起動編1
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「なぁ本当にここでいいのか?」
間違いないはずだ、と草木を掻き分けながら先頭を歩くアルトワンは言った。
後続のゼンリとエイヘムも訝しむ様子を隠そうともしなくなっていた。
目的地もわからないまま数日歩きっぱなしなら人は誰だってこうなるものだ。
なぁ、と声をかけようとアルトワンの肩に手を伸ばそうとした時、不意に視界が開けた。
木々が不自然に生えていない、小さな広場の先の崖に小さな洞窟が見えた。
「ここらで一旦小休止だ」
アルトワンはそう言って荷物を下ろした。
どうやら新しい迷宮が見つかったらしい。
それを聞いたのは二日前、酒場で酒と一緒に休日を楽しんでいた時だった。
普段ならそんな与太話は信じないが、その時は酒が回っていた。
しかし、迷宮は嘘ではなかったらしい。
現に今目の前に広がっている広場がその証左だ。
迷宮、と言うよりは魔力というものは、ともすると毒になるものだ。
それは生物にとっても無生物にとっても。
それゆえ、魔力で構成されたアーティファクトとも、半魔法生物とも言われる迷宮は、その前の土地が広場になっていることがしばしばある。石も木も魔力が風化させてしまうのだ。
アルトワンが降ろした荷物から布製の尺を取り出し、迷宮の入り口から一番遠い雑草までの距離を測る。
これは冒険者のギルドで最初に教えられる、迷宮の強さや深度の指標を測るものだ。
一般的に距離が空いていればあるほど魔力は強く濃くでているので迷宮の深度や内部に存在する魔物の強さも高くなる傾向にある。
「入口の大きさが大体縦横一人半で、魔力の漏れ出た長さが十人分だからまあ、高くても等級四といったところだろう」
「それなら私達でも大丈夫そうね」
そう言ってゼンリが立ち上がる。
その場の皆がこれから待つであろう冒険に胸の高鳴りを感じていた。
エイヘムのメイスが狼の魔物の頭部を潰す。
それはこの空間の戦闘において最後の獲物だった。
「んーここら辺でこの迷宮も終点かな。あとは迷宮主」
ゼンリが眼前に展開した魔法地図を眺めながら言う。
「周りに魔物は?」
「居ないよ」
「よし、なら休憩を挟んで装備の点検後に迷宮主に挑むぞ」
エイヘムが手首の聖印を使って結界を張る。
柔らかな薄い白色の膜が、宿の一室ほどの大きさまで球形に膨らむ。
往々にして迷宮の最終部屋というのは1番コアに近く、そのため魔力が迷宮で一番濃い場所となっている。
つまり、魔法で体を代替構成している魔物にとっては最高の居住環境と言える。
そんな最終部屋に居座る魔物を冒険者は迷宮主と呼ぶ。
「さて、全員点検終わったか?」
その場の全員がアルトワンの方に向き直り、首肯を返す。
「行くぞ!」
緊張を胸に迷宮主のいる広場へと、足を踏み入れた。