秋入梅の人
男は雨の夜の中、世の中に対して嫌悪していた。
辛いことは分かる。だが理解ができない。己の考え方が。
黒雲の中にも一人輝く朧月夜
秋の夜の雨はすごく悲しい。
僕の過去の体験のせいかもしれないが、雨の時はいつもひとりぼっちな気がするんだ。
愛に飢えてるような、ただ寂しくて耐えれないんだ。
目覚めると静寂の中孤月が力強く輝いていたんだよ。
いつもなら綺麗だと素直に思えるのだが、今は月の光と対称的な自分の姿、形、心、全てが気持ち悪い。
ふと腕時計に目をやると、既に針は12時を超えていた。そんなにも寝てしまっていたのか。
雨の日のスーツは動きにくいし、蒸れてイライラする。
とりあえず今日は歩いて帰ろう。明日にはあなたの家に向かわないと行けないからね。タクシーを使えって?この時代にタクシーは無いよ。
傘は忘れてしまった。濡れて帰ろう。暗い社内はいつもと違って黒い絵の具で塗りつぶされたかのようだ。僕はそっちの方が好きだよ。
幸いにも鍵当番は僕だったおかげで閉じ込められずにすんだ。
戸を開けるいなや、雨音が激しく聞こえた。
「思ったより降ってるな。これは参った。」
まぁそれでも歩かなくてはならない。雨特有の生暖かい空気のなかで、昨日の出来事と共に歩いた。
町はずれた所に僕の家はある。少し汚いボロアパートだ。きっと雨漏りしているはずだ。
1時間くらい歩いたら家が見えてきた。小さな電灯にハエがたかっている。
その下に小さな猫さんがいたんだ。小さな割に立派な風貌で、力強い瞳をしている。僕よりもよっぽど多くのことを経験してると悟った。だがその瞳の中は孤独でいっぱいだった。
「やぁ。猫さん。そこは寒かろう。ほれ、着いておいで。」
僕もよく分からないが声をかけてしまった。動物は言葉が分からないのにね。人とは全くおかしなものだな。
猫さんの前を通り、着いてきたかと後ろを向いたが、ずっとそこに佇んでいる。
その時僕は気づいたんだ。ただの偽善だって。勝手にこの猫さんが可哀想な奴だと決めつけて、助けてやろうとした。きっとこの猫さんはそんな事むさくるしく感じただろうに。
あぁ。いや、そうか動物は言葉が分からない。だから着いてこなかった。それだけだ。
僕はアパートの階段を踏みしめて叫びそうになった。この世の中が苦しい。
ぼくはあなたの近くで孤独を感じていたい。