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転生したらおやゆびサイズでした  作者: 碧りいな
アンネリーゼ
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庇護欲


 だけどその見えない何かは確かに存在していた。燃え上がる炎のようなオーラを纏ったチェイサー伯爵夫人はつつっと前に進み出たかと思うとくるりと振り向いた。王妃様と共に散々立ち居振る舞いの教育的激厳指導をしてきたダメ出しの鬼のような口煩い伯爵夫人が、エレナ様達にあからさまにお尻を向けて。


 そして夫人はにっこりと淑女の笑みを浮かべ私の後ろにいる王太子妃陣営に向かって口を開いた。

 

 「まるで天から降りた天使のようですわ。妃殿下のウェディングドレスにはギラギラした宝石じゃなくて真珠で正解だったとお思いになりませんこと?」


 その言葉を皮切りに我が陣営の積もりに積もった怒りが爆発し、付いていきますとばかりに私への称賛の言葉がほとばしったのだ。


「えぇえぇ、妃殿下の無垢で純真で穢れを知らない清純さには真珠がぴったりですわ!」

 「清楚な真珠と清楚な妃殿下、これ以上の組み合わせがございましょうか?」

 「妃殿下の楚々とした清らかなお美しさがあってこそ真珠の輝きも増すのでございましょうね」

 「きっと真珠は人を選ぶのですわ。天使のような妃殿下だからこそ互いを引き立てあうのでしょう。この真珠の輝きは妃殿下の純真無垢な美しさを表しているのではこざいませんこと?艶やかと言えば聞こえが良いけれどケバケバしい出で立ちの方ではこうはいきませんもの。せっかくの真珠がくすんで見えますわよ」


 おわっ、ノリノリは良いけれど内容が段々根拠不明になって来たわね。ついでにエレナ様の顔がちょぴっと歪んだ。微妙にだけど確かに歪んだ。


 健気で素直で頑張り屋さん、花丸王太子妃のアンネリーゼちゃんは護衛騎士の皆さん同様女官や侍女達からも愛されていて、元々自慢の王太子妃殿下を誉め始めるとこんな風に暴走しちゃいがちなのだ。皆さんに悪気はないし無意識だけどテーマは『ザ・妖艶』って感じで清楚・清純とは対極にあるようなエレナ様を前にしてそれ言っちゃうのはどうなの?って私は段々焦り始めた。

 

 傷付いてますってフリをした私に庇護欲を掻き立てられたのは間違いない。だけど私、皆さんがここまで盛り上がるとは思わなかったんだもの。


 「やだわ、エレナ様の前で。恥ずかしいからもうやめて」


 『ストップよ、ストップ。みんな、そこで止まるのよ!これ以上行くと危険ゾーンよ!』という私の字幕はリリアを含め誰一人読み取れなかったらしく我等が天使、花丸王太子妃への称賛は続く。しかも『真珠が似合う』というテーマを外れ話題が次第にズレていき益々よろしくないほうに向かっていますけど……

 

 「小さなお顔に細いお首、スッキリした肩にふんわりしたお胸からのウエストのくびれ。思わず見とれますわね!」

 「そうなんですよ!まさしく理想のスタイルですわ」


 デザイナーがそう言うとアシスタント一同が大盛り上がりに盛り上がった。何とは云わないけどデカけりゃ良いってもんじゃない、形が重要だ!とか、妃殿下のは程よい大きさで上品だ、とか。だからダメだって。この風向き一番良くない方角よ?


 「補正下着を付けずにこのラインだなんて、もう溜息しかありませんわね。本当に素敵」


 女官長が頬に手を当てうっとりしながら本当に溜息をついた。何よ、さっきは『現実を受け入れるためにあるがままのお身体で試着してみましょう』なんて言ったのに!太ってはいないって言っても信じてくれなかったのは何処のどなたでしたっけね?と文句の一つも言いたいのは山々だけど……うふっ、確かに補正下着なんていらないのよね。お腹周りスッキリだし腰の上の変なお肉ないしお尻めちゃめちゃ上がってるし。忙しさを理由にダンスのレッスンをサボったりせず毎回一生懸命取り組んだわたし、グッジョブ!このスタイルは努力の賜物なのですわ!


 困った顔をしつつちょっと、いやかなり浮かれてしまった私は思わずチラッと鏡に映る自分に目をやった。


 「…………」


 今咄嗟に目をそらしちゃったけれど、見てはいけないものが映っていた……ような?恐る恐るチラッと確認してみると、やっぱり居るわ、メラメラと燃え上がる怒りで目を釣り上げ鬼のような形相で私を睨むエレナ様が。


 「それじゃあ失礼するわね!」


 一転してにこやかな愛顔を浮かべエレナ様は部屋を出て行った。でも格闘家のように肩をいからせた後ろ姿からは抑えることのできない激しい苛立ちが立ち上っている。気の所為なんかじゃない、と思う。廊下から明らかに投げた花瓶が割れる音がしてきたもん。


 残された王太子妃陣営一同は一人残らずお口ポカンだったのだが……


 「ここだけの話ですけれど……あの方って……ちょっとゴツい感じがいたしませんこと?」


 伯爵夫人は女官長にコソッと耳打ちしたつもりだったみたいだけど、エレナ様のいきなりの退場に静まり返っていた部屋では殊の外響いてしまって……


 『同感です』のアイコンタクトが飛び交った。


 エレナ様は巨乳である。ただしお胸以外もわりと逞しい。


 モリっとした肩とムチっとした二の腕、しっかりした厚みのある上半身に豊満な?腰回り。だからこそあんなに反応したのよね。


 補整下着無しの一言に。


 『妃殿下可哀想!』という同情を集めようと狙ったのに何か思っていたのとかなり違う感じになっちゃったなぁ。


 でも皆が『打倒エレナ王女!』で一致団結しているので、これはこれでありがたく受け止めよう、と私は思った。


 


 

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