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転生したらおやゆびサイズでした  作者: 碧りいな
おやゆび姫
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狂気


 「離婚はしないのに、ですか?産ませるなら離婚して彼女と再婚するのが筋でしょう?私はそれで良いって言ってるんですよ?」

 「だからぁ、そんなのみっともないからあり得ないって言ってるだろう。課長に何て報告するんだよ!」

 「それならどうするのよ?中絶してもらうの?あの様子じゃはいわかりましたなんて言うと思えないよ?」

 「だから産ませるのよ!!」


 パチンと手を叩いた義母が私たちの話を遮った。


 「可哀想じゃない、涼ちゃんの赤ちゃんなのよ。殺すなんてママは赦さないから」

 「ですから!それは私には関係ないでしょう?私は別れさせてもらいます。さっきから勝手な事ばっかり言ってますけれど、不倫して相手を妊娠させた以上涼太さんには私に慰謝料を払う義務があるんです。それさえちゃんとしてくれたら直ぐに離婚しますから、彼女とどうするかは私抜きで話し合って下さい!」

 「離婚はさせません!」


 義母は金切り声を上げながら立ち上がった。そしてゆっくりと私を見下ろし標的を見つけたかのように視線を定め私の目を真っ直ぐに凝視した。静かに少しずつ、義母の鬼のように歪んだ表情が気味の悪い微笑みに変化していく。


 「涼ちゃん、今すぐ謝りなさいな。もう二度と裏切らないって約束して。口先だけでも良いんだから、そうすりゃ沙織さんの面子も潰れずに済むでしょう?強がってるけどほんとは涼ちゃんと別れたくなんかないの。だって涼ちゃんはこんなにステキなんだから。優しいしイケメンだし身長は高いしスタイルは良いし、おまけに国立大卒なのよ?専門学校出のこの女が本気で別れたがっていると思う?」

 「そりゃまぁなぁ……」


 当然だと言わんばかりに納得した涼太に私は言葉を失くした。


 可もなく不可もない顔立ちで身長は小柄な義母から見れば見上げるように高いのだろうが男性としては平均くらいだしごく普通の体型だ。むしろ力仕事が多かった私の方が筋肉が付いているくらいで数年もすればお腹が突き出た中年体型になると思う。それに私が専門学校に進学したのはそこでしか学べない事が沢山あったからで、毎年有名ホテルや結婚式場の生花装飾部への就職を多数の卒業生が叶えているのも大きな理由だ。それなのに、そんな理由で私を見下していたなんて……


 「私は……涼太に未練なんてないけど……?」

 「そう思い込もうとしているだけよ。素直になりなさいって!涼ちゃんが謝るから、それで良いでしょう?あなたは涼ちゃんの奥さんなんだからどしっと構えていれば良いの。一々騒いで別れるのなんの、そんな我慢が効かないようじゃダメじゃないの!」


 ……どうしてだろう?どうして義母は何処までも私を悪者にできるのだろう?


 それに離婚は赦さないのに赤ちゃんは産ませるって、何を考えているの?赤ちゃんを認知して養育費を払う?そんなことを私に認めろってそう言うの?


 だがそんな私に義母が突きつけたのは到底受け入れがたい要求だった。義母は心の底から私たちを祝福するように言ったのだ。


 『おめでとう。いよいよ二人もパパとママね!』って。


 

 ∗∗∗∗∗∗∗∗∗∗


 

 「何言ってるの、お義母さんてば……」


 デボラさんはそう言ってからごくりと喉を鳴らした。


 「彼女に産ませた赤ちゃんを養子にして私たちの子どもにしろって。それで全部丸く収まるだろうって……」

 「そんな!それじゃ貴女の気持ちはどうなるのよ?」

 「私の気持ちなんてあの人にとっては何の価値もないんですよ。それに彼女の事もね。それから私、どうせ沙織さんが石女だから妊娠できなかったんだ、彼女が妊娠したのがその証拠で涼ちゃんは正常だって喚き散らされて……反論もできずにひたすら一方的に責め立てられている内に、何て言うか、心が動かなくなってしまったような感覚になったんです。もう逃げられない、この人達の言いなりになるしかないんだ。諦めるしかないんだって」

 

 あれはマインドコントロールみたいなものだったんだと思う。冷静に考えれば石女もなにも不妊外来に行ったところで不倫するようになった涼太とはそんな行為もなくなっていたんだから、あれで身籠ったら私は聖母マリア様になれるのに。それなのにあの時は全ての気力を奪われてひたすら耐えるしかないのだと思い込んだんだから。


 「涼太は謝ってきました。もう二度と裏切らないって約束もしました。でもそこに誠意なんて全然無かったんです。お義母さんに言われたから取り敢えず謝っとけって感じです。それでも離婚したいなんて言ったら謝っているのに赦さないなんて心が狭いってまた責め立てられるのが目に見えていて、私……赦したんですよ」

 「…………」


 言葉の代わりにデボラさんは嗚咽を漏らした。


 「バカですね、私。それにあんな男だって見抜けずに結婚したんだから間抜けも良いところです。涼太はね、結婚するまでは優しくてまんまと騙されちゃいました。あー、今はこんな容姿ですしデボラさんみたいな美人さんを前に言うのは烏滸がましいんですけど、死ぬ前の私ってあののっぺり顔の民族としては目鼻立ちがはっきりしていて比較的綺麗な顔立ちだったんですよね。ホテルの出入り業者の中で生花装飾部に可愛いコがいるって噂になっていたそうで……だから涼太は近づいたんですよ」

 「本性を隠して?」

 

 こくこくと首を振った私は大きなため息をついた。


 「噂になっている私と結婚なんて色々な人が羨ましがるでしょう?美人の嫁は男のステイタスなんですって。涼太はそんな優越感が欲しかっただけなんです。それで必死になって優しい振りをしていたけれど手に入れたらどうでも良くなったんでしょうね」

 「酷い、なんて酷い男なの!」

 「私も私でそんな本性なんか知りもしないでこんなに優しい人なら一生私を大切にしてくれるって信じちゃったんです。改めてよくよく考えたら私……涼太に好感しかなかったなって。好きでもなければ愛情も無くて、いい人だって思っていただけなのに結婚しちゃったんですよ」


 私はどたりと音を立ててテーブルに突っ伏した。


 

 


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