まで言及していなかったがその疑問を解消する要素をすでに私は得ていた。

 それはいったい何か。

 その原因がわかっていたから、さっきまでのように盛大におちゃらけることができていたのである。


それは一体何か。なんの要素のおかげで原因がわかったのか。



_________________________________________________

私は二つの記憶を得たからだ。



 持っていたというのは少し誤解を招くかもしれない。

 正確に言うなれば二つの記憶があるように感じている、だ。



 例えば、今というか昔の私が小学校と高校の二つの資格をとった記憶とともに、小学校の資格を落として、一人橋の上で男泣きしたという記憶の二つを持っていることだ。


 本来、大学生の思い出は一つしかない、というのも受験に合格したのと落ちたのを二つとも同時期に経験することなど不可能だ。


 いわゆる互いに排反、である。


 だから私は二つの記憶があると思考した。確実に誰か他の人に記憶が流れ込んでいると。



 そして、そう気付いたのは目が覚めてからだ。


 しかし実際、この場所にくるまで世界が二つあるという

                   結論には行きつかなかった。


 確実に、いや絶対私の酒の飲み過ぎによる記憶改変だろうと思っていたこの記憶が本当のものであると確信に至ったのは目の前の光景のせいだ。



「ねえ、まさしくん。わたしと、三角関数、どっちが好きぃ?」



 頭の悪そうだが頭の良さそうな会話が繰り広げているのは私の教え子である能登まさしと、

   女の子である。




 ふと記憶の波が私を襲う。


 見知らぬ彼女に対する記憶が入り込んできた。



「に、し、ざわ、、、、、きょ、う、、、?」



 西澤興。



 彼の名前だ。

 実際女の子にしか見えないその外見は記憶から察するに男の子だそうだ。


 私は彼女のことを今自分だけで理解した。

 やはりおかしい、独学でどうにかなるレベルではない。

 これは明らかに本当の記憶だ。私は真剣に目の前のイチャイチャを眺めながら思考を深める。

 


 あの、能登まさしが可愛い子にモテている???

 というかそもそも友達もいない、いつも無愛想な目つきで世界を睨んでいるあの能登まさしが人と話しているのか???



 私の元の記憶では彼はいじめを小学校で受け、その後高校生で再開しても彼はずっと一人だった印象がある。

 まあ小学校も私が能登まさしの担任だったことを彼自身は気付いていないだろうが。



 しかし彼の仲良く話すその姿はひどく不快で異質だと感じた。

 まるでこいつはイカれていると。



 他人の幸せを見てこの世界はおかしいとか思う私は結構嫌な奴なんだろうけど。

 


 それでも不快に感じた。

      目の前の出来事が。


 そしてそれは同時に、この世界は私が今まで暮らしていた世界とは別の世界だと気付かせる最大の理由だった。


 私を乗せた電車はゆらゆらと減速してそのまま駅に到着した。


 百灘駅ではなく零灘駅を降りてそのまま桜並木を歩き、生暖かい妖気、間違えた、陽気が漂う学校に入ってもやはり違和感はなくならなかった。


 それ以上に増幅していた。


 自分の受け持つクラスに入り、クラスの連中の顔を見た時恐ろしく怯えた。人生で一番と言えるかもしれない。


 そこには、能登まさし以外知らない人しか居なかったのだから。能登まさし以外誰も知らなかったから。


 ここでこの世界は元いた世界と確実に違う別世界なのだと気づいた。


 彼ら彼女らは私を笑顔で見つめる。まるで面白いモノでも見ているかのように。怖かった恐ろしかった。

 


ただしかし、それ以上に恐ろしかったのは記憶の波が私を襲い、再び自覚を持った時、彼らについてすでに知っている状態になっていたことだ。


 さっきまで不気味で怖かった笑いかけてくる笑みはその時すでに、面白い先生に向けたただの希望の視線に感じたのだ。


 誰も知らない謎の未知の教室で、、しかし能登まさしは元から知っていた。



 そして私が過去いた世界にも同じように彼はいた。

 その時は彼は、一人で孤独だったけれど記憶にある能登まさしの顔と目の前の顔は一致している。


 もしかしたら、私と同じように世界を移動して飛ばされたのかもしれない。




 彼も私と同じかもしれない。





 そうした一抹の希望は、クリスマスツリーのてっぺんで静々と輝く星のようにひどく私の心を元気づけてくれた。





____________同日午後1時12分昼休み________________________



彼がこのクラスにすでに溶け込んでいることに気づいた。


違和感を覚え彼にそれとなく聞いてみた。


残念ながら彼は、元からこの世界の住人だったようだ。


私は一人のようだ。ひどく恐怖した。



 ただ、、ただ、、、ただ、、、、

 最も怖かったのは、あの日、あの時、私が小学校の担任の時、いじめ事件の中で死んだはずのレイが、私に語りかけた言葉。



 死んだはずのレイ。



 この世界では生きていても別に不思議ではない。




 だから無視していた。




 でも違った。


 彼女は言った。



 「ねえ、あたらしい世界はどう?あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」



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