起動編10
良ければブクマ等よろしくお願いします
さて、あれから十日ほど経った。
神官長たるアドルが巡礼の旅を開始するというビッグニュースは神殿内に電撃のように流れた。
結果要人を一人旅させるわけにはいかない、と最低限の護衛が二人と従者が一人、旅に同行することになった。
そして私はというと。
杖になっていた。
人骨100%の持っただけで呪われそうな杖、こと私である。
アドルの旅の目的というのも迷宮より生成された呪物、という設定の私を本殿の禁呪庫へと送り届けるというもの。
人骨で構成された悪趣味極まりない杖が存在し、かつ神殿長が持ち続けられるという特殊な条件を考えたらこれくらいしかなかった。
「何だか呪われそうな杖ですね」
「ああ、これに触れたが最後耐性のない君たちだと最悪死ぬよ」
と、まあこんな具合で脅したら護衛も従者も近寄ってこなくなった。当たり前といえば当たり前だが。
そんなこんなで今の現在地といえば第三都市アルチェロを出発して数日馬車で移動した、目的地の王都フリヴォロまで残り3分の2といったところである。
と言っても私は王国の地理に明るくないので従者の言曰くだが。
「アドル様、お耳に入れたいことが」
護衛が仕切りのカーテンを持ち上げて話しかけてくる。
「何やら追っ手がいるようです。攻撃してくるわけではないのですが一定の距離を付かれています」
何だ何だとアドルと一緒に馬車の後方を覗くととそこには見慣れた犬が。
わ、忘れてた!
私がバラバラになって持ち去られた後空気を読んで隠れていたのか?
流石に馬車の速度だとなりふり構っていられなくなったのか。
「どうしましょう我が主、この護衛と従者がいる中で大手を振って合流するわけにも行きませんし……」
小声でアドルが話しかけてくる。
うーむ。
あっいいこと考えた。
「アドル、襲われたことにしよっか」
「そうですね。彼らには悪いですがそれがいいかと思います」
アドルが私を掲げる。
瘴気が立ち込める。まず初めに症状が現れたのは馬だった。
馬車を引くもの、護衛を乗せるものの順に地へと倒れる。
「なっ、何が起こって……」
次に乗っていた護衛が、そして最後に馬車の操縦をしていた従者までもが死に至る。
アドルが杖を分解して組み直す。
「さて、行こうか」
「我が主、少し待っていてもらえますか?」
「何かあったっけ?」
「いえ、念には念を、と思ったまでです」
アドルを見守っていると唐突に服を脱ぎ始めた。
「なっ何を」
そのまま脱いだ服を従者だった死体に着せる。
代わりにアドルは従者の服を着た。
そのまま馬車から降り、アドルは馬車に火を放つ。
「これで、しばらく捜査は撹乱できるでしょう」
「頭良いな」
「お褒めに預かり光栄にございます。では、行きましょうか」
何はともあれまずはロルトと合流しなくては。
「失礼します!」
「何用だ」
王都フリヴォロの第二騎士団詰め所の執務室に兵が入室する。
黒い長髪の、部屋の主は読んでいた書類から目を離し、入室者に氷の視線を向けた。
「報告書です。都市アルチェロより二日ほど行った辺りで神官長殿の乗っていた馬車が襲撃にあった模様です」
「何!?アドル卿の安否は?」
「現在調査継続中ですが、馬車内部には卿の着物を着た焼死体があったようです」
豪奢な調度品が並ぶ執務室のソファーに寝転んだ男が体を起こす。
「全くこの忙しい時期に問題がまた増えたのか?」
「そういうなウォード。それにお前は寝てばかりだろ」
「エリザベス様は書類担当、俺は実働担当」
「ならあとはわかるな?」
「へいへい、現場の検証に行ってきますよ」
男が立ち上がる。赤い髪の偉丈夫は入室した兵士の身長をふた周りは超えていた。
「わりぃ退いてくれ」
「はっはい直ちに!」
第二騎士団の扱いずらい副長が去った部屋には眉間を揉む苦労人の団長が取り残された。
「全く、次から次に問題が噴出するな」
手元の書類には邪神を崇める教団が発生していると書かれている。
「書類仕事をするために騎士団に入ったんじゃないんだがなぁ」
多忙を極める騎士団長は冷めた茶と共に呟きを飲み込んだ。