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物置き

クマ様、どうかお帰りください!

作者: 長岡更紗
掲載日:2024/12/04

「いやぁ、熊は怖いよな」

「はぁ!? クマ、かわいいだろ!」


 A氏の言葉に、B氏は目を吊り上げて抗議した。

 クマと言えば、『ぼくはちみつだーいすき!』とツボに手を突っ込んで美味しそうに舐める生き物である。

 それはもう、赤児から老人まで、みんな大好きなかわいい動物だ。

 もちろんB氏も子どもの頃からクマは大好きである。


「かわいい? どこがだよ」

「もこもこしてるしさ、つぶらな瞳で愛くるしい表情してるじゃないか」

「お前、どこに目ぇついてんだ?」

「失礼だな。Aはあれか? 町にクマが来たら、すぐに殺せ殺せっていうやつか?」

「すぐというわけじゃないが、人命が最優先だろう」

「うわ、出たよ。人間のエゴ!!」


 B氏は蔑んだ目でA氏を見た。


「クマだってひとつの命なんだぞ! お前がそんな野蛮な考えの持ち主だとは思いもしなかった!」

「じゃあ人が殺されてもいいのか?」

「バカだな。ただ山に帰ってもらえばいいだけさ。それもわからないのか?」

「素直に帰ってくれればいいけどな」

「動物の命を平気で奪うやつなんて、信じられない!」

「お前が今食ってるのは、牛と豚と鶏の焼き肉だけどな」


 ジュージューと美味しそうに焼けた肉を頬張りながら、B氏は動物愛護の何たるかを熱弁した。

 そして彼は政治家となり、クマ愛護党を発足し、クマ愛護の精神を国民に浸透させることに成功した。

 今や、クマを殺すような動きは世界でなくなっていた。

 もちろん、クマが出ても殺すようなことはせず、山へとお帰り願った。

 その際、死傷者が二十名ほど出たが、B氏は痛くも痒くもなかった。B氏はその場にいなかったから。


 全国でかわいいクマが出没し始めた。国民は畑のものをどうぞどうぞとクマに捧げた。

 スーパーに買い物に来たクマは、一週間以上も買い物に時間を費やした。

 肉類は丸ごとクマに買われ、他の食料もすべて買われるか遊ばれた。

 後に残ったのは、全ての商品への爪痕と糞だった。

 素晴らしいお代を置いていってくれたと、人々は泣いて喜んだ。

 人々の食べる物が減っていき、食料は高騰したが、B氏もそれでいいと喜んだ。クマ様を殺さず、山へとお帰りいただいたのだから、大成功だ。


 B氏の友人だったA氏は死んだ。

 A氏はあろうことか熊を殺すべきだと言い続け、このままでは人類は滅ぶと流言を吐き、人々を混乱に陥れていた。

 クマ様を殺すなど、あってはならないことだ。人々による正義の鉄槌が下るのは当然だった。A氏が死んだ時、B氏は笑った。

 そしてB氏は確信を得た。クマ様を生かすことは正しいことなのだと。

 正しくないものは世から消えてなくなるのだ。


 一度店を知ったクマ様は、何度も町へ降りてきては買い物に来るようになった。

 お帰りいただこうとした住民が、何人も天へと昇っていった。

 そしてクマ様は多くの食料を手に入れることができ、繁栄を極めた。

 山の中では到底住みきれず、民家に厄介になるよと居座った。

 お帰りくださいとうるさい人間は、クマ様が一撫でするとすぐに無口になった。

 食べると美味しかった。


 ひとつの村が消えた。


 クマ様は、美味しい物を探しに都心に出かけることにした。

 子を増やし、仲間を増やしながら、たくさんの美味しい物があるところを見つけた。


 村がまたひとつ、町がひとつ、クマ様のものになった。

 しかし畑は人がいなくては作物ができない。

 スーパーも食べてしまえばそれで終わり。

 増えに増えたクマ様たちは、新しい食料を求めて、数を増やしながら更なる都会を目指した。

 そこには理想郷があると信じていた。


 クマ様たちの思った通り、そこに理想郷はあった。

 今や食物連鎖の頂点であるクマ様は、お帰りくださいを繰り返す食料(・・)を片っ端から食べ始めた。


 ある家に入ると、そこにはB氏がいた。

 B氏は結婚して子も孫も曾孫もいた。


 家族は悲鳴をあげたが、B氏はクマ様を殺そうなどとは露ほどにも思わなかった。

 クマ様がB氏の家族を一撫ですると、悲鳴はすぐに止んだ。


「どうしてこんなことに……? 我々はクマを愛し、クマを守ったというのに! どうしてクマは我々を殺そうとするのか! お帰りください! お帰りください!」


 どれだけ懇願しても、クマ様は帰ろうとはしなかった。

 B氏は知らなかったのだ。

 相手は人間の気持ちや言葉が通じないということを。

 B氏は長年救ってきたクマ様に優しく撫でられ、その生涯を閉じた。

 その顔はとても満足そうで、本望だったに違いないと人は言った。


 その後、クマ様はすべてを占領し尽くした。

 クマ様の個体数が膨大に増え、食料が不足した。

 どこに行っても、もう食べ物などありはしなかった。

 その巨体と個体数を支えるだけの糧などなく。

 クマ様は餓死して全滅したのだった。


 B氏は殺さないことでクマを絶滅に追いやったことを、あの世に行っても気づいていない。

 しかしクマは悟っていた。人間のいる世界が、真の理想郷であったのだということを。




この作品はフィクションです。

物語として楽しんでいただければ。

感想欄は開けておきますが、返信は一切しません。

過激な発言はお控えくださいますよう、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
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