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ホンモノ

作者: 阿藤賢樹

小学校2年生から4年生までの将来の夢はピエロだった。

ピエロは小学校2年生の時、大きい市のお祭りで大きい木の下にいた。

ホンモノだった。あのときのピエロだけが今でもホンモノだったと思う。

ピエロだけがホンモノであとは全部偽物なんだと思った。7歳まで生きて感じていた違和感が解消された。ピエロを見ながら通り過ぎる大人たちやピエロからバルーンをもらう同い年ぐらいの男の子も全部偽物だった。偽物だからああだったんだと気づいてホッとした。

ピエロだけがただそこで、孤独に1億人分の1人に気づいて欲しいが為にメッセージを送っているんだと思った。僕はその1億人分の一人だった。ピエロになりたいというのは子供らしくていい。でも周りが思うピエロの意味は僕とあのピエロが思う意味とは違う。

理解したいと思いもしないだろう。たとえこれから話すことを聞ける人が1億人分の1だとして、理解できる人はさらにその1億人分の1だろう。つまり、、、僕は算数が得意じゃない。

僕は今、大きい木の下に立って子供にバルーンを手渡した。渡した瞬間、子供の手からスルッとバルーンが滑った。一人の大人がおぉっと声を上げ、周りの大人もバルーンを目で追った。子供が泣いてしまった。偽物でよかった。僕も偽物の涙を描いたメイクで悲しい顔をして、背中に刺していた特大のバルーン剣を子供に渡し、砂利に膝を擦り付け土下座をした。

大人たちは笑った、子供は泣き止んだとは言えないが、大人に抱かれて帰っていった。

みんな偽物でよかった。

バルーンが木の枝から風に飛ばされて空に飛んでいった。周りの数人は空を見上げてまた少しあぁと声を上げた。僕は苦笑いをして、また新しいバルーンを膨らませていた。顔を逸らして咳払いをした時、僕は僕と目が合った。

駐車場に止まっている泥に汚れた白いミニバンの後部席から昔の僕が今の僕を見ている。

僕はホンモノになれた。長かった。

僕はその日ケーキ屋によってバースデーケーキを買って家に帰った。祝った。「誕生おめでとう」

そして、今から始まる。この日のために用意してあったドアノブにかけてある紐で首を吊る。それでは。あとはよろしく。

             ホンモノの後継者より

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