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ダンジョンへ行こう!!  作者: 友人B
ファイル『JM4021K』
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2043年 5月14日

 よく知らない相手との待ち合わせは緊張する。僕は失礼のないように待ち合わせ時間の30分も前に到着したのだけど、相手も同じだったらしい。

 昨日のパーティーメンバーのうち3人は僕より先に着いていた。


「あ、もう来たんですか? なんか気を使わせちゃったのかな?」


「い、いや、そんなことないよ。僕が心配性なだけで……」


 昨日のジャイアントボア戦の後、僕たちの傷を回復してくれた黒髪ロングヘアの女の子、大峰シズカさんだ。可愛い顔を満面の笑顔にして僕を迎えてくれる。

 パーティー加入のお誘いをしたら、彼らは二つ返事でOKしてくれた。というより大歓迎してくれた。

 特に魔術系の女の子二人組が大喜びだった。シズカさんもその一人である。僕はそのことを思い出しちょっと照れた。

 ちなみにシズカさんの攻略者ネームは『黒アゲハ』だそうだ。なんとなくだけど似合っている気がする。


「私たちも気が急いて早めに来ちゃったんだよね。初めてまともにダンジョン攻略できるかもってさー。ね、ユッコ?」


「そうなんだよねー。あたしすごく楽しみ! 今日はよろしくね相川君」


 そう言って話しかけてきたのは、髪の毛が派手なピンク色でピアスや指輪も付けているオシャレ度の高い女の子だった。

 彼女も魔術系攻略者で、名前はたしか細井ユウコさん、攻略者ネームは『ぶんる』。気絶から回復したらデスルーラされていなくて本気で喜んでいた。確かに、装飾品の類も没収されるから彼女にとっては死活問題だったのだろう。


 彼女は僕の手をいきなり鷲掴みにしてブンブンと上下に振りながらお礼を言ってきた。顔は満面の笑みである。


「ほんと、昨日はありがとね! もう意識失ったときは素っ裸にされるって覚悟決めてたんだよー。でも無事に帰ることができたし、しかも前衛系の人が二人も入ってくれるんでしょう!? さいっこうだよ!!」


「……私からもお礼を言わせて」


 賑々しい彼女の後ろから、小さいけれど良く透る声でショートカットの女性も話かけてきた。

 彼女は技術系の攻略者で、名前は遠藤ユウカさん。攻略者ネームは『ユウカ』と自分の本名を使っている。あまりダンジョン攻略に興味のない人は本名をそのまま使う場合が多い。

 実際彼女の雰囲気も他の2人とは違って、クールというか一歩引いている感じだ。

 年齢も誕生日も三人とも近いはずなのに、全く性格が違う。よくパーティーを組もうとしたものだと思ってしまう。


「昨日はちゃんと言えなかったしね。ありがと、相川さん。あと今はいないけど『タンク』さんも」


「あ、いや。僕は大したことはできてないし、ほぼ宇賀せ……『タンク』のおかげだしね」


 僕は謙遜してしまう。実際、役に立ったのは1階層とはいえ階層ボスを一人で抑え込み続けていた宇賀先輩のおかげだし、僕はすぐ気絶してしまった。お礼を言われるほどのことはしていない。

 しかし僕の言葉に、未だに手を握り続けていたユウコさんが否定してきた。


「そんなことないよ! あたしは見てないんだけどさー。シズカがすごい誉めまくってたんだよ? 凄い必死で助けようとしてくれてた、とかバッて身をもって助けてくれた、とか昨日夜遅くまでサジテンで……」


「ちょ、ちょっとユッコ! やめてよ!」


 後ろからシズカさんがユウコさんを羽交い絞めにする。少し顔が赤いシズカさんと口を押えられながら笑ってじゃれ合っている二人を見ると、パーティーを組んだばかりとはいえないほどの仲の良さだ。

 僕と宇賀先輩みたいに、中学校かなにかで元から友達だったのかもしれない。


 僕はハハハと笑いながら昨日から考えていたことを言う。


「あ、そういえばなんだけど、僕のことはこれから攻略者ネームの『マンティス』で呼んでもらっていいかな? みんなのことも攻略者ネームで呼んでいい?」


「そうね、その方がすぐに覚えられるし魔法使うときも便利だしね」


「うん、おっけー。あはは、でもちょっと恥ずかしいなこれで呼び合うの」


「そうね、その方が効率的だしね」


 彼女たちはすぐに同意してくれた。実際攻略者パーティーで活動するときは攻略者ネームで呼び合う方が実用的なのだ。

 昨日シズカさんが僕にかけてくれた初級回復魔法『ミナセ』や他の支援系魔法『ラディカル』や『エンバー』なんかは、攻略者ネームを言わないと反応してくれない。普段から攻略者ネームを言い合って慣れておかないと、いざというとき魔法をかけることができない、なんて事態になってしまうことがある。

 あまりバフ魔法を使わない前衛二人、しかも正式なパーティーを組んでいなかった昨日の僕たちならともかく、これから正式にパーティー活動するなら攻略者ネームで呼び合うのは必須である。


「じゃあもう今からでも使い始めないとね。『ぶんる』『ユウカ』、それと『マンティス』君」


「まあ覚悟してたけど、やっぱりちょっと恥ずいなー。シズカも『黒アゲハ』って恰好良すぎじゃない? あーあ、あたしもユウカみたいに本名にしとけばよかったかなぁ」


「何言ってるの。ノリノリで自分の名前決めてたじゃない。『ぶんるってかわいくね? 本名そのままとかユウカそれでもいいの?』とかって」


「えー、言ってたっけなぁそんなこと」


 3人娘が姦しく話し始めた。どうやらユウカさんも同じ中学校なのかもしれない、3人とも明らかに友達っぽい雰囲気だった。

 正直、会話にちょっと入りづらい。僕は一歩離れたところから曖昧な表情で彼女たちを見ていた。


「よ! もう揃ってたか。オレたちも早く来たつもりだったんだけどな」


「……こんちわ」


 少しして、背後を振り返ると宇賀先輩と一緒に戦ってくれた技術系の男性、千ケ崎アオイ君がいた。

 千ケ崎アオイ君も攻略者ネームは本名のまま『アオイ』だ。目が少し隠れるくらいぼさぼさの前髪、小柄な体で猫背だからかなり小さく見える。己が陰気さを全く隠す気もない様子で、宇賀先輩に肩を叩かれると露骨に嫌そうな顔をしていた。


「あ、こんにちわ。ええと、『タンク』さんでいいんでしたっけ?」


「あ、昨日のデカイ人だ! こんにちわー。『アオイ』君は相変わらず暗いなー」


「……こんにちわ」


 それぞれ挨拶を交わす。これが僕のパーティーの初集合だった。

 約束の時間より10分以上も早く集合してしまった。しかし時間は有限なのだ、早く集まれるならその方がいいに決まっている。


 一番レベルが高くて学年も一つ上の宇賀先輩がまとめ役をしてくれるようで、パンと両手を大きく叩いてからニカッと笑った。


「よっしゃ、じゃあ今日から一緒に頑張りましょうってことで、一つよろしくな!」


 みんなそれぞれのテンションで「おー!」と手を振り上げた。




…………




 いくらレベル1しかいないパーティーとはいえ、6人組で、しかも一人過剰戦力(宇賀先輩)がいる。1階層の攻略は余裕だった。


「コール登録コードJM1623『チャッカマン』起動、対象『スライム』、システム実行Run」


 僕一人では手も足も出なかったスライムも、魔術系攻略者『ぶんる』さんの初級火属性魔法である『チャッカマン』で簡単に倒すことができた。


 また、動きが素早いうえに小さくてまともに攻撃が当たらないニードルビーも、技術系攻略者『ユウカ』さんの弓矢と『アオイ』君の短剣で楽々叩き落すことができていた。


 はっきり言って余裕すぎる。みんなの強さを「すごいなー」と褒めたら、『黒アゲハ』さんが僕を励ましてくれた。


「そんなことないですよ。スモールベアなんて、私たちじゃ全く歯が立ちませんでしたし。『マンティス』君もレベル1なのに一人で倒せてすごいと思います」


「あはは、回復してくれる『黒アゲハ』さんがいるから楽なだけで、一人じゃまだきついって」


 頭を搔きながら僕は謙遜する。実際、魔法が効きづらく、目を潰しても大暴れするだけで倒すことが難しいスモールベアは、前衛系の攻略者がいないと倒しづらいだろう。

 バランス良いパーティーじゃないと攻略が難しいのはダンジョンの基本中の基本だ。そこでふと疑問に思って、次の敵を探しながら『黒アゲハ』さんに聞いてみた。


「そういえば、もう一週間くらいダンジョン潜ってるんだよね? ってことはスライムとニードルビーの討伐数はもうクリア済み?」


「ええ、そうですね。もう2日くらい前にはクリアしてました。あとは経験値とスモールベアの討伐数だけだったんですよね」


 そう言って彼女のサジテンを見せてくれる。画面には黒アゲハさんのステータスと、レベルアップに必要な経験値が表示された。


【Lv2必要経験値100(100) 魔術系攻略者、必須討伐数スモールベア10(9) ニードルビー10(10) スライム30(30)】


「あれ、スモールベア9匹も倒せてるね。まだ今日は7匹しか倒してないんじゃない?」


「あ、私たちだけでも一応2匹は倒せたの。だけどすっごく大変だったんだよ! もうね、『アオイ』君が頑張って前衛代わりに避けまくってくれてたんだけど、もう1回殴られるだけで大怪我しちゃうから本当に大変で……何回も回復して何回も魔法使ってようやく倒せたんだ。ね、あの時大変だったよね『ぶんる』?」


「うん、マージだるかった。もう何度も詠唱させられて呂律が回らなくなってたよー」


 話を聞いていたらしい『ぶんる』さんが後ろを振り向きながらその時の大変さを愚痴りだした。

 僕は攻略者に憧れていた関係で、その手の話は知識の上では十分熟知している。彼女たちの愚痴もよく聞く内容だから、適格に同意して話を合わせていた。


 いつの間にか会話に参加していた宇賀先輩も顎を撫でながらウンウンと大げさに頷く。


「いやー、オレも3階層でさ、ちょっと用事があって臨時パーティーを欠席したことあるんだけどな。その時すげー文句言われたわ。前衛いないせいでろくにレベリングができなかったぞ! ってな」


 ガハハと笑いながら宇賀先輩も自分の経験について話す。彼女たちも経験者の話は是非聞きたいのか、宇賀先輩の話を真剣な眼差しで聞いていた。


「……静かにしてもらえませんか? 次の敵、いましたよ」


 会話に混ざってなかった二人のうち『ユウカ』さんが宇賀先輩の話に割り込んできた。いくら余裕があるからって集中していないことに気づいたのか、宇賀先輩は素直に謝る。


「おっと、すまねぇな。ダンジョンで死ぬことは滅多にないけど骨折くらいは良くやらかすからな。気をつけねぇと。悪い悪い」


「……いえ」


 『ユウカ』さんがそっぽ向いてしまった。嫌われてしまったのだろうか。僕は『黒アゲハ』さんと『ぶんる』さんに目くばせすると、彼女たちも軽く首をかしげていた。どういう意味なんだろうか。

 とにかく集中しないといけない。僕は目を凝らして次の敵を目視する。


「あ、スモールベアだ。僕の番ですね」


「おう、任せたぞ」


 宇賀先輩はあまりにも強すぎるとのことなので、基本的にパーティーの前衛は僕が務めている。

 また階層ボスに出会ったり、複数のモンスターに囲まれたときは宇賀先輩を頼るつもりだが、それ以外は手を出さない方針である。


 僕は剣を構えてまっすぐに飛び出す。攻略者になる前と違って、すごく体が軽く感じる。思った通りに動くというか、そんな感じだ。


「コール登録コードJM1623『チャッカマン』起動、対象『スモールベア』、システム実行Run」


 すかさず『ぶんる』さんが火属性の魔法を使ってくれた。ダメージ目当てというより目くらましの意味が強い。

 僕は背後から飛んでくる火の玉を身を屈めて避けてから一気に飛び掛かった。


 火にまかれて毛が焦げたのか、はたいて火を消そうとするスモールベアの隙だらけの胴体を縦に切り裂く。血は出ない。僕の一撃だと弱すぎることは知っているので、すかさず2撃目、3撃目を繰り出す。


「うがああああああああ!!」


 スモールベアの断末魔の叫び。トドメに真っすぐスモールベアの体躯のど真ん中に剣を突き立てた。


 と、途端に僕の背後からファンファーレの音が鳴り響いた。びっくりして振り返る。


「あ、やっとレベル上がった!」


「やっほー! ここまで大変だったねぇ。うんうん、良かった良かった」


「やったわね」


 僕以外の4人の討伐数がようやくクリアできたみたいだ。先ほどの場違いなファンファーレはサジテンからのものだったらしい。

 僕は軽く手を叩いた。


「おめでとう、よかったね」


「うん、本当にありがとうね『マンティス』君。助かったよー」


 『黒アゲハ』さんが満面の笑顔でまた僕に感謝をしてくる。彼女の笑顔にはまだ慣れてない。照れてそっぽを向いてしまう。


「おー、4人はもうレベル2か。あれ、『マンティス』はまだか?」


「あ、ちょっと数がズレてるみたいですね。あとスライム1匹で終わりです」


 そう言ってサジテンを見せる。必要経験値も討伐数も足りているが、スライムだけ1匹足りない。


 それを見て宇賀先輩は顎を撫でながら、うんと一つ頷いた。


「じゃあ、戻りがてらスライム1匹だけ倒して、次はみんなで2階層行こうか。ついでにお昼休憩だ」


「おー!」

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