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転生したらおやゆびサイズでした  作者: 碧りいな
僕の奥さん
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最終話 僕の奥さん


 「ちょっとリリア!どういうこと?!急にお式を取り止めたいだなんて!」


 お休みのリリアを呼び出すのは忍びないけれど緊急事態だ。


 今日リリアはアルブレヒト様と新居の下見に行くと聞いていた。だけど突然顔面蒼白のアルブレヒト様が私の執務室に押し掛けてきたのだ。


 「アルブレヒト様、大パニックだったわよ。もう何言ってるかさっぱり解らなくて、唯一理解できたのはリリアがお式を取り止めたいって言い残して帰っちゃったってことだけで……あなた達一体何があったの?」


 事と次第によっては覚悟しやがれ……と拳を固めながら尋ねたが、リリアは他人事みたいに首を捻った。


 「何がってわけじゃないんです。ただふと結婚がわたくしの本当の幸せなのかしらって考えるようになって……わたくしはアルブレヒト様の妻になるよりも妃殿下のお側でお仕えしている今の方が幸せなんじゃないか、そんなふうに思えて来たんです」

 「有り難いけどそうでもないと思うわよ?それに何年越しの想いを実らせた結婚なの?あなたね、それきっと良くあるマリッジブルーよ。直ぐに治まるだろうから落ち着いて!」

 「だって、だってわたくし……アルブレヒト様よりも妃殿下が大好きって……申しましたでしょう?」

 

 うん、言ってた。確かに言ってた。でも恋と敬愛の違いがあるとも言ってたよ?


 「あのね、本当に本当に私を大切に思ってくれるのは嬉しいわ。でも何時までも私に縛り付けてはおけないのよ。私は誰よりもリリアに幸せになって欲しいんですもの」

 「女の幸せは結婚だけ、妃殿下もそうお考えですの?」

 「そうじゃないのよ、でもねリリア」


 珍しく興奮したリリアがおいおい泣き出した。なにせ私は超が付くほど早婚でしかもスピード婚で、結婚するって自覚が有るんだが無いんだが、というよりも殆どないまま結婚したからこういう経験はないけれど……


 これ、ザ・マリッジブルーに間違いなくないですか?


 「もうすぐ赤ちゃんがお生まれになるのに……」

 「うん」

 「妃殿下のお世話は今よりももっと忙しくなって……でもやり甲斐も増えるのに……」

 「うんうん」

 「赤ちゃんが成長して『そろそろロンパースをお召になる時期ですね』とか『いよいよお靴の準備を始めないと』とか、そんな相談なんかも必要になるのに……」

 「うんうんうん」

 「そこにわたくしは居ないのです!」


 泣き崩れたリリアを宥めながらマリッジブルー経験の無い私は途方に暮れた。なにせ経験がないので慰めるスキルもない。前世でもぐいぐい来る涼太に押し切られ何となく流れで結婚してしまったので深刻に考えなかったからマリッジブルーとは無縁だったし、我ながらどこまで使えない燕なんだろう。こんなに尽くしてくれたリリアに掛ける言葉の一つも浮かばないなんて……情けなくて虚しくて涙が滲んでくる。


 私達は目が腫れ上がって誰だかわからなくなるまで抱き合って泣き続けた。


 


 「あの時はどうなるかと思ったけれど……」

 

 やれやれとため息をつく私の頭をリードがご苦労さまと笑いながら撫でた。


 式を終えて聖堂から姿を現した花嫁姿のリリアは本当に美しくて光輝いている。アルブレヒト様はメロメロだ。そしてジェローデル侯爵はデレデレだ。このイケおじの目尻が際限なく垂れ下がっている。気立ての良い、しかも美人のお嫁さんが来てくれたのが嬉しくてたまらないらしい。当然よね、うちの自慢のリリア・エテルガルド嬢なんだもの。大切にしてくれなかったらどうなるかわかってるわよね?



 あの翌日、目が一本の線になったリリアはそんな顔ながら何故か晴れやかに現れた。


 理由は謎だ。絶対に馬鹿馬鹿しい惚気話を聞かされるだけなので一切それには触れなかったから。どうせ、どうせアルブレヒト様に二度目のプロポーズでもされたんだろう。もう踏ん切りがついたとかなんとか言って一人でさっぱりしちゃってね。情けなさに悶々として眠れなかった私だけがぐったりしていた。


 「無事にこうやって幸せな花嫁さんになってくれてほっとしたわ。お式の直前まで心配していたんだから」

 「僕の奥さんは心配症だなぁ。あの二人の熱愛ぶりは微笑ましいを飛び越えてバカバカしいくらいじゃないか!」


 まぁそうなんですけどね。


 もう勝手にして。愛し合う二人に幸あれ!!よ。


 やれやれと安堵の溜息をつき大分目立つようになったお腹を擦る私の肩に、リードがショールを掛けた。


 「さぁ、もう戻ろう。疲れてはいけないからね。お腹が張ると辛いんだろう?」

 「リリアにお祝いを言ったらダメ?」

 「後で城に顔を出してくれと頼んであるよ。だから先に戻って一休みしておこう」


 お腹が膨らむにつれて過保護が酷くなったリードは鬱陶しいったらない。


 だけど私、もうすっかり諦めているだ。


 あの美しい碧紫色の瞳を揺らめかせて「愛しい僕の奥さん」って言われたら、どうして抵抗なんてできるものか。


 『僕の奥さん』は素敵な旦那様にはとてもじゃないけれど太刀打ちなんて出来ないのだから。

 

 

 

 


 

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] おやゆび姫以外の童話のチョイスも、渋くて良い。主人公が超絶可愛いくてナイスバディなのに引きこもりで内弁慶で自己肯定感がやたら低い。これには前世が深く関わってるってのがベースにあるんだけどそ…
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