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転生したらおやゆびサイズでした  作者: 碧りいな
おやゆび姫
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蘇る記憶


 夢なんて深層心理で作り出したに過ぎないもの。あまり深く考えない方が……なんて思ったにも関わらず、私はそれから連夜夢を見た。夢の私は一日毎に一歳成長していく。でもそれだけじゃない。一歳成長する度にその歳までの記憶がまるっと蘇り私の中で自分の記憶として定着するのだ。


 兄からリセと呼ばれたわたしのフルネームはアンネリーゼ・プロイデン。デボラさんの推察通りプロイデン伯爵家の娘だ。兄の名はユリウスという。


 わたし達が成長しても両親は相変わらずだった。愛人がいるとか喧嘩が絶えないなんて事はないけれど、よくこれで一男一女をもうけられたものだと感心すらさせられる位彼らの間に愛はない。そんな関係から生まれた子どもたちだもの、かわいいと思えないのも仕方がないだろうとあっさり納得して諦めをつけるくらい私はシレっとした物わかりの良い子どもだった。


 13歳になった兄が学園の寄宿舎に入るとわたしは一層寂しくなった。ただしみじみ寂しいと感じられたのはほんの少しの期間で、いつしか私もお勉強とお稽古で習い事をいくつも掛け持ちする小学生位の忙しい日々が始まっていた。できなくて叱られて泣き、泣いてはいけないとまた叱られ。優雅に見える貴族令嬢はおすまし顔の下に血反吐を吐くような努力と苦労を隠しているのだわね。


 一週間が過ぎる頃には夢の中のアンネリーゼは12歳になっていた。秋には兄が通った学園に入学する。そしてこの歳頃の貴族令嬢達とおなじように頻繁に母の茶会に同行させられるようになった。


 今日招かれたのはハイデリン侯爵邸だった。


 「アンネリーゼ、待っていたのよ!ねぇ、今日もいくつか作ってもらえるかしら?」


 わたしの姿を見つけるとハイデリン侯爵夫人は挨拶もそこそこに私を庭園に連れ出した。東屋のテーブルには庭師が見繕ろい水揚げをした花々が既に用意されている。


 わたしはハンドバッグから鋏と折り畳みの小さなナイフとを取り出した。兄さまが留学先で買い求め送ってくれたフローリストナイフだ。


 花材を次々と選び葉を落とし切り分けて手早く花束を組み上げていく。それはあっと言う間にふんわりとしたドーム型になり、茎を麻紐でしばり切り揃えると花瓶に入れた。そして花材を変えその他にも二つ一気に作り上げた。


 きっかけは我が家で開かれた茶会だった。ハイデリン侯爵夫人が気に入られた庭園の黄色いバラでお土産の花束を作って欲しいと母に頼まれたのだ。と言っても母に深い考えがあった訳ではなく、珍しい特技を持つ娘が作った花束が興味を引くプレゼントになるかも知れないという単純な思い付きだった。


 それに誰に習った訳ではなく自己流のわたしの花束が、その変った作り方にも関わらず庭師の誰よりも素晴らしいのは冷たい母も理解していたらしい。わたしが侯爵夫人へのプレゼントとして相応しい品を作れるという絶対の自信を持ってはいてくれたのだ。


 かくして花束は驚きと称賛と共に持ち帰られ、程なくしてわたしと母はハイデリン侯爵邸の茶会に招かれてはこうやって花束を作ることになったのであった。


 ハイデリン侯爵夫人はその日作った花束も気に入って下さった。そして今夜呼ばれている晩餐会に手土産としてお持ちする花束も作って欲しいと仰られた。このラッピング資材は何かしらと思っていたらそういう事だったのか。


 わたしはふうふう言いながら大きくて華やかな花束を作り、少しずらした二枚の包装紙で包んでから幾つもループを重ねた大きいリボンを手元に結んだ。


 しばらく前ならば母は花は愛でるもので花束やアレンジメントやリースを作る令嬢なんて聞いたことがないと顔を曇らせていた。それでもわたしは課されたものは何でも一生懸命取り組んでいたから、ほんの少しの余暇くらい好きにさせようと思っていたようだ。


 母の様子から何だか後ろめたさを感じ取っていたわたしは、こうやって誰かに喜ばれ社交にも役立つことができてとても嬉しかった。


 後日この花束の贈り先が明らかになり、それによって想いもよらない展開になることなんて。


 何も知らないわたしは、ただ呑気に満ち足りた気持ちで注がれた果実水を飲んでいた。


 


 「……え?」


 目覚めた私は首を傾げた。


 連夜夢で見ていたのはアンネリーゼの記憶のはずだ。そして彼女が今何歳になったかはわからないけれど、殺された私の魂が何らかの理由で異世界転生し憑依してしまった……と当然のように信じていたんだけれど。


 「どうして……花束を……?」


 取り憑かれたように無心で花束を作っていたアンネリーゼ。あの視点、手の動き、ナイフの使い方……。それだけじゃない。あれは全てが生前の私の技術だ。


 それをどうして、憑依されるよりもずっと前のアンネリーゼが身に付けていたのだろう?

 

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