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ロリババア師匠のお赤飯

作者: 榎本快晴
掲載日:2024/05/15

「――師匠。あなたのことを愛しています。師ではなく、一人の女性として」


 月明かりのみが照らす夜の山奥。

 年若い少年が意を決した表情で一世一代の告白を述べている。


 そして、山頂の巨岩に腰掛けながらその姿を見下ろす者がいる。


 童女のように幼げな容貌。

 しかしその口の端に浮かべる笑みには、童女らしからぬ傲慢さが溢れている。


「くだらんな」


 老人のような口調で童女が吐き捨てる。


「戯言を抜かすなよ馬鹿弟子。この儂を幾つだと思うておる? 愛だの恋だのという情欲なぞ、とうの昔に枯れ果てておるわ」


 童女は満月を背に嗤う。

 その答えを受けた少年は、悲痛な表情で目を伏せた。


「……そうですか」

「まったく愚かな弟子よ。少しでも望みがあると思うたか?」


 そう。この童女こそは――この世に二人となき不死の魔女。

 神にすら優るという絶大な魔力を持ち、悠久の刻を生きる全知全能の存在である。


「これに懲りたなら、儂への懸想など早々に捨て去ることじゃな」


 少年は項垂れたまま身じろぎもしない。

 魔女は「かかか」と喉を鳴らし、月明かりを肴に酒を呷り始める。




 その翌日――




 不死の魔女は唐突に、お赤飯を迎えた。



―――――……


 魔女は無言でひたすらに赤飯を掻きこんでいた。

 背後でおかわり待機に控える炊事担当の少年弟子は、待機しながら目の幅に涙を流している。


「申し訳ありません師匠。危うく僕はとんでもない過ちを犯すところでした――」

「おい待て貴様」


 口の端に米粒を付けたまま振り返り、獰猛な蛇のように魔女は弟子を睨む。


「何も過ってないじゃろーが! 年上の素敵なお姉さんに告白してフラれる貴重な青春の一ページじゃろーが! どこがどう過ってるのか言うてみい!」


 箸でびしりと弟子を指す魔女。

 それに対し弟子は一瞬だけ考え、ごく落ち着いた素振りで返す。


「普通に犯罪だったなと」


 ストレートに言いおったわこいつ、と魔女は内心でキレる。

 犯罪呼ばわりされて不愉快極まりない魔女だったが、なんとか平静を装ってテーブルの上に頬杖をつく。


「ふ、ふん。何を抜かすかと思えば。儂は齢数千をゆうに超える大人中の大人じゃぞ? 何が犯罪なのかちっとも……」

「それは師匠の生態に法整備が追いついてないだけですよ」


 率直かつクリティカルな指摘に魔女は目を血走らせる。

 それでも師匠の威厳を保つべく「ふふふ……」と不敵に笑い、相手の弱味を衝こうと試みる。


「見苦しいぞ弟子。フラれたからといって儂を子供扱いか? そういうのを酸っぱい葡萄というのだ」

「ええ……そうかもしれませんね……」

「おいちょっとは反論しろ」


 とうとう耐えかねて魔女は弟子の胸倉を掴む。


「なんじゃその子供の屁理屈を眺めるようなムカつく面は! それがつい昨日まで憧れとった淑女レディに対する態度か!」

「し、しかし……『儂への懸想など早々に捨て去ることじゃな』と言ったのは師匠では……」

「もうちょっと引きずるのが礼儀ってもんじゃろーが!」


 掴んだ胸倉を投げるように突き放す魔女。

 しかし弟子もそれなりに才のある身。宙で一回転してくるりと着地する。


 魔女はここで一計を案じ、ぴんと指を立ててみる。


「ならば――今からでも儂が貴様と添うてやると言ったらどうする?」


 その言葉は、弟子の恋慕を思い起こさせんとする一手だったが、


「え……はい。気持ちは嬉しいのですがそれはちょっと……」

「なんで儂がフラれたみたいになっとるわけ?」


 ぎりぎりと魔女は歯を喰いしばる。

 おかしい。こちらは師匠という立場で、さらにフッてやった立場でもあるのだ。絶対的に格上の立場なのに、なんだか妙なことになっている。


「というか師匠。その仮定は成り立ちませんよ。だって師匠って別に僕のことタイプとかじゃないですよね?」

「当然じゃろ」


 よくそこまで分かってて告白してきたなこいつ、と魔女は若干呆れる。


「前に言ってたのを覚えてます。『男の価値とは強さ』だって」

「は。よう覚えておるな。そうじゃとも。儂は色恋などに興味はないが、いつの世も男の価値とは強さで決まるもの。故に――」


 そこで得意げに魔女は腕を組む。


「全知全能にして世界最強たる儂に釣り合う男なぞ、この世のどこにもおらんというわけじゃ!」


 弟子はそれに対し浅く頷き、それでも一言。


「でも、強さだけが基準っていう方針、よく考えたら『かけっこの速い男の子が好き』っていうのとあんまり変わらないですよね」


 魔女は黙った。

 たっぷり一分くらいは黙った上で、こう吼えた。


「表出ろ貴様ァ!! 師匠を女児扱いしやがってぶっ殺してやるわぁ――――ッ!!!」




 この二人がわりといい感じの関係になるのは、これから数千年くらい先のことである。


最後まで読んでくださってありがとうございます!

面白いと思っていただけましたら、感想・ブクマ・☆評価などいただけると嬉しいです!


また、現在「二代目聖女は戦わない」という長編作品も連載中です!

コメディ要素も多めの作品ですので、本作と併せて読んでいただけると嬉しいです!


↓(ページ下部にリンクあり)

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【二代目聖女は戦わない】
― 新着の感想 ―
[良い点] 「かけっこの速い男の子が好き」は笑ったけど、よく考えたら「強くて優秀な個体を好む」っていうのは生き物としては正しい気がしてきた。 ブルーカラーはもちろんだけど、ホワイトカラーでも体力無いよ…
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