表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらおやゆびサイズでした  作者: 碧りいな
僕の奥さん
97/99

追話 ヘルベルト先生


 「妃殿下、いい加減に診ていただいた方がよろしいのでは……」


 青い顔をしてぐったりした私にリリアが言うとリードの顔まで青くなる。


 「いい加減にって……何時からなんだ?何時から異常があったんだ?」

 「吐いたのは今が初めてよ。それもきっとリードが無理に食べさせたせいだわ!」


 文句を言いながらリリアが差し出した水を口にした私は、またえずいて洗面所に走った。今度はリードが追いかけてきて背中を擦ってくれている。


 「ねぇリセ、医者に診てもらおう。こんなの普通じゃないよ。杏ジャムしか食べられないなんて……もし悪い病気だったら……」

 「杏ジャムだけを食べて生きていけば良いんじゃない?杏ジャムなら美味しく食べられるもの」


 いらんことを強制されたせいで二度もゲロった私はぶんむくれて口答えをしたが、聞いてるんだかいないんだか、私を見下ろすリードの瞳はゆらゆらと水の中で揺れている。


 え?泣いてるの?


 「リセ……医者を呼ぼう。君に何かがあったら僕は生きていけない……」

 「うーん、あと一月待ってみない?」

 「一月なんて!その間に手遅れになったらどうする?」


 眉尻をつり上げてリードが大きな声を上げた。


 「一月は待ちすぎかと……大丈夫、もうハッキリわかりますよ」

 「だけどこの世界……検査薬とかエコーとかないし……間違いだったら……」

 「妃殿下が仰るような便利なものはありませんけれど、それでも誤診なんてほとんどないですから。ね、妃殿下」


 お怒りのリードを完全無視し私の肩を擦るリリアが優しく諭してくれる。でも私はやっぱり不安なのだ。不安でたまらないのだ。


 「杏ジャムを貪り喰うなんて聞いたことないもの」

 「この時期は色々らしいです。誰もが酸っぱい果物を食べたがる訳じゃないみたいですよ」

 「でもね……リリア、私怖いのよ。間違いだったらどうしようって。どんなにみんなをかっかりさせてしまうか……それに私も立ち直れないわ」

 「もし間違いでも誰も妃殿下を責めたりいたしませんよ。念のため、念のためです。一応診て頂いて、違ったらそれで良いんです。ね?」

 「でもねリリア。ローレンツって本当に可愛いの。この頃はあやすとケタケタ笑うじゃない。もう可愛すぎて胸が痛い位で兄さまが私を溺愛したのが今更ながらに理解できたのよ。だから私……」


 只今リセ叔母様は甥っ子のローレンツ君に夢中だ。ぐにゃぐにゃの新生児だったローレンツ君も可愛かったが、パッツパツに太ってきた今のローレンツ君は天使以外の何者でもない。しかもパパ似、つまり超絶美形の兄さまの血を色濃く受け継いでいて顔が良いんです、うちの甥っ子ってば。


 「……ローレンツに何の関係があるんだ?」

 「良いから殿下。ヘルベルト先生をお呼びしますわ」

 「ヘルベルト医師?何故ベルン医師にしないんだ?」

 「ベルン先生は専門外ですから」

 「バカな!ベルン医師は国一番の名医だぞ!専門も何もベルン医師の方が安心じゃないか!」

 「良いからヘルベルト先生を呼んで!それもこそっとよ、こそっと。なんならここまで箱に詰めて連れて来て欲しいくらいなんだから!」


 口を挟んだ一層イライラしている私の口調に若干怯えつつリードはまだベルン医師を推していたが、私とリリアは超がつく程適当に聞き流し、三十分程で変装したヘルベルト先生が到着した。引っ掛かるものなど何もない頭に乗ったカツラが思いっきりずれていたけれど、この日に備えて変装セットを完備していたという熱意に免じて目を瞑ろうと思う。


 リードは部屋から追い出された。どうしてだとごねまくるリードには手を焼いたが護衛騎士を呼ぶ訳にも行かず、力ずくで追い出したリリアって凄い!あんなに華奢な細腕で!!


 診察が終わりドアが開くなり飛びこんできたリードにヘルベルト先生は意識してゆっくりと落ち着いた声で説明を始めた。


 「先ずですな、今は無理して食事をせずともよろしい。吐き気を催して戻してしまうだけです。食べたいものを欲しいだけ食べ、あとはできるだけごゆるりと過ごされますよう」

 「し、しかし、妃は杏ジャムしか食べていないんだ。いくらなんでも身体を壊してしまうだろう?」

 「一時的なもので直におさまりますからご心配には及びませんな」

 「そうなのか?だが杏ジャムだけでは」

 「そのうち好みが変わられて全く違うものをご所望になるやも知れません。なーに、それもよくある事です。それにどんなに長くても夏の盛りは消えてなくなりますよ」

 「夏の盛り?何故そんな時期に……?」


 腕組みして真剣に考え込んでいるリードをチラ見した医師は漸くリードの鈍感っぷりに思い当たったらしい。リードが受けるであろう慟哭を最小限に食い止めんと敢えてさらっと『お産の予定は8月ですので』と告げてくれたんだけど、その最小限もリードにとっては凄まじいインパクトだったみたいで。無表情になって静止しピクリともしないからジェローデル侯爵に時間の操作魔法でも喰らったかと思ったわ。


 それもまあ十秒程で回復し、リードの視線は私とヘルベルト先生とを忙しく往き来した。


 


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ