起動編4
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私が何をしたって言うんだ。
いや、衝撃波を出したけど。
問題です。
服の下から爆発が起きるとどうなるでしょうか。
正解──服が弾け飛ぶ。
我ながらアホなことを考えているが、アホなことが原因で私はそこらの白骨死体から無造作に捨て置かれた骸に降格していた。
それでも、それでも最初の数回はそれなりに耐えていたのだ。
しかしこうも何十回と衝撃波に見舞われると所詮普通のローブなど布切れでしかなく。
私は服を代償に魔力操作を拙いながらも会得していた。
「我が主ながら着る物がなくなってざまあみろといった感じでごさいますが、まぁ所詮白骨死体が服を着ていようがいまいが死体は死体ですので」
とは出発前のロルトの言である。
そんな私は今、洞窟を歩いていた。少し先にはロルトが先導している。
肋を抜ける風が何処か寒々しい。
ここ数日(時間の間隔がないので恐らく数日)で私はロルトに魔力操作の免許皆伝、とまではいかないが仮免許程度は貰えたので外に出ることになった。
目的は逃走。
来たる王国の冒険者から逃れるためである。
ぶっちゃけ、ロルト曰く王国の兵士は大した強さではないらしい。
彼らは職業軍人であるため、対戦争、対軍隊の訓練はしていても対魔物の想定はあまりしていない。
訓練料が嵩むし、装備代も嵩む。しかも対魔物用の装備の多くは人に使用するにはあまりにオーバーダメージだ。
そこで国は往往にして冒険者というものを使う。
彼らは対魔物戦闘のスペシャリストだ。
国は特区や免許を制定し、冒険者を管理する。
冒険者はその身で魔物を狩り、隊商を守り、迷宮を攻略する。
そのため冒険者は限定的だが、剣や魔法の使用を許可されているし、製造も認められている。
ロルト曰く、不意打ちなら倒せるが本格的に対策を組まれてしまった場合討伐はほとんど確定とのこと。
正直戦える気はしない。こちとら交戦手段が衝撃波くらいで、あとは無自覚に出ているらしい魔力(毒性)とか、ロルトとか、そんなもんだ。
「そう言えばロルトってどんくらい戦えるの?」
振り向かずに従者は答えた。
「そこらへんの冒険者にはまず負けないですね。なんたって不死ですから」
「不死……?」
「ええ、不死の魔物は基本的に2種類いて術者の有無によって厄介さが変わってくるんです」
岩の影から飛び出してくる狼のような生物を空中で叩き切りながらロルトは続けた。
その間も歩みは止まっていない。
「死体が迷宮などの魔力の濃い場所に放置されることによって発生する自然発生型の不死の魔物。これはわずかに残った死体の魂や筋肉などを魔力によって補っているだけなのでその繋がりを断てば死にます。要は切れば死にます」
ロルトはしかし、と続けた。
「私のような術者が別にいる場合は違います。術者が死ななければ基本死にません。一応術者よりも強力な白魔法……教会の衛士が使う魔法を浴びれば魂を天に昇華させられますが、我が主たる貴方に魔力量で打ち勝つのは人には到底不可能でしょう」
へえ、とわかるようなわからないような生返事を返すと不意に曲がり角に光が差した。
外だ。
迷宮の出口は開けた広場になっており──。
──そしてそこには数百人の荒くれ者がいた。
嘘だろと言ったのは私かロルトか、ハッキリはしないが少なくとも覚えてはいない。
言った瞬間先頭にいた男の号令で矢が放たれたからだ。
しかもなんかご丁寧に矢尻が白く光っている。
絶対に痛いやつ!!
「ロルト、ごめん!!」
ロルトの背に右手を当て最大出力で衝撃波を放つ。
ロケットみたいにロルトが空の彼方へ飛んで行った。
よし、これで逃がせた。
左手で砂を掴む。
前方に投げつけつつ衝撃波を発射。
舞い上がった砂は散弾のようにある程度の矢を叩き落とし、そして第二波を射かけようとしていた弓兵の腕を止めた。
止めきれなかった何本かの矢が体に突き立つ。
刺さる肉などないはずなのに刺さった矢は死ぬほど痛い。
白く鈍く光る鏃は縫い止めるような不快感を発していた。
恐らく不死にとって効果のあるものなんだろう。
「なっ……」
先頭の男が呆気に取られた様子で固まっていたのでこれ幸いと逃げ出す。
転がるように、事実つまづいて転びながらもなんとか迷宮に転げ込む。
「追えッ!!逃すなッ!!」
怒号が響くも、もう遅い。
全力全開の衝撃波。
自身の体を中心に巨大な暴力が吹き荒れる。
撒き散らされた破壊力は容易く洞窟の入り口を崩落させた。