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魔族国家、始めました!  作者: 鵜飼小夜
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教祖編3

良ければブクマ等よろしくお願いします

ゴブリンどもを放って数日、私は王都の冒険者組合へと出向いていた。

ぱっと見の見た目は顔色の悪い男で通すことができる程度なので情報収集を兼ねた潜入というわけだ。

人相が割れているかどうかは少し賭けではあるが、まあ問題ないだろう。


王都の大通りに冒険者組合はある。

ゴーレムの石材を使った重厚感のある建物だ。

両開きの扉を手で押して中へと進む。

酔っ払いの喧騒が聞こえてくる。


「ようこそ冒険者組合へ。登録ですか?依頼ですか?」


受付嬢がにこやかに対応する。


「異動登録だ」


「ではお名前と以前使っていた免許証をお願いします」


革鎧の肩部分に縫い付けてある紐状のそれを引きちぎってカウンターに提出する。

受付嬢は後ろ側の棚から大きな台帳を取り出しパラパラと捲り始めた。


「えーっと、ロルト様ですね。確認が取れました。ではこちらを」


魔法によって複製ができないようになっている冒険者証を受け取り仕舞う。

王都で活動するにはこれ(冒険者)が一番都合がいい。


「今日はこのままお帰りになりますか?」


「いえ、少し情報を集めたいのです。なにぶん王都へ来たのは久方ぶりでして」


「そう言うことでしたら」


と、受付嬢はこれまた後ろの棚から一冊の紙束を取り出す。


「最近起きたことや王都に存在する冒険者の募集依頼などが書いてあります。持ち帰りは不可ですので併設されている食事処でご覧になってください。帰る際は近くの職員にご返却ください」


「ありがとうございます」


紙束を手に取って手近な座席に座る。

魔物の討伐依頼やら、賞金首やら事件事故やら、取り止めのない情報ですら網羅されている。


(ふむ、あまり利用したことはないですがここまで細かい情報があるとは。やはり組合は耳がいい。……しかし、私達の情報が漏れていないのは不思議ですね。まあバレていないのであればそれで良い)


読み進めているとふと、肩を叩かれる。


「よう、新入り」


振り返ると三十代くらいの冒険者が立っていた。

身の丈ほどの大きなバトルアックスを背負っている


「なんだ、死人みてぇなツラしてやがるな」


(っバレたか!?……殺すか?)


「まぁいい。いいか新入り、最近ここらに来ただろ?」


(……バレてはなさそうだな)


「最近ここいらには魔王教団だかって言うキナくせぇ連中がうろついている。せいぜい気をつけることだ」


「……ご助言ありがとうございます」


「いいってことよ。何かあったら俺に言え、ここら辺のまとめ役をやっているヴァードだ」


「宜しくお願いします。では、私は用事があるのでこれで」


冊子を近くにいた職員に渡し足早にギルドを抜け出す。


「計画に修正を加えなければ……まずは教団とやらに接触してみますかねえ」


屍人の足取りは軽く弾んでいた。







「ああ魔王様、我らをお救いください」


組んだ手を掲げる擦り切れた修道女のような装いを纏う女。

その周りには何十、何百の信者が同じポーズで祈っていた。

女が信者たちに向き直る。


「皆の者、聞くのです。王国に新しい国王が即位して以来、圧政が続いてきました。今こそ、かの愚王を征伐する時なのです」


女は芝居掛かった調子で続ける。


「生贄を集めるのです。今のペースだと足りません。次の満月の夜までに無垢な子供を百人捧げ、魔王様の召喚を果たすのです」


「全ては魔王様の御心のままに」


信者たちは動き出す。

凶事へ向かって突き進む。

王国の波乱の火蓋は切って落とされた。


信者たちが去った講堂には女が一人取り残されていた。


「……何者です?」


「ワレラハ シュジンノ センペイ。ソウイウ オマエコソ ナニモノダ」


静かな講堂の闇から青柳色の皮膚を持つ人外が滲み出る。

初めは一匹、続いて二、三と姿を現し、終いには十一匹の魔物が出現した。


「私は魔王教徒が一人、ウシュヤですわ。あなた方が言う主人についてお聞きしても?」


「シュジンハ ワレラノ ハルカウエノ オカタ。ソレイジョウハ イエナイ」


「あら残念」


「ワレラノ モクテキハ ヒトツ。シュジンノ イコウニ ソワナイモノ コロス」


「オマエハ ナニヲ ナソウトシテイル?」


「私の目的は一つ、生贄の儀式を使って国王を殺すこと」


「リカイシタ。スコシ マテ」


「ワレラノ シュジンガ オマエニ アイタガッテイル」


「拒否は……


視界の端のゴブリンが溶けるように消え、須臾の間にウシュヤの首にナイフが当てられていた。


……出来なさそうね。分かったわ。会いましょう。どこに行けばいいのかしら?」


「ココロヨイ ヘンジ カンシャスル。アシタノ コノジカン マタ ココデ ヒトリデイロ」


ゴブリンたちはそれだけ言うと初めから何もいなかったように影に潜り込み消えていった。


「…………っ。」


ウシュヤの止まっていた呼吸が戻る。


(生きた心地がしなかった。あれだけの高レベル帯の魔物を従える主人とは何者なの?)


(いいえ、何者だろうとかまわないわ。私は私の目的を果たすのみよ)


仄暗い講堂の奥で女の執念を灯した瞳だけが怪しく輝いていた。


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