起動編5
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石を掴んで後ろに放り投げる。
下敷きにされていた上腕骨が姿を現した。
取り出して砂を手で払う。
元あった位置に押し込む。
かちりと何かがはまるような音と共に接着された腕は元からそうであったかのように動いた。
どう言った理論のもと修復されているかはわからないが、バラバラになったとて我が身は近づければ元通りになるようだ。
なるほど不死の体、全くわからん。
自分で衝撃波を放っておいてなんだが、とても後悔している。
本当にやるんじゃなかった。
何が楽しくて自分探し(物理)なんてやらなきゃならんのだ。
崩落で右腕と肩、頭が無事だったのは幸いだった。
覚えていないがおそらく全力で衝撃波を撃った私は後方に吹き飛ばされ壁に激突し散乱。
後に追いついたように崩落していった土砂に埋まったと言ったところだろう。
「よし、後は……肋が一本と右足か」
共鳴しているのか原理は不明だが、なんとなく何処ら辺に自分の体のパーツがあるのかは察知できる。
未だ更なる崩落の可能性があるので衝撃波で吹き飛ばしての回収はできない。
しばらくただ掘り進めると右足が飛び出てきた。
義手のように装着。
パズルのピースがはまるようにくっつくと、自由に意志で動くようになる。
……本当に謎だ。
最後の一本を掘り進める。
どれほど経ったか、定かでないが体のパーツをここまで探すのに数日はかかっていただろう。
いかに睡眠の不要な体とてなんとなく眠くもなるし、集中力も欠く。
そいつが隣に近寄っているのに気づけなくても何も不思議はなかった。
「見つけたっ!!最後の一本!!」
嬉しさのあまり肋骨を掲げる。
その時だった。
傍の闇から黒い影が飛び出す。
そいつは油断を狙って待ち構えていたのだ。
黒い影は素早く私の手から肋骨を奪い去った。
「へっへっへっへっ」
全身真っ黒の何処となく犬っぽいそれはこの洞窟でよく見た、そしてロルトによく討伐されていた狼の魔物だった。
口には奪い取った戦利品を咥えている。
「か、返せドロボー!!」
その声を皮切りに狼の魔物は走り出す。
させるか。
「まてええぇぇぇええ!!」
どういった動体視力をしているのか、とてつもないスピードで魔物はゴツゴツした岩場を走り去る。
追いつかない。足がもつれる。
「うぶっ」
顔から綺麗な弧を描いて倒れ込む。
はぁはぁと肺もないのに息が乱れる。
魔力を使った衝撃波を撃った時と同じような感覚に、おそらくこの体を動かしているのは魔力なんだろうと現実逃避をしていると、不意に脇腹のあたりにもさもさした毛皮の感触を感じる。
……腹の肉ないけど。
「あっおまえ」
捕まえようと両腕を回すもするりと脇を抜けていく。
「こん畜生が!!」
腹這いに近い姿勢のまま毛玉に飛びつく。
なんとか毛の一端を掴むも狼の魔物は気にすることもなく駆ける。
しかしこちらも負けていられない。
自らの肋骨がかかっているのだ。
しばらく市中引き回しの気分を味わっているとやっと狼は止まった。
息も絶え絶えと言った様子だ。
「ごめんよ」
首を掴んで手から衝撃波を放つ。
スパンと軽やかな音と共に狼の首は前方へと弾け飛ぶ。
一瞬の強張りの後、狼の体は弛緩し、その場に倒れる。
殺傷に対してなんとも何も感じないものだなとか考えつつ、
「あ」
そういえば狼が肋骨を咥えていたんだった……。
我ながら後先を考えずに生きすぎだと思う。
飛んでいった肋骨は岩壁に半ばまで突き刺さり、ヒビを入れていた。
ヨタヨタと近寄り、引く。
「ぬ、」
抜けん。完全に刺さってる。
ふむ……。
「んぐぐぐぐ!!」
文字で言うとEのような体勢である。両手で骨を持ち壁に垂直に踏ん張る。
体が骨でできているからこその軽技。しかし骨は抜けない。
「仕方ない」
人差し指で肋骨の周りに衝撃波を……。
ガッ!
何かが不意に背中に当たる。
いや当たるとかそう言う次元じゃない吹き飛ばされ──。
かちっ。
ハマった。
ハマってしまった。
根本が手前にあったもんだから壁に縫い付けられる骸と言う前衛アートもびっくりなアホな姿勢で固定されてしまった。
「はっはっはっはっ」
「クソ犬。いいかお前は今日からクソ犬だ。ただのクソでかい犬。分かったからしゃぶるのをよしなさい」
「はっはっはっはっ」
先ほど吹き飛ばされたものの正体。それは先ほど死んだ狼のタックルである。
我ながら自分が無差別に周りに不死をばら撒くとか言うトンチキな特性を忘れていた。
そして今、私は舐められている。
ダブルミーニングで。
身体中がよだれでべろべろになっている。
もともと知性がないのか死んだとき頭が吹き飛んで中身がどっか行ったのか言うことを聞かない。
そのくせ見た目はあまり変わっていない。……頭吹き飛ばしたのに。
このまま舐められているのも癪なのでどうせ死なないし多少崩れてもいいか、と身体中から衝撃波を放出。吹っ飛んでいく
がらがらがらと崩れていく岩壁、の奥に新しい空間が存在していた。
「……遺跡……?」
ちょうど現在地点は謎の地下建築物を見下ろすような形だ。
少しワクワクしてきた。
ガッ!
我ながら思う。この数分の出来事から何も学んでねぇ!
哀れ一人と一匹は壁の穴から遺跡の入り口へとダイブすることになった。