教祖編2
良ければブクマ等よろしくお願いします
廃墟となった町の一角にロルトは佇んでいた。
眼前には武力で従えたゴブリンが十二匹。
あれから更に集落を発見し襲撃した時には五十匹ほど、しかし厳しい訓練を受けて残ったのはわずかだ。
「点呼」
イチ、ニ、サン、とゴブリンが声を上げる。
「よし、ではこれより貴様らの訓練は終わりだッ!!馬鹿、もとい主の捜索に出るッ!!準備はいいかッ!!」
「「「サーイエッサー!!」」」
「さて、まずは現在地の確認からだ」
「「「イエッサー!!」」」
ゴブリン達に書かせた古ぼけた地図を広げる。
「現在地は王都南西の森、我らが主人は北東の方向に居られる。最悪の場合王都に囚われている」
主人のいる方向はある程度でしか察知できない。
「貴様らの中に騎士が怖いものがいるか!!」
「「「ノー・サー!!」」」
「宜しい!!では最優先目標は主の確保保護、それを邪魔する王国は殲滅せよ!!」
「「「イエッサー!!」」」
ゴブリンがそれぞれ自分の獲物を掲げる。
「状況開始!!」
「「「イエッサー!!」」」
こうして王都未曾有の危機として後に語られることになる騒動は幕を開けたのである。
「ねえ、これいい匂いだね」
「ソレはサメヤツの花ですね。冒険者がポーションを作るのに使います」
白い、小さい川端に咲いた花だ。甘いいい匂いがする。
ロルトの気配を追いながら進むこと数日。
私達は王都の近郊まで歩みを進めていた。
もともと基本的に起き続けているアンデッドなので割と強行軍的な進み方ができたのである。
初めて見る景色の全てが私をワクワクさせてくれる。
自然ていいな。癒される。
「ソレで、我が主。ロルト殿の居場所なのですが……」
自然ていいな。
「逃げないでください」
頑として譲らない従者。
諦める私。
「ロルトの反応が王都内部っぽいんだよねぇ」
そうなのである。何をトチ狂ったかしらないが我が従者は一人で王都に侵入している。
あまりにも無謀すぎる。
「と、言うか多分……」
「「捕らえられている」」よねぇ」
あー考えたくない。でも従者をみすみす失いたくは無い。
厄介だ厄介すぎる。
「優先目標はロルト殿の救出。ですがなるべく見つからないように、ですかな」
「どうにもこうにも侵入方法がなぁ」
アドルは死んだことになっているはずなので顔を出すのはまずい。私は言わずもがなエネミー側な見た目なのでまずい。連れている犬は腐臭の香る所々肉の落ちた犬なのでまずい。
町人や門番程度なら、アドルだけはもしかしたらなんとかなるだろうが、教会関係者とばったり鉢合わせでもしてしまったらなんて考えたくない。
このままで行くのはかなり分の悪い賭けだ。
と言うか負けだ。
「こうなるんだったらあの従者とか生かしておけばなあと思わなくは無い」
「ですねぇ」
でも従者を殺していなければウチのペットの犬の危機だし、仲間が死ぬのはちょっと寂しい。
二進も三進も行かないがアイデアを絞り出すしか無い。
うなれ私の脳みそ。ないけど。
「では王都の水路から入るのはどうでしょう」
「確かに私達は呼吸必要ないもんね」
名付けてどざえもん作戦といったところか。
「となると、ちょうどこのままそこの川に飛び込んで沈んでいれば良さげですね」
「じゃあ行こっか」
「はい」
ざぶんと川に飛び込む。
傍目に見ると邪悪な入水自殺である。
と言うか遺体投棄のほうが近いか。
などとくだらないことを考えていると水底にたどり着いた。
なんとなくのジェスチャーで進む方を示して二人と一匹で歩き出す。
しばらーく、体感で三日ほど休まず歩いて進むと不意に鉄柵が現れた。
「どうぞ」
アドルが水に浸かった鉄柵をひん曲げる。
「ありがとう」
少し薄暗いジメジメとした下水道は下水特有のツンとした刺激臭とカビ臭い匂いが半々で漂っていた。
「それじゃいこうか」
私はたまに流れてくる汚いアレやコレやを努めて無視するようにして歩き出した。