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碧眼の戦乙女ビアンカ・シュミット〜その瞳に映る世界が移ろうとき〜  作者: 風花 香


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14/15

繋がれる世界

 レオンに先導され、ヴェリア王国へ続く間道を馬の背に揺られながらビアンカとラファエルは進んでいた。

 鬱蒼とした森を抜け、拓けた平原へ出るとレオンが馬を止める。


「ここまで来ればもう大丈夫。ここから先、巡回する兵士はもういない」

 

 一度はレオンの告白を受け入れて、共に過ごす決心をしたビアンカ。レオンの覚悟を見定めてビアンカを託す事を決心したラファエル。


 しかし二人の本当の気持ちの在処がそこにないことを見抜いたレオンは、自らこの不器用な二人の背中を押した。ビアンカを想う気持ちが本物だからこそ、レオンは自ら身を引いた。どこまでも真摯で気高い、それがレオンという男であった。


「リーツマンが僕を試す為にやった迫真の演技は裏を返せば本気の表れ。あの時の凄まじい気迫は、僕に一寸でも迷いがあれば斬り捨てる、そんな覚悟を伴ってたよ。だけど」


 レオンの目尻がいたずらっぽく歪曲する。


「気迫に実力が伴っていなかったかな? リーツマンは前線に立つタイプじゃなさそうだね」


「くっ、それを言うな。レオンを相手に剣を交えただけでも頑張った方だ。あれでも火事場の馬鹿力を発揮したよ」


 恥ずかしそうに眼鏡の位置を直すラファエルをレオンとビアンカがクスクスと笑う。


「レオン……本当に、本当にありがとう」


 ビアンカの心からの感謝にレオンは柔和に微笑み頷いた。


「レオン」


 下馬したラファエルがレオンのもとに歩み寄ると深々と頭を下げる。


「感謝する。俺の犯した過ちから、ビアンカを呪縛から解き放ってくれたのはお前のおかげだ。そして二年前、お前の許嫁を」


「隊長、それを謝るのは隊長ではありません」


 止めた。今度こそラファエルが罪を被る事をビアンカは止めた。その罪はビアンカ自ら清算しなくてはならない。

 しかし。


「いいんだ。リーツマン、それにビアンカも」レオンが穏やかな口調で続く言葉を止める。


「僕の心が復讐という怨嗟に染まらなかったのは死に際のフローラの願いのおかげだ。その願いを遵守する事こそ僕のフローラに対する誠意であり愛だ。そして、今またビアンカの心からカナンへの憎しみを取り除き、復讐の鎖を断ち切れたならば」


 瞑目したレオンが大きく息を吐き出し、再びビアンカ、そしてラファエルに澄んだ眼差しを送る。


「僕がビアンカに出会えた事にはとても大きな意味があったと思える」


 馬首を巡らせ、レオンが二人に背を向けた。


「ビアンカ、僕は軍へ戻るよ。やるべき事が見つかったんだ」


 寂しそうなビアンカの瞳がレオンの背中を見つめた。悲壮な覚悟がその大きく逞しい背中に灯っているのを見抜いて。


「そうだな。お前程の人間がこのままでいいわけがない。レオンならきっと、とても大きな事をやってのけるだろう」


「ははっ! リーツマン、あなたもね」


 二人の男は互いを称え合い、爽やかに笑った。


「それじゃあ、ビアンカ……元気でね」


「あなたも、レオン」


 その交した言葉を最後にレオンが馬の胴を蹴った。疾走した馬は森の中へと駆けて行き、すぐにその姿が見えなくなった。


「それじゃあ、私たちも行こうか。ビアンカ」


「はい。ラファエルさま」


 見上げたカナンの空の青さは今まで見たどんな空よりも美しく、それはそのままヴェリアの空まで続くのだった。

 














 城の上層階にある荘厳な一室で初老の男が下卑た笑みを漏らす。燭台の蝋燭が暗い室内を仄かに照らし、金勘定に勤しむ男をぼんやりと浮かび上がらせていた。


「くっくっく、下民共から絞れるだけ絞り取り、後はリーツマンの愚か者がカナンを攻め落とせば更なる莫大な利権が儂に転がり込む。全ては儂の思うがままよ」


 びゅうっと室内を吹き抜けた冷たい風が蝋燭の火をかき消した。

 部屋が暗闇に包まれ何事かとバルコニーに目を向ければ、侵入など不可能なはずのそこに賊と思しき影が浮かび上がっているではないか。


「アンドレアス国王陛下とお見受けします。ヴェリアの民を苦しめる諸悪の根源」


 声は女のもの。


「な、何じゃ!? 貴様はッ! だ、誰かある! り、リーツマン、ラファエル・リーツマンはどうした!?」


 喚き立てる国王にゆっくりと歩み寄る襲撃者の影。

 

「は、はわわ……寄るなッ! 下賤の輩が! 寄るなぁッ!!」


「いざ、正義の裁きを」


 壁際に後退し腰を抜かした国王が最期に見た光景は暗闇に浮かび上がる青く光る碧眼であった……。






 ヴェリア王国において、ラファエル・リーツマン主導のもとクーデターが勃発。悪逆の限りを尽くした国王アンドレアスは斃され、王弟殿下ヘルムフリートが次期国王として即位した。

 圧政に苦しむ領民を救ったこの事件は正義の革命として歴史に名を刻む。

 一方、時をほぼ同じくして、隣国カナンにおいてジークフリート・バッハシュタインとその弟レオンが国王に対して謀反。


 両軍入り乱れての乱戦となったが、ヴェリア王国軍第一部隊がジークフリート側に援軍として加担。カナン王国においても悪政を敷いた政府が打倒され、新王にはカナンの英雄ジークフリートが就いた。


 長年の因縁が募り積もった両国であったが、これを機に共に手を携える事を約束。不可侵条約並びに、永続的な同盟を締結するに至る。


 そして、訪れた平和の象徴として両国において縁の者たちの結婚式が挙げられる事となるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わぁあ、敵だったのに男同士で分かり合える姿、めっちゃ好きです!! そして、あれがビアンカの最後の暗殺となりますように……。 あの描写があるからこそ、物語が締まりますね。 最後はやっぱりビ…
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