3話
あの後私はメイが何かやらかしたりしないように一足先に私の部屋に戻ってもらった。
それから今度はヤヒールトたちを案内しようとしたが、断られてしまった。「貴様ごときに案内される必要はない」とのことだった。
ヤヒールトたちは外で控えさせていた自分の雇った使用人たちを続々と中へ入れ、それと同時にたくさんの家具を運び入れていった。
その手際の速さに驚いているとヤヒールトは私に向かって「もう領主じゃない。しかも無能。そんな何もできないような人間が何もせずにこの屋敷に居座るとはどういうつもりなのだろうか」と言った。
まぁ確かにそれもそうか。
働かざる者食うべからずとも言う。
ヤヒールトたちから見れば私は何もしない無能。そんな人間がずっと屋敷にいられても迷惑なのだろう。
簡単に言えば「出ていけ」。悪い言い方にすると「追放だ」ということだろう。
私はそう考えるとアイテムバックを片手に急いで部屋に戻っていった。
部屋に戻ると、メイが頬を膨らませてベッドに座りながら待っていた。
「もう。少しは機嫌を直したら~」
「直したらって、あの男、マスターを馬鹿にしたんですよ!」
「いや。メイだって私を正論で叩き潰すじゃん」
私は呆れたようにしてそう返した。
「それは私とマスターとの信頼関係があるから良いのです」
「ふ~ん」
「マスターを正論で叩き潰して良いのは私だけなんです」
「そうか~そうか~」
私はそうやって相槌を返しながら部屋中に転がされた我が工作品たちをアイテムバックに詰め込んでいった。
このアイテムバックはどんなに重くても、どんなに数があっても、いくらでもモノを収納することができる便利なバックだ。
「……マスターは先ほどから何をしているのですか?」
「うん? 何ってそりゃここを出る準備」
「え⁉ 出るんですか⁉」
「そりゃ出るよ。てか出ていけって言われたし」
「だ、誰にですか?」
「え、ヤヒールトが」
私がそう言うや否やすぐさまメイは部屋から出ていこうとした。
それを私は部屋から出る寸前のところで腰に抱き着いたことで引きとめた。
「ちょっ、何する気なの⁉」
「何って、あの馬鹿野郎どもを抹消するだけですが」
「抹消って物騒な⁉ 少し落ち着いて。落ち着いて」
本当危なッ⁉ 止めて良かったぁ‼
「これを落ち着いてられますか⁉ マスターを私の許可なく馬鹿にした挙句、ここから出ていけ? そんなことが許されるわけがないじゃないですか‼」
「あぁ~ちょっ⁉ 待て待て待ってぇ~⁉」
私の力が貧弱すぎるせいで、メイはしがみつく私の体をズルズルと引きずりながら進んでいく。
「別に私は気にしてないから。だから止まって止まって」
「……」
「あばっ⁉」
すると急にメイは歩みを止めた。
「本当に気にしていないんですか?」
「別に気にしてないよ」
「……隠れて泣いたりしないですよね」
「何を言ってんの。私がそんなことすると思う?」
私は明るく笑いながらそう言った。
「……」
その様子をメイは黙ってジーっと見つめている。
「……」
「ほらメイも手伝って。私の工作品たちをアイテムバックに全部詰めないと」
私は黙り込んでしまったメイを背中に工作品をアイテムバックに詰めるのを再開した。
ここに散らばるのは確かにガラクタも同然のようなものばかりだが、それでも愛着というものがある。このまま置いていって、捨てられるよりは私と一緒に持っていきたい。
「はぁ……分かりましたよ」
「分かればよろしいのです」
私はそう言ってスマホを造ろうとして生まれた鋼の箱をアイテムバックに入れ。
「じゃあじゃあ、そこの洗濯機もどき入れるの手伝って」
「え。これを入れるんですか?」
「うん。これだけ置いてくなんて可哀そうじゃん」
「いや……まぁ、そうですけど……流石にこれは入らないのでは?」
「入らないじゃない。入れるのだ!」
アイテムバックの口を広げられるだけ広げて無理やり起動すると水をまき散らすだけの洗濯機もどきを入れ。
「ルンバ。ルンバ。ルンルンバ~」
「マスター……クルクル回るだけの円形物体に乗っていないで、入れてくださいよ」
「分かってる分かってる~」
掃除機能を持たず、ただ円を描きながら回るだけのルンバになれなかった何かをアイテムバックに入れ。
「マスター。も少し服の種類を増やしませんか?」
「えぇ~だけどこれ結構気に入ってるんだけど」
「そう言いましても白衣とタイツばかりのタンスって、女子のタンスではないですよ」
「あははは~。私は元男なので問題なぁ~い」
「元男でもこんなタンスではないです」
タンスに入れられた服や下着、タイツに靴下、何枚もある全く同じ白衣を入れ。
そうしていくうちに私の部屋はすっかり綺麗になっていた。
朝起きたときのように鉄やら木材、鉱石等の材料は転がっておらず、工作品も転がっていない。あるのはベッドと机、それとタンスだけ。
「いや~疲れたぁ~」
「お疲れ様ですマスター」
「あはは~。メイもお疲れさん。魔石食べる?」
「ええ。頂きます」
私はアイテムバックから手ごろなサイズの石を取り出すとそこへ朝と同じように魔力を流し込んだ。
そうして出来上がったのは人工魔石。
私が発明し、国王様からも直々に褒められた発明品だ。
「では頂きます」
「どうぞ~」
メイは人工魔石を受け取るとそれを口に入れ、バリバリとかみ砕いていく。その様子は口から流れる効果音がなければ、とても美味しそうにご飯を食べているようであった。
「前から気になっていたんだけど、魔石って味するの?」
「しますよ」
「それって石の味じゃなくて?」
「はい。石の味ではないですね。何の味かと言うと恐らく魔力の味でしょうね」
「そうなんだ~」
魔力の味かぁ~。
私は魔石を食べるなんてことはできないため、食べたことなんてないから分からないが、どんな味がするのかちょっとだけ気になる。
魔石を普通に食べたりするのは魔物ぐらいなものだ。
そう考えると私の造ったメイって、ゴーレムではなく魔物なのか? いやだけど私が参考にした本にはちゃんとゴーレムの作り方って書いてあったし。
タイトルは確か『3歳児でも分かる、ゴーレムの作り方~これで今日から君もゴーレムマスター~』だったはず。まぁ内容は難しい言葉や専門用語だらけで到底3歳児には理解できるはずもない代物であった。
てか私も書いてある内容の半分も理解できなかった。
ひとまず書いてある通りに作って、分からないところは独学で作ってと言う感じで造ったからなぁ~。
それにゴーレムの燃料は魔石だし、メイは口から接種、ゴーレムは埋め込まれるという形で、相違点はあるものの、燃料にしているという点では同じだから、まぁ魔物ではなくちゃんとゴーレムだろう。
「そう言えばマスター」
「なに?」
「屋敷を出ると言いましたが、出てどうするのですか? はっきり言ってマスターの身体能力の低さでは冒険者としてやっていくにもかなりきついですよ」
「ああーそれもそうかぁー」
確かになぁ。私ってかなりの貧弱だからなぁ。
転生ものでよくあるチートとか一切ないし。むしろデバフを与えられたと言われたら納得するほどの雑魚さだ。
そんな貧弱な体で冒険者としてやっていく。
う~ん……無理だねぇ。
「メイが頑張るってのは? メイって凄い高性能じゃん」
私がそう尋ねると、メイは顎に手をやった。
「確かに私は高性能ですし、魔物の討伐など余裕ですが、流石にそれだけでは稼ぎとしては足りませんよ」
「……」
まぁそれもそうか……。
それにずっとメイ一人頼りだといつかメイに何か起きたときとかに大変なことになるしな。
「……」
「……」
「「……」」
私とメイは二人で見つめ合いながら黙り込んだ。
「まぁ、別に良いか。なるようになるさ、だよ」
「ノープランでよろしいのですか?」
「うん。それにお金に関しては人工魔石と魔石爆弾の製作方法を売った時のお金がいっぱいあるし」
私の工作や発明品は失敗だらけではあるが、それでも成功したものがいくつかある。それはメイもそうだし、さっき言った人工魔石だってそう。そして魔石を使った爆弾、『魔石爆弾』だって成功例だ。
私は人工魔石と魔石爆弾を作った際、その作り方を国に売った。そして結構な額のお金を貰ったのだ。
際限もない量とまでは言えないが、それでも結構な量。
それがあればなんとか1、2年ぐらいは生活に困らない
「お金を崩しながらゆっくり考えていけば良いよ」
「そうですか?」
「うん。そうだよ。それにお金の使い過ぎはメイが止めてくれるでしょう」
私は笑いながらそう言った。
「あ、当たり前じゃないですか」
メイはちょっとだけ恥ずかしそうにしながらそう答えた。
その姿はまるで人間のようであったが、メイの首元から見える首の可動箇所がメイは人間ではなくゴーレムであることを再認識させる。
もしこういう非人間という特徴がなければメイのことを時折本物の人間ではと錯覚することがあるぐらいだ。
「ふふふ」
流石私が造っただけあると自画自賛していると、不思議な視線を感じた。
「どうしたのメイ?」
「……マスター何やら調子に乗っておられるので、どうやってお灸を据えようかと……」
「いきなりどうして⁉」
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