ドラゴンと職員たち
ざっと職員紹介やらなんやらの回です
「おし、おそらくこのままいけば順当に生えるだろうから、明日にはお偉いさんに報告しに行くぞ」
「完全に生えてなくていいんすか? 確かに大きくなってはきてるっすけど」
不思議そうにラムダが水槽の中の翼を眺める。
「このタイプは、環境さえ揃えば安定して成長するタイプだろうからな。それも含めて報告しに行く。しかもこのドラゴンで三匹目のドラゴンになるからランクアップして新たなドラゴンの種を入手出来る……! 念願の! 四匹目を!」
「へぇ〜。よかったすねー」
「ラムダにはこの喜びはわからんだろうな!」
うっすい反応をされる。
ラムダは最近自分がスカウトした職員だ。なのにこの扱いである。
本当の名前はちゃんとあるのだが、国の守秘義務によって名前がバレないようにこのような活動名が別につく。
自分は名家すぎて、守秘義務もへったくれもないので龍咲のままだが。
「まあ私にはこの子がいればいいっすけどね〜」
「グル」
ラムダの足元から土のような表皮で構成された、一メートル程のドラゴンが出てくる。
名前はドシン。おそらく洞窟のドラゴン。
そしてこのネーミングセンスはラムダのものだ。
重そうで強そうじゃないっすか! とか言ってつけた名前なのだが、まあこのドラゴンも気に入ってるようだし、あんまりとよかく言わなかった。
「その子にあんまり負担かけるなよ?」
「誰よりも大切にしてる自信があるっすよ? 最近なんて奮発して宝石なんか食べさせてるんすから」
「どうりで最近鉱石化してる箇所が増えてきてる訳だ。この調子だと変換期も早まるかもな……今度見てみるよ」
「マジっすか! いや〜楽しみっす!」
「今はドシンの力で、基本的な身体能力の向上が見られるが、一段階成長するとそれはそれでまたお前の力も増えるからな。その分身体への負担も大きくなるってことを忘れるなよ」
ドラゴンには、主人を選んでその者に特別な力を授けるという力を持っている。
その力はドラゴンによってバラバラだ。
ラムダの場合は先ほど言ったように身体能力の大幅な向上。
ドラゴンの管理がこんなに厳密化されているのはこれが一番の理由だ。
そもそもドラゴン自体が驚異的な力を持っていることも、管理されている理由なのだが。
「それは結構見に染みて感じてるっすよ……最近力が強くなってるとは思ってたんすけど、その分筋肉痛とかが激しいんすよね……」
「なるほどな。多分力をそのまま使いすぎだ。力の調節は大切だからな、今後に備えて今の自分に適した力を引き出せるように練習しとくといいぞ」
「どうやってっすか……?」
「あんまり力みすぎないとかで案外変わるぞ? 最終的には本人の感覚だからなんともいえないが」
「うーん……まあやってみるっす」
首を傾げながら、ちょっと訓練に行くと言って、ドシンと共に奥の部屋へと去っていった。
事務所は馬鹿げてるほど広く、職員たちが住む場所、ドラゴンと共に力の訓練をする場所、作業に必要な物品が保存されてる保管庫、自分達の食糧庫や食堂など、例を挙げたらキリがないが、軽く小さめのショッピングモールほどの大きさはある。
「よーし、俺も書類とか書かないとな」
自分も事務作業が目白押しなので、その作業を消化するため自室に戻ることにした。
「ルル……」
「おーよしよし、自室にいたのか」
机の上に陣取っているこの茜色のドラゴンは自分が子供の頃から共にいる子だ。
名前はフレス。
火とか吐くので、おそらく火の類のドラゴンだと思うのだが、変換期がそれっぽいことを試しても一向にこないから未だ調査中である。
「今からその机で作業するから退いてくれー、というかお前の重さだとテーブルが壊れかねん」
フレスの頭を撫でてやると、深く喉を鳴らしてその巨体をテーブルから退けた。
最近は自分の身長なんてゆうに越してしまって、二メートル三十二センチと中々存在感を放っている。
にしてもこの重厚感と鮮やかな身体の色彩……。
「やっぱりかっこいいなぁ……!」
いつ見たってこの凛々しい顔立ち、ドシッと構えた脚、しなやかな尻尾。
いつまでも見ていたい。
「そこで見てるのか……? 事務作業なんてつまらないだろ。ほらドシンとラムダが能力練習してるらしいから遊びに行ったらどうだ?」
それでも依然として動かない姿を見ると、もう一度頭を撫でてやる。
「じゃあ仕事の作業が一段落したら一緒に行くか」
「リル」
「よし」
満足したのか、少し離れたところに体を下ろすと、ドテンと横になり丸くなった。
「毎回思うがもうちょいドラゴンらしい寝方できないのか……?」
それに反応するかのように尻尾の先をバタバタと動かす。
「休日のおっさんか」
これはフレスだけの癖? のようで、毎回このようにして寝る。
最初は体調が悪いのかと心配したのだが、しばらくしてもケロッとしてるため癖だと断定された。
自分と一緒にいる時間が長かったからなのかもしれないが。
そんなフレスを横目に、事務作業に取り掛かった。
――しばらくして明日提出する報告書を書き上げた。あとは現場の写真撮影を撮って、明日報告しに行って終わりだ。
「ぉーぃ」
扉のずっと奥から声が聞こえる。
この声はダイナだな。食糧の買い出しから帰ってきたらしい。
数秒もしないうちに扉が叩かれる。
「開いてるぞー」
「おーう、龍咲に魚肉ソーセージ買ってきたぞ」
「マジか! 助かる!」
「お、フレスもいんのか。ちょっと待ってろ」
そう言ってダイナは体を浮かして滑るように部屋から出ていった。
ダイナは風のドラゴン、風乱から力を授かっている。
どんなことができるかというと、ああやって風を使って爆速で移動をしたり、風を使って小物を一気に運んだりできる。
この縦にも広い事務所の中でその能力を活かして、職員への連絡の伝達や、小さい資材の運搬を任している。
他にも資材調達などは、その物品が貴重品の場合や大きくない場合は大抵ダイナの仕事だ。
この前の水槽なんかは、小回りが効いて実際に手で動かすことのできるラムダが運んでいたのがその一例になる。
「ほらこれも買ってきたんだよ、ドーナッツ。うら行くぞ〜」
「ルル……!」
頭に瓶覗の色をした小柄なドラゴンを乗せたダイナが戻ってきた。あれが風乱だ。
投げられたドーナツに目を輝かして食いついているフレスと比べるとだいぶ小さいが、それでも同じ第三変換期を控えた、いわば同期みたいなものだ。
「よかったなフレス」
「食料は後で入れてくるが、ラムダはどこだ? 生活棟にはいなかったが。アイツとドシンにささみとじゃがいも買ってきたんだよ」
「今は実験棟の訓練場にいるな」
「なるほどな、ちょっと行ってくるわ」
「あ、ちょっと待て。明日これ持ってお偉いさんに報告しにいくことが決まった。ラムダには先に言ったが、覚えておいてくれ」
去りかけたダイナを引き止める。
「おお、今回は結構早いな。久しぶりにスーツ出しとかないとな……しかもそうか、今回はラムダがついてくるのか」
「ああ、あちらには二日滞在するつもりだ、少し観光してくか。荷物まとめとくようにラムダにも言っといてくれ。あとから俺も向かうが」
「いいな! おし、言ってくる任せろ」
そう言うと文字通り颯爽と去っていった。
自分は手前の書類をクリアファイルにしまうと、固まった腰を上げる。
「ううんー……! っし。よしフレス行くか」
「リル」
部屋のベランダに続く大きな窓ガラスを開けると、フレスの背中に跨る。
フレスはのしのしとベランダに出ると、柵に手をかけて飛び降りた。
高さは三階。
フレスがその大きな翼を力強く羽ばたかせる。
「いい景色だなフレス!」
「ルル……ッ!」
グアっと顔面に風を感じると、その身は軽やかに空へ舞い上がる。
心地よい風、ここからしか見れない景色。
青空に飛ぶ。
ああ。なんて心地よいのだろう。
少し暖かなフレスの鱗をしっかりと掴み、実験棟へと向かった。
ドラゴンってかっこいい......!
自分も空を飛んでみたいですね。