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転生したらおやゆびサイズでした  作者: 碧りいな
僕の奥さん
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追話 砂糖細工


 「両親がいた頃取引していたホテルがあって、そこの跡取り息子と顔見知りではあったんだけど…」


 両親を亡くし一人になって四苦八苦している時に何か手伝えることはないか?そう聞かれたけれど、ホテルの仕事で忙しい彼に頼める事なんて思いつかず、店を切り盛りするのに無我夢中だったデボラさん。


 久し振りにばったり息子さんと会ったのは、私がこの世界に戻ってしばらくした頃だった。

 

 また取引を再開してもらえないかと持ち掛けられたデボラさんは二つ返事で引き受けた。そしてホテルに出入りするうちに彼と頻繁に顔を合わせるようになつた。


 彼はどうやらデボラさんとルキアが恋人同士になったらしいという噂は耳にしていたが、その後の事は知らなかったそうだ。私が居なくなって寂しくなったデボラさんはすっかり元気を無くしていた。その様子を心配した彼が食事に誘い、バーでお酒を飲んで酔っ払ったデボラさんが一切合切、おまけにおやゆび姫の私や魔法使いのことまで包み隠さず話した為に全てを知ったのだ。


 『は?何言ってんの?』ってならなかったのは彼が店のショーウィンドウのドールハウスを見ていたからで、あまりにも精巧なミニチュアに大きな疑問を感じていたらしい。そしてそれらがどシスコンから贈られた転移品の数々と知りすとーんと腑に落ちて丸ごと受け入れてくれたんだって。


 「しばらくして彼はプロポーズしてくれたの。でも私、お断りしたの」

 「へ?何でですか!」


 デボラさんの話の端々から彼がいい人なのが伝わってくる。どうやらずっとデボラさんに片思いしていたらしいことも。それなのにどうして?


 「リセちゃんと取り戻した店を続けたかったの。彼と結婚したら妻として彼を支えなくちゃならない。両方なんてとても無理だと思ったから」


 デボラさんは別れを告げ彼に会うこともなくなった。


 でも彼はこの半分が優しさで出来ている気遣いの権化、しかも超美人で一流の技術とセンスを持つ菓子職人のデボラさんを諦める事ができなかった模様!


 店は名前も店舗も事業形態もそのままに経営をホテルの傘下としデボラさんは責任者としてそのまま続けて良い。ホテルは今迄通り部下達とやっていくだけの話。何もいらない、君さえいれば的なあれこれで情熱的に口説かれて、ついにデボラさんはオッケーした。


 でね、ホテルの規模を聞いて驚いたんだけど、私が働いていた帝邦ホテルとほぼ同格の国を代表する名門ホテルだった。彼はウルトラ御曹司だったのだ。


 それを重々理解していながら断るデボラさんも凄いわね。でもそんな玉の輿なんてものともせずに両親から引き継いだお店を守りたいっていうデボラさんの一途さは、彼の心を大きく揺さぶった事でしょう。


 「両親が亡くなってから夜会どころじゃなくて今夜は久し振りなの。でも先代様がエスコートして下さるから心強いわ」


 そう言ってはにかむデボラさんは相変わらず可愛らしい。平民だけど大店菓子店のご令嬢だったデボラさんは社交界デビュー済みだ。豪華なドレスに負ける事なく堂々と着こなしているし所作だって綺麗。きっと今夜は男性諸君の視線を集め、たじろぐ程大きいけれど品が良いダイヤモンドの婚約指輪の嵌められた左手を見て多くの男性にがっかりされるんでしょうね。



 その夜ーー。


 デボラさんの美しいウェディングケーキは夜会で振る舞われお客様達に大好評だった。


 最上段に飾られた赤いチューリップの花の中で座っている金色の巻毛の女の子の砂糖細工は、この世界のスケールのデボラさんのジャストおやゆびサイズで、だけど素敵なウェディングドレスを着て幸せそうな笑顔を浮かべていた。



 

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