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転生したらおやゆびサイズでした  作者: 碧りいな
おやゆび姫
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誰かの事情


 意図せずして異世界に転生してしまった私が幸運だったのは『誰か』が察しの良い気遣いと気配りのできる女性であったことだ。そうでなきゃ彼女の数十分の1位しかない私は今頃死にかけているどころかひょっとしたら死んでいたと思う。


 「なにこれ」と呟きそれから長々と絶句していた『誰か』は私に指を伸ばして来たものの、ギリ!って所でその手を止めてくれた。あんなので摘まれてごらんなさいよ。骨折や内臓破裂で即死するって!


 その『誰か』はデボラさんと仰るそうで離れて見るとそりゃあもう、ハリウッド女優ばりの美しい人だった。


 赤ちゃんが欲しかったデボラさんは思い余って森の魔女を訪ねて相談し、一粒の麦を銀貨十二枚で買った。


 「私、お婆さんにどうすれば赤ちゃんができるんですかって聞いたのよ」


 ーーだよねぇ。


 デボラさんは妊娠を希望していたのであって、植木鉢で育った麦を食べたら身籠りました……的なのを期待していた。それなのに何故かニョキニョキとチューリップが育ち花の中におやゆび大の小人がいたんだから狼狽えるのも当然だ。見なかった事にしてしまおうと植木鉢ごと捨てても不思議じゃないのに、私の為に屋根裏に上がって小さい頃に遊んだっていうドールハウスを探して来てくれて、ホコリを立てぬように丁寧に拭き取りながら事情を説明してくれている。


 ホントにデボラさん、凄くいい人!


 話は逸れるがおやゆび姫は胡桃の殻のベッドで眠ったって言うけれど、いくらおやゆび姫がおやゆび大だからって胡桃の殻はどうかと不思議だったのよね。それでアンデルセンの元祖おやゆび姫を読んでみたら、あの女の子はおやゆび姫と呼ばれているにも関わらず、何とおやゆび半分の大きさだったのだ。


 名前の付け方、雑過ぎない?


 対する私はジャストでデボラさんのおやゆび大。アンデルセン先生の意向には添えなかったが、ドールハウスの家具は誂えたようにピッタリでベッドで脚を伸ばして寝られそうで良かった。お皿のお池で花びらのお舟に乗るというアトラクションにも興味無いし。


 「あなたのお名前は?お年はいくつなの?」

 「すみません、どちらもわからなくて……見た感じ、多分ハイティーンなんでしょうね。ごめんなさい、幼児ですらなくて」

 「あなたが謝る事じゃないわ」


 デボラさんは悲しそうに首を振った。


 たとえおやゆび大でもチューリップの中味が赤ちゃんだったらみるみる大きくなりました、みたいな展開も期待できなくはなかっただろう。でも鏡で見た私はどうやら十代後半じゃないかと思うのだ。デボラさんにショックの追い討ちを掛けないようにとあえて伏せてはいるけれど、結構出るとこ出て引っ込むところは……っていうナイスバディなんだよね。こんな私が急に増大しても赤ちゃんが欲しかったデボラさんは『ちょっとこれ、どうすりゃいいの!』ってより一層困ってしまうに違いない。

 

 「ごめんなさいね、気味悪かったら目を反らしておいてね」


 虫眼鏡越しに私を観察しながら声を掛けてくれるデボラさんてホントに素敵女子だ。ただでさえ巨大なデボラさんのオメメが更に拡大されて見えるコチラ側の事なんて、普通は思い付きもしないよね。


 「そうね、あなたの言う通りそのくらいの年頃に見えるわ。それに、あなたかなりの美人さんね」

 「……ですかね?」

 

 おやゆび大の私は長い金髪に翠の瞳の美しい女の子だ。大きな目を縁取る長い睫毛、ふんわりとした柔らかなほっぺ、そしてノーメイクなのにぷりんとした赤い唇という非の打ち所の無いフル装備。しかもこの金髪、勝手に縦ロール化するのだ。この容姿ならば身元不明にも関わらずおやゆびに姫を付けたくなるのも無理ないのかもなぁという気がする。


 だからといって私のこの微妙な反応にデボラさんが理解を示してくれるのは全ての事情を把握しているからだ。チューリップの中から現れた小人にも冷静に対応できる人なんだもの。自分自身が何者なのかわからない理由として、別の世界で生きていたこのコとは違う人間で、死んだと思ったらこうなっていたっていう荒唐無稽な私の話にもきちんと向き合い、そしてちゃんと信じてくれた。もう私のデボラさんへの好感度は上昇する一方だ!大好き、デボラ姐さん。

 

 「ご面倒をお掛けしてすみません……」

 「とんでもない、私こそ魔女から怪しげな物なんか買ったりしたから……あなたはとんだとばっちりだったわよね。ごめんなさい」


 デボラさんは俯いてため息をついた。


 「これからどうすれば良いのか、慌てずにゆっくり考えましょう。私に出来ることは何でもするから遠慮せずに言ってね」

 

 私は身体の前に置かれたデボラさんの人差し指に抱きついて頷きながらこっそりとちょっとだけ泣いた。


 きっと誰かに優しくされるってこんなに心が温まるんだなって、しみじみ感じたせいだと思う。




 


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