起動編7
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バラバラ殺人事件(白骨死体)否、私である。
前回見事なダイブを決めた私であったが、まぁ唐突な出来事ゆえ対策も取れず、無事地面と熱いキスをかますことになってしまった。
結果がこれである。
命名、クソ犬略してクソが着地の衝撃で散らばった我が骨を集めてくれている。
忠犬クソ公、ありがとうな。でもお前がタックルしてこなければこうならずに済んだんだわ。
30分ほどかかって全身が組み終わる。
件の肋骨はクソがいたく気に入ったらしく、返してもらえていない。
まあ特に害もないしそのままにしておくことにした。
「さて、ドキドキワクワクな遺跡探検するかー」
「はっはっはっはっ」
仰々しい石の門を潜ると大きい通りのような場所に出る。
騎士を模した石像が長い列を作って通りに並ぶ。
なんだか監視されているような気がする。
気味が悪いな。どの口がって感じだが。
適当に歩きながら眺めていると、行き止まりに辿り着く。
そこには人が一人横になれるような石のベッドのような祭壇があった。
天井こそなく、今にも崩れそうではあるが、部屋の内装も心なしか元来た道にあった構造物よりも少し豪華な気がする。
よく見ると祭壇には何か黒い、液体の流れた跡がある。
祭壇の周りを見渡してもガラクタしか無いし、疲れていたので祭壇に腰掛ける。
「生贄ごっこ〜なんつって」
傍のクソ犬を見る。
クソ犬はこちらを見て小首を傾げた。
喋れもしないゾンビ犬相手に何やってんだろう。
何か物凄く虚脱感に襲われた。
急に現実感と羞恥が押し寄せる。
立ち上がってなかったことにしよう。
そう思って祭壇に手を掛け──れない。
動けない。
指先すらぴくりとも動かない。
「!!!!」
助けて犬。
状況を飲み込めない犬。
舐めるな噛むな肋骨をしゃぶるなぁっ。
しばらくぺろぺろとしゃぶり尽くされたのち、拘束が解けた。
何だったんだ。
「ふむ。」
祭壇を検分する。念のため触らないように少し距離を取りつつ。
そこら辺に転がっていたボロボロの剣を拾ってツンツンしてみる。
反応はない。
犬を祭壇に置いてみる。
反応はない。
……何もないな。
壊れたのか?
恐る恐る手で触って見る。
……反応はない。
やるかたなしと来た道を戻ろうとし、祭壇の部屋の入り口に白骨死体が凭れているのに気づいた。
入ってくる時は陰になっていた場所だから気づくのが遅れたのだ。
その死体は汚れた紫色の襤褸を纏っており、明らかに致命傷だろう剣が鎖骨から腰のあたりに向けて深く突き刺さっている。
さっきの祭壇のこともあるし少し嫌だが衣服を拝借することにする。
何というかこう、モノを着ることによる尊厳の復活、のようなものが白骨死体になった我が身でも感じられる。
しかし、触ろうとしたその時、衣服が急に自我を持った。
すくなくとも私の目にはそう映った。
服は獲物を捉えた蛇のようにしなやかに腕に体に巻きついていく。
もーやだ。こんなんばっか。何だこの遺跡。
思考放棄しながら服を見ているとやがてそれはローブとなって動きを止めた。
今回は拘束はないらしい。
自動着替え機能付きの服か。曰くもついてるけど。
どうも持ち主が変わったからか生地も洗ったように綺麗になり、サイズもぴったり合っている。
私の外見が「そこらへんの死骸」から「何か故のあるご遺体」くらいにはランクアップした気がする。
あんまり嬉しくないが。
どうやら犬も同感だったようだ。
簡単に肋骨がしゃぶれなさそうな姿の私を見てしょんぼりしている。
改めて服の持ち主をまさぐると本が下敷きになっていた。
だいぶ古ぼけた本で触ると崩れそうだ。
どうせこの本にも何かしらあるんだろうがええいままよと半ば自棄になりながら本を手に取る。
やはりというか何というか本は怪しく光りながら私の周りを回る。諦念の感情も底をついていた。
やがてページやら装丁やらがバラバラになり、私の体に吸い込まれてゆく。
それとともに意識がブラックアウトしていく。
犬は触れない幻影の本にじゃれついていた。