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ロリババア師匠のお赤飯

作者: 榎本快晴

「――師匠。あなたのことを愛しています。師ではなく、一人の女性として」


 月明かりのみが照らす夜の山奥。

 年若い少年が意を決した表情で一世一代の告白を述べている。


 そして、山頂の巨岩に腰掛けながらその姿を見下ろす者がいる。


 童女のように幼げな容貌。

 しかしその口の端に浮かべる笑みには、童女らしからぬ傲慢さが溢れている。


「くだらんな」


 老人のような口調で童女が吐き捨てる。


「戯言を抜かすなよ馬鹿弟子。この儂を幾つだと思うておる? 愛だの恋だのという情欲なぞ、とうの昔に枯れ果てておるわ」


 童女は満月を背に嗤う。

 その答えを受けた少年は、悲痛な表情で目を伏せた。


「……そうですか」

「まったく愚かな弟子よ。少しでも望みがあると思うたか?」


 そう。この童女こそは――この世に二人となき不死の魔女。

 神にすら優るという絶大な魔力を持ち、悠久の刻を生きる全知全能の存在である。


「これに懲りたなら、儂への懸想など早々に捨て去ることじゃな」


 少年は項垂れたまま身じろぎもしない。

 魔女は「かかか」と喉を鳴らし、月明かりを肴に酒を呷り始める。




 その翌日――




 不死の魔女は唐突に、お赤飯を迎えた。



―――――……


 魔女は無言でひたすらに赤飯を掻きこんでいた。

 背後でおかわり待機に控える炊事担当の少年弟子は、待機しながら目の幅に涙を流している。


「申し訳ありません師匠。危うく僕はとんでもない過ちを犯すところでした――」

「おい待て貴様」


 口の端に米粒を付けたまま振り返り、獰猛な蛇のように魔女は弟子を睨む。


「何も過ってないじゃろーが! 年上の素敵なお姉さんに告白してフラれる貴重な青春の一ページじゃろーが! どこがどう過ってるのか言うてみい!」


 箸でびしりと弟子を指す魔女。

 それに対し弟子は一瞬だけ考え、ごく落ち着いた素振りで返す。


「普通に犯罪だったなと」


 ストレートに言いおったわこいつ、と魔女は内心でキレる。

 犯罪呼ばわりされて不愉快極まりない魔女だったが、なんとか平静を装ってテーブルの上に頬杖をつく。


「ふ、ふん。何を抜かすかと思えば。儂は齢数千をゆうに超える大人中の大人じゃぞ? 何が犯罪なのかちっとも……」

「それは師匠の生態に法整備が追いついてないだけですよ」


 率直かつクリティカルな指摘に魔女は目を血走らせる。

 それでも師匠の威厳を保つべく「ふふふ……」と不敵に笑い、相手の弱味を衝こうと試みる。


「見苦しいぞ弟子。フラれたからといって儂を子供扱いか? そういうのを酸っぱい葡萄というのだ」

「ええ……そうかもしれませんね……」

「おいちょっとは反論しろ」


 とうとう耐えかねて魔女は弟子の胸倉を掴む。


「なんじゃその子供の屁理屈を眺めるようなムカつく面は! それがつい昨日まで憧れとった淑女レディに対する態度か!」

「し、しかし……『儂への懸想など早々に捨て去ることじゃな』と言ったのは師匠では……」

「もうちょっと引きずるのが礼儀ってもんじゃろーが!」


 掴んだ胸倉を投げるように突き放す魔女。

 しかし弟子もそれなりに才のある身。宙で一回転してくるりと着地する。


 魔女はここで一計を案じ、ぴんと指を立ててみる。


「ならば――今からでも儂が貴様と添うてやると言ったらどうする?」


 その言葉は、弟子の恋慕を思い起こさせんとする一手だったが、


「え……はい。気持ちは嬉しいのですがそれはちょっと……」

「なんで儂がフラれたみたいになっとるわけ?」


 ぎりぎりと魔女は歯を喰いしばる。

 おかしい。こちらは師匠という立場で、さらにフッてやった立場でもあるのだ。絶対的に格上の立場なのに、なんだか妙なことになっている。


「というか師匠。その仮定は成り立ちませんよ。だって師匠って別に僕のことタイプとかじゃないですよね?」

「当然じゃろ」


 よくそこまで分かってて告白してきたなこいつ、と魔女は若干呆れる。


「前に言ってたのを覚えてます。『男の価値とは強さ』だって」

「は。よう覚えておるな。そうじゃとも。儂は色恋などに興味はないが、いつの世も男の価値とは強さで決まるもの。故に――」


 そこで得意げに魔女は腕を組む。


「全知全能にして世界最強たる儂に釣り合う男なぞ、この世のどこにもおらんというわけじゃ!」


 弟子はそれに対し浅く頷き、それでも一言。


「でも、強さだけが基準っていう方針、よく考えたら『かけっこの速い男の子が好き』っていうのとあんまり変わらないですよね」


 魔女は黙った。

 たっぷり一分くらいは黙った上で、こう吼えた。


「表出ろ貴様ァ!! 師匠を女児扱いしやがってぶっ殺してやるわぁ――――ッ!!!」




 この二人がわりといい感じの関係になるのは、これから数千年くらい先のことである。


最後まで読んでくださってありがとうございます!

面白いと思っていただけましたら、感想・ブクマ・☆評価などいただけると嬉しいです!


また、現在「二代目聖女は戦わない」という長編作品も連載中です!

コメディ要素も多めの作品ですので、本作と併せて読んでいただけると嬉しいです!


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【二代目聖女は戦わない】
― 新着の感想 ―
[良い点] 「かけっこの速い男の子が好き」は笑ったけど、よく考えたら「強くて優秀な個体を好む」っていうのは生き物としては正しい気がしてきた。 ブルーカラーはもちろんだけど、ホワイトカラーでも体力無いよ…
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