教祖編1
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「追え!逃すな!」
王都フリヴォロの路地の奥の奥、ほとんどスラム化した道を少女が駆けていた。
長い距離を走ったのであろう、足はもつれ気味で呼吸は浅い。
「はぁっはっはっはっ」
しかし、少女の逃げた先は運悪く袋小路になっていた。
「もう、逃げられねぇぜお嬢ちゃん」
「ひっいやっ」
少女に毒牙が伸びる。
「待ちな」
しかし、その手を掴む者がいた。
騎士団所属を示すハーフアーマーに腰に帯びた長剣。一般的な騎士の格好そのものだが、普通とは違う事があった。それはその身の大きさだ。
普通の成人男性のふた周りは大きいその男は、特徴的な赤い瞳を怒りに染めていた。
「ウチのシマで人攫いたぁいただけねぇなァ」
男の丸太の如き剛腕が振られる。人攫いの男はなすすべもなくレンガ製の石壁に叩きつけられ気絶した。
「怪我ねぇか嬢ちゃん」
「あっ有難うございます」
「良いってことよ。次は人攫いに捕まんないようになァ」
ヒラヒラと手を振る男を尻目に少女はお礼をして駆けて行く。その場には大男──シヴェルと人攫いの男が残った。
「……事情聞かねえとなァ」
シヴェルは人攫いを担いで歩き出す。
あのお堅い団長がまた悩ましげに眉を顰めるだろうと思いながら。
「シヴェル。これは?」
「オゥ団長。人攫いだ」
豪奢な調度品が並ぶ第二騎士団の執務室の主は想像どうり眉を顰めていた。
部屋の中央には未だ意識を取り戻していない男が転がされている。
「またですか、最近は多いですねえ。狩っても狩ってもキリが無い」
「団長、俺ァ一斉に元締めを叩くべきと思うんだが?」
第二騎士団長エリザベスの眉はさらに深さを増した。
「上に止められてるんですよ。全く煩わしい」
「ソレァまた何でそんなこと。上もダリィ案件だってこと分かってないわけがないでしょうに」
「色々根回しやら一斉検挙のための泳がしやらがあるのよ。これが嫌だから私は家を出たの」
「結局は縛られてますがね」
「言わないでちょうだい。まぁ良いわ、牢屋に繋いでおいて」
「了解」
シヴェルは男を担ぎ直すとそのまま牢屋へと向かった。
第二騎士団舎を出てしばらく歩き、王宮の地下へと足を運ぶ。
顔見知りの牢屋番に軽く挨拶をして、空いている牢に男を放り込み、自分も中に入る。
男を縄で椅子に縛りつける。
本来のエリザベスの指示なら放り込んで鍵をかければ終わりだがシヴェルはあえてそれを無視した。
「おい、尋問するのはこっちでいろいろ決まってからだ」
そんなことをいう牢屋番に適当にひらひらと手を振り、無視を決め込む。
牢屋番も諦めて元の監査室へ戻った。
「おーい、起きろ」
そこいらに転がっていたバケツに水を汲み、男の顔にかける。
激しい咳と共に人攫いの男は目を覚ました。
「おはよう。さて、突然だがお前の仲間とその居場所について吐いてもらおうか」
「……誰が貴様らみたいな信仰亡き者に話すものか」
「そういうのどうでも良いんだわ。お前の代わりならいくらでもいるからな」
男の顔に拳を叩き込む。
「仲間と居場所は?」
「くっ貴様らに……」
「そうだな、足と腕のどっちが良い?」
「何の話だ……」
「結局どっちも無くなってなきゃ良いか」
右手の拘束だけ外して関節とは逆の方向に曲げる。
「まて、まてまてまてっ」
硬い物が折れる音が牢屋に響く。
「〜〜〜〜っ!!」
「次は右足かな」
「わかったっ!話す、話すからやめてくれ!」
「物分かりのいい奴は楽でいいな」
「仲間の規模と居場所は?」
「……教団の信者は三百人ほど、居場所はスラム街から通じてる下水道だ……」
一応監視についていた牢屋番に、後は任せた、と一声かけて牢を出る。
何か文句を言っているが気にしない。
これから一段と忙しくなるな、とシヴェルはお堅い団長が待っている兵舎へと歩き始めた。